SSブログ

異動辞令は音楽隊 [映画]

 阿部寛さんは好きな俳優さんです。ですから期待して観に行きました。
 で、その結果は・・・うーん、つまらなくはなかったけど、事前の予想とはかなり違ってましたね。あと、いろいろモヤモヤしたこともあって。
idojirei.jpg

 そのあたりは後で書くとして、まずは映画の紹介から。
 以下は公式サイトの文章の転載です。


 犯罪撲滅に人生のすべてを捧げてきた鬼刑事・成瀬司(阿部寛)。
 だが、コンプライアンスが重視される今の時代に、違法すれすれの捜査や組織を乱す個人プレイ、上層部への反発や部下への高圧的なふるまいで、周囲から完全に浮いていた。
 遂に組織としても看過できず、上司が成瀬に命じた異動先は、まさかの警察音楽隊! しかも小学生の頃に町内会で和太鼓を演奏していたというだけで、ドラム奏者に任命される。
 すぐに刑事に戻れると信じて、練習にも気もそぞろで隊員たちとも険悪な関係に陥る成瀬。だが、担当していた強盗事件に口を出そうとして、今や自分は捜査本部にとって全く無用な存在だと思い知る。
 プライベートでも随分前に離婚、元妻と暮らす高校生の娘にはLINEをブロックされてしまう。
 失意の成瀬に心を動かされ手を差し伸べたのは、〈はぐれ者集団〉の隊員たちだった。音楽隊の演奏に救われる人たちがいることを知り、練習に励む成瀬と隊員たち。
 ところが、彼らの心と音色が美しいハーモニーを奏で始めた時、本部長から音楽隊の廃止が宣告される・・・。


 阿部寛をはじめ出演する俳優陣がいかに楽器の練習に打ち込んだかとか、演奏シーンの出来が素晴らしいとか、けっこう評判はいいようです。
 また、意に沿わぬ異動で意に沿わぬ仕事に回され(私にも経験がある)、家庭も崩壊し、ふてくされた男が、ゼロから再生を果たしていくドラマとしてもよくできていると思います。

 そのあたりの好評な感想については、ほかのSNSにもたくさん上がってると思うのでそちらに当たっていただいて・・・

 私は、この作品を観ていてモヤモヤするところがありました。
 主なものは三つ。それを書いて見ようと思います。
 いちゃもんをつけようという意図はないのですが、この映画を気に入った方には不快に思われるかも知れません。あらかじめお断りしておきます。


 一つ目は主人公の描き方について。

 「涙と笑いの人生大逆転エンターテインメント」これがこの映画のキャッチコピーなんですが、「笑い」の部分は少ないように思います。
 TVの番宣なんか見てると、コメディ部分を前面に出してるみたいに感じましたが、映画はシリアス要素が予想外に大きくて、笑えない要素が多々。

 冒頭から描かれるのはアポ電強盗。一人暮らしのお年寄りを狙うグループで、犯行の凶悪ぶりには恐怖とともに怒りを覚えます。
 そしてそれを主役の成瀬刑事(阿部寛)が捜査するのですが、これがまた粗暴で高圧的な人間にしか見えません。
 怪しいチンピラには容赦なく暴力を振るう、上司には楯突く、同僚後輩には暴言の嵐。パワハラで告発されるのももっともです。
 家庭も顧みないので妻は去り、娘とも連絡が取れない状態に。昭和の映画やTVドラマでは存在が許されたかも知れませんが、令和のこの時代ではレッドカードで一発退場でしょう。
 異動させられた音楽隊でも嫌々やっているのが丸見えで、ハッキリ言って、観ていて全く感情移入できない人物になってます。
 そしてこの状態が映画の冒頭から1/3くらいまでは続きます。

 その彼が、中盤からは自分の境遇を受け入れて変わっていきます。
 もちろん、”更生”(笑) した後の成瀬はとても魅力的な人物に変貌します。観客はここに来てやっと安心することができますが、そこにいくまでが私にはかなり長く感じました。


 二つめは警察音楽隊の描き方について。

 成瀬が異動した音楽隊は、ほとんどの隊員が他の業務(交通課や機動隊、自動車警ら隊など)との兼務。だから隊員が全員揃わないことも多く、フルメンバーでの練習もなかなかできません。

