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かがみの孤城 [読書・ファンタジー]

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫)

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
かがみの孤城 下 (ポプラ文庫)

かがみの孤城 下 (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

主人公・安西こころは雪科第五中学校へ入学するが、
彼女の学校生活は、最初の1か月で断ち切られてしまう。
クラスメイトからいじめを受けるようになり、不登校となったのだ。

家に引きこもっていたこころだったが、
ある日突然、部屋にある姿見の鏡が光り始めた。
鏡に手を当てたこころは、そのまま鏡の中に引きずり込まれてしまう。

鏡の向こうにあったのは、城のような建物の内部。
そこには彼女と同じように6人の少年少女が集められていた。

中学3年のアキとスバル、2年のフウカとマサムネ、
1年生はこころの他にリオンとウレシノ。
総勢7人のうち、こころ・アキ・フウカが女の子だ。

そしてもう一人、オオカミの仮面をつけた幼い少女が。
その ”オオカミさま” は告げる。

城のどこかに鍵が隠してある。
それを見つけて、”願いの部屋” に入ることができた者1人だけが
1つだけ願いを叶えることができる、と。

お前たちはここで鍵を捜すことになる。
期限は来年3月30日まで。
しかし誰かが鍵を見つけた時点で ”ゲーム” は終了、
期限を待たずに城は閉ざされてしまう。

城は毎日、午前9時に開き、午後5時に閉ざされる。
その間は何度でも出入り自由だが、
午後5時には必ず城から出なくてはならない。
期限を過ぎても城に残っていると、”狼に食べられてしまう”、と。

そしてこころは気づく。
ここに集められた7人は、みな学校に行っていないことに。

かくして、7人の中学生による奇妙な共同生活が始まる。

昼は ”鏡の城” で過ごし、夜は各自の家で暮らす。
7人は次第に打ち解けていくが、諍いもまた生じる。
それは彼ら彼女らが学校では得られなかった、
同世代の仲間との体験の時間でもあった。

こころは最初、彼女を虐めた首謀者の生徒がいなくなることを願って
鍵を捜していたが、やがて他のメンバーと一緒の時間を過ごすことが
貴重なことのように感じられるようになり、
この時間が少しでも長く続くことを望むようになっていくのだが・・・

前半は、こころを初めとする7人の城での生活ぶりが語られ、
それぞれのメンバーの抱えた事情も少しずつ明らかになっていくが
主にこころが受けたいじめの内容が、随時挿入されていく。
このあたり、胸が痛んで読み進めるのが辛い場面も多々ある。

しかし、7人が一緒に生活する中で、少しずつ変化も生じていく。
7人だけの世界から、次第に外の世界へと目を向け始める。
本書は、基本的にはこの7人の成長の物語になっている。

ほとんどのシーンが一つの建物の内部で進行し、
ストーリーも比較的ゆったりと進むのだが、
終盤になると一気に緊張感が増し、結末へ向かって怒濤の展開となる。
同時に、城に秘められた様々な謎も一気に解明されていく。

「いじめ」や「不登校」など、扱っているテーマは重く暗いものだが
ラストシーンでは大きな感動が待っている。

本屋大賞受賞も頷ける傑作ファンタジーだと思う。

読書録としてはこれで十分かと思うのだけど
以下、ちょっと余計なことを書く。
致命的なネタバレはしてないと思うんだけど
未読の人は要注意。

半分くらい(文庫なら上巻の最後あたり)まで読んだら、
この物語の基本設定の大枠について、
見当がつく人も多いんじゃないかと思う。

この7人は○○○○○○○○○○○○んじゃないか? って。

 もっとも、これについては伏線もわかりやすいので、
 作者もあんまり隠そうとしてはいないみたいだ。
 読者に気づかれることは織り込み済みなのかも知れない。

そして、そこからまた新たな想像が膨らんでいく。
○○○○○って、実は○○だったんじゃないのか? とか。

 とはいっても、この物語がどんな結末を迎えるかは
 中盤の時点では全く予想の欠片もつかめないんだが(笑)。

たぶん、多くの読者は上の2つくらいまでは
気づく、あるいは想像がつくだろう。

じゃあ、ここまでバレてしまっていたら、
結末の感動が薄れてしまうんじゃないのか?・・・って
心配になるかも知れないが、全くそんなことはない。

最も根本的な ”謎”、というか、
読んでいていつの間にか「謎」だという意識すらしなくなっていた部分が
物語の最終盤、ここぞというところで明かされるのだけど
これが実に意外なもので、かつ大きな感動を呼ぶ。

 振り返ってみると、これについてもきちんと
 伏線は張ってあったんだけどねぇ・・・全くわからなかったよ。

 まさに「肉を切らせて骨を断つ」。
 大リーグボール2号の秘密を80%まで解きながらも
 残り20%のために敗北してしまう花形満の心境だ。

  いやぁ、例が古すぎるねぇ・・・
  それにこの例えは他の記事でも使った記憶があるぞ(おいおい)。

各キャラクターたちの ”その後” についても心憎い演出がある。
具体的に語られる者と、示唆に留められる者とがいるけれど、
語られなかったキャラたちも
逃げずに自分の人生と向き合っていくであろうことが想像できる。

そして、作者が主人公・こころに用意した ”終着点” は実に素晴らしい。
そうだよねぇ、あんなに苦しんで、あんなに頑張ったんだから、
これくらいのことはあってもいいよねぇ・・・(泣)。


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