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午前零時のサンドリヨン [読書・ミステリ]


午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)

午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第19回(2009年度)鮎川哲也賞受賞作。

高校に入学した須川は、クラスメイトの
酉乃初(とりの・はつ)に一目惚れしてしまう。

しかし彼女は、学校ではひとりぽつんと過ごし、
他人とほとんど交わらない孤高の雰囲気を漂わせていた。

そんなある日、須川は大学生である姉に
レストラン・バー『サンドリヨン』に連れられていく。

そこでは初がアルバイトとして働いていた。
しかも、客を相手に鮮やかなマジックを披露していたのだ。
昼間の彼女とはうって変わり、明るく朗らかにカードを操る初。

縮まりそうで縮まらない須川と初の関係、
そんな二人の前で展開する学校内の ”事件” を描いた連作短編集だ。

ちなみに「サンドリヨン」とは「シンデレラ」のフランス語表記。
そして「午前零時」はシンデレラにかけられた魔法が解けてしまう時刻。
”マジック” と ”魔法”、似て非なるこの2つの言葉は
作品中で何度も現れることになる。


「空回りトライアンフ」
放課後、図書室へ行くという初についていった須川。
二人はそこで、本棚の本が一段だけ、
すべて裏返し(背表紙が奥側)になっているのを発見する。
しかも真ん中にある本だけ、通常の向きに入っている。
初はその理由を解き明かすのだが・・・

「胸中カード・スタップ」
初は図書委員の慶永から上級生・柏の誕生祝いのために、
マジックを披露するように頼まれる。
初は、音大を目指す柏が練習している音楽室でマジックを終えるが
須川と共に帰宅する途中、マジックで使用したナイフを
音楽室に置き忘れたことに気づき、学校へと引き返す。
そこで二人が見たものは、誰もいない音楽室の机に突き立てられたナイフ。
そして机の表面には ”f” を3つ連ねたような傷が刻まれていた。
しかし音楽室の前の廊下で映画を撮影していた映研部員によると、
音楽室に出入りした者はいないという・・・

「あてにならないプレディクタ」
手帳を落としてしまった須川は、学校へ落とし物として届けられて
保管されている手帳を確認させてもらうことに。
その中には、生徒5人の名前と数字がメモ書きされていた。
そこに現れた飯倉静香が「それ、私のです」と申し出る。
よく当たる占いをするとして有名な女子生徒だ。
翌日、英語試験の成績上位5名が発表されるが
それは飯倉の手帳にメモされていた生徒であり、数字は得点だった。
しかしその手帳は、試験前から落とし物として
専用ケースの中に保管されていたもの。
須川に尋ねられた飯倉は「藤井彩香が教えてくれた」と答える。
藤井彩香とは、須川たちが入学する前年に
校舎の屋上から投身自殺した女性生徒の名前だった・・・

「あなたのためのワイルド・カード」
学校が管理する公式サイトの掲示板に、
”藤井彩香” の名で投稿があった。
文面は「もちろん。わたしはあなたをゆるさない」
当然ながら、彩香本人のIDとパスワードを知らなければ
書き込みをすることはできない。
折しも、「校舎の屋上に佇む女子生徒」の目撃談が流布しており、
ほかならぬ須川までもが ”幽霊” らしき姿を目撃する・・・


第2話「胸中ー」から、メインのストーリーと並行して
藤井彩香に関する ”噂話” が語られてきて、
最終話に至ってその謎が解明される。そのための伏線が
「空回りー」から「あてにー」までの間に散りばめられており、
4つの連作短編で1つの長編を形成していたことも明らかになる。


実は第3話を読み終わった時点で私の評価は「星2つ半」だった。
その理由は、どうにも主役二人に馴染めなかったから。

まずヒロインの初が一筋縄ではいかないお嬢さんなのだ。
彼女が得意とするマジック、それはもちろん素晴らしいものなのだが
それが彼女を幸福にしたか、といえば一概にそうとは言い切れない、
そんな事情が明かされていく。さらには中学校時代の出来事もあり、
彼女の内面は実に複雑に屈折していて、
こんなに情緒不安定な探偵役も珍しいだろう。
だから、そう簡単に須川くんに心を開けるわけもない。

その須川くんだが、優柔不断で意気地がなく不器用そのもの。
もちろん女の子の扱いなんて不得手の極致(ひどい言われようだね)。
初に対しても、彼女の抱える ”地雷” を踏みまくりで
「それを言っちゃあ、おしまいよ」な台詞を連発していまい、
読んでいる方が頭を抱えてしまう(笑)。

それだけ作者のキャラ造形が上手いということなんだけど
”上手い” と ”好きになれる” はイコールではない。

 だけど、考えてみれば二人は高校1年生。
 まだまだ ”子どもの要素” を残している年頃だからねぇ。

さらに、いかにもライトノベルな語り口なのだけど
初が ”謎” を解いても ”事件” は解決しない。
そもそも人間関係や家庭の事情に根ざした問題には ”解” は存在しない。
そういうダークな部分に、初も須川も打ちのめされてしまう。
「スカッと爽やかな学園ミステリ」を期待するとアテが外れる。


さて、「星2つ半」だった評価は、最終話を読んでいるうちに
「星3つ」へと昇格した。それはもちろん、
全体を貫く仕掛けが明らかになって、それまでに登場してきた
キャラたちの裏にあったドラマを知ることができたから。

そしてラストの十数ページを読んでいるうちに、
さらに「星3つ半」へと昇格した。

4つの ”事件” を通じて、
須川は少し大人になり、初は少し素直になった。
そんな二人の成長が描かれて本書は終わる。

 いままでダメダメだった二人がシャンとするのが
 ちょっと唐突な気もするが、そこは目をつぶりましょう(笑)。

本書の惹句にもあるが「ボーイ・ミーツ・ガール」で始まった物語は
ここに至って「ラブ・ストーリー」に変化していきそうな兆しを見せる。

本書には続巻「ロートケプシェン、こっちにおいで」があって
これも手元にあるので、近々読む予定。

ちなみに「ロートケプシェン」とは「赤ずきん」の意味らしい。

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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-02-13 00:01) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-02-13 00:01) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-02-13 00:02) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-02-13 00:02) 

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