 ネットで検索したら、大規模な自治体(=警官数も多い)では、音楽隊員は専属のようです。例えば神奈川県の警察音楽隊は年間で160回も演奏活動してるってあったので、そもそも兼務なんて不可能でしょう。
 映画みたいな、他の業務と兼務している音楽隊は小規模自治体(=警官数が少ない)に多いようです。

 でも、兼務音楽隊を ”はぐれ者の集まり” みたいに描くのは如何なものでしょう。音楽隊への熱意についても濃淡があり、成瀬のように必ずしも音楽隊希望でない者もいて、仲間同士での諍いも絶えません。
 まあ、そういう ”寄せ集め” が次第にまとまっていき、終盤で大きな働きをする、って展開が映画としては盛り上がる、ってのは分かるつもりですが。

 でも実際、警察官の業務を兼任しながら音楽隊をやるのは、時間のやりくりはもちろん、とてつもない熱意と努力と滅私奉公が必要なのではないかと推察します。この映画での兼務音楽隊の描き方は、現場の音楽隊員さんからすれば不本意なのではないかと心配になってしまいました。
 まあラストでは音楽隊が大活躍するのでそれでOK、ということなのでしょうけど・・・


 そう思った理由の一つは、先日『新任巡査』(古野まほろ・新潮文庫)という本を読んだことにあります。
 元警察官で、交番勤務を振り出しに最後は警察大学校の教官まで務めた著者によるミステリなんですが、内容の2/3くらいは新人警官の交番勤務における研修の日々を描いたものです。これだけでも警察官の仕事が如何に激務なのかがよく分かります。
 この本を読むと、業務内容によって仕事量に多寡はあるでしょうが、それでも警察官が兼務をするというのは並大抵のことではなかろうと推察されます。


 三つめは、映画のラストについてです。未見の人はご注意を。


 映画というフィクションに、どこまでリアリティを求めるのかは作品によるでしょう。この作品に対して「法律がどうの」「管轄がどうの」とか文句を言うのは ”野暮なこと” だと百も承知なのですが・・・

 終盤では、アポ電強盗のボスを捕まえる話が展開します。

 観ていてまず思ったのは、これは ”おとり捜査” じゃないのかなぁ?ってことでした。”おとり捜査” にはかなり制約があって、麻薬事件とかごく一部にしか適用されないんじゃ・・・?
 でも、振り込め詐欺なんかでは、電話を受けた一般人を ”おとり” にして犯人を捕まえたって話も聞きますし、このレベルならOKなのかも知れません。

 でも、演奏をしている音楽隊員がステージを離れて ”強盗のボス” の捕縛に繰り出していくのはマズくないですか?
 周りには刑事課の私服警官がいるのに・・・?

 あともう一つだけ。

 ラスト直前、コンサート会場に向かう音楽隊のバスが渋滞に巻き込まれて止まってしまうシーン。かつての成瀬の同僚・坂本(磯村勇斗)が、サイレンを鳴らしながらパトカーで先導して渋滞を突破していきますが、これ、厳密に言ったら職権乱用ですよねぇ。

 法律を守るべき立場の現実の警察だったら絶対やらないことだろうし、マスコミに漏れたらけっこう物議を醸すだろうし、一般市民からもけっこう反感を買うんじゃないでしょうか? まあ映画だからこその演出なのでしょうけど。

 私はこのとき、音楽隊員が楽器を持ってバスを降りて、歩道でチンドン屋(死語)みたいに演奏しながら、沿道の人々と交流しつつ、のんびりと会場に向かう、って展開を予想したんですけど、見事に外れました(笑)。
 まあ、そもそも歩道に人がたくさんいたらできないことだし、これだって厳密に言えば道路交通法違反でしょうけど、コンサートには遅れても一般市民からの反感は遙かに少ないと思うんですけどね。


 映画というフィクションを成立させるには、いろいろ現実に目をつぶらなくてはいけないところがあるでしょう。
 まあ人の評価はそれぞれなので、上記の点が全く気にならない人もいるのは分かります。だけど、私にとっては ”気になってモヤモヤした” 映画でした。


タグ:日本映画
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント