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貸しボート十三号 [読書・ミステリ]


貸しボート十三号 (角川文庫)

貸しボート十三号 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/02/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 横溝正史復刊シリーズの一冊。
 文庫で100ページを超える中編を3作収録している。

「湖泥(こでい)」
 舞台は岡山県の山間のY村。三方を山に囲まれた人工湖を中心に北神家と西神家という二つの旧家が勢力を争っている。
 村の娘・御子柴由紀子と北神家の息子・浩一郎との間に縁談が持ち上がるが、そこへ割って入ったのが西神家の息子・康雄だった。
 両家の綱引きが続く中、由紀子が失踪してしまう。隣村の祭りへ出かけ、その帰りに消息を絶ってしまったのだ。
 村を挙げての捜索が行われ、湖畔の水車小屋から由紀子の絞殺死体が発見される。しかし、なぜか彼女の左目がえぐり取られていたのだ・・・
 横溝作品の中で、『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』など、地方の旧家を舞台にした系列に入るが、中編ながら伝奇的要素も十分でなかなかの読み応え。
 金田一耕助が明らかにする真相では、地方の農村に隠された因習や偏見、そして戦争の影響まで明らかにされる。なにせ、終戦からまだ10年経っていない時代(本作の発表は昭和28年)だからね。

「貸しボート十三号」
 舞台は東京。隅田川の河口に近い浜離宮庭園近くで発見された貸しボートの上には、男女2人の死体があった。女は40代、男は20代。しかも2人とも、首の半分ほどまでノコギリで切断されかかった状態になっていた。そして死因は首の切断ではなく、女は絞殺、男は心臓への刃物のひと突き。
 やがて被害者の身元が判明する。女は中央官僚である大木健造の妻・藤子、男は健造の娘・ひとみの家庭教師でX大学の学生・駿河穣治。
 駿河はX大学のボート部に所属し、ボート競技のチャンピオンでもあった。
 捜査が進む中、駿河と他のボート部員との間に、ある種の ”葛藤” があったことが浮上してくるのだが・・・
 冒頭では、極めて不可解な死体の状況が描かれる。さらに中編にしては多めの登場人物たちが事態を錯綜させる。
 しかし金田一耕助の推理は、彼ら彼女らが事件の夜にとった行動を一人一人明らかにして、”謎の状況が発生した経緯” を綺麗に解き明かしてみせる。
 このあたりの ”交通整理” の巧みさは特筆もので、十分に納得できる。”ベテランの味” とはこういうものをいうのだろう。

「墜(お)ちたる天女」
 東京の中でも交通量の多い交差点。中学2年生の遠藤由紀子は、社会科研究の一環としてクラスメイト3名とともに交通量調査をしていた。
 そこにやってきた一台のトラック。障害物に乗り上げて荷台から箱が滑り落ちてしまうが、そのまま走り去ってしまう。
 落とされた箱の中から発見されたのは石膏の像。その中には女性の死体が塗り込められていた。被害者は浅草の劇場に出ているストリッパー・リリー大木。
 彼女はかねてから自分が同性愛者であることを公言していたが、最近になって中河謙一という芸術家と深い仲になっていて、周囲からは ”墜ちたる天女” と呼ばれてからかわれていたという・・・
 さらに第二第三の事件が起き、金田一耕助が解決に乗り出す。遠藤由紀子から新たな証言を得て、さらに岡山県警の磯川警部が助っ人として登場する。彼が警視庁の等々力警部と対面を果たすのはファンサービスの一環だろう。
 同性愛に対する描写は、現代のLGBTQの観点から見るといささか偏見が過ぎるとも思うけど、本作の発表は昭和29年だからね。当時はそのように見られていた、ということだろう。



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