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夜歩く [読書・ミステリ]


金田一耕助ファイル7 夜歩く<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

金田一耕助ファイル7 夜歩く<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01

※本記事中、人権擁護の観点から不適切な単語・表現を使用していますが、対象の小説(初出は1948~49年)中で用いられた内容をそのまま引用しています。
 差別的な意図はないことをご理解ください。


 資産家・古神(ふるがみ)家の美貌の令嬢・八千代。彼女の元へ舞い込んだ手紙には「われ、近く汝のもとへ赴きて結婚せん」と記され、顔の部分が映っていないせむしの男の写真が同封されていた。やがて彼女の結婚相手を巡る連続殺人事件が始まる・・・

* * * * * * * * * *

 岡山県と鳥取県の境あたりを領していた古神家は、明治の世になって華族に列せられた。他の貴族の多くが没落していく中、古神家は家老として代々仕えてきた仙石(せんごく)家の才覚で、いまだに多くの資産に恵まれていた。

 古神家の先代当主・織部(おりべ)は数年前に亡くなり、先妻の息子・守衛(もりえ)と、後妻のお柳(りゅう)とその娘・八千代が残された。
 現在、家老として古神家の諸事万端を取り仕切っているのは仙石鉄之進(てつのしん)。

 ストーリーの中心となるのは鉄之進の息子・直樹(なおき)と、彼の学生時代からの友人で探偵小説作家の屋代寅太(やしろ・とらた)。
 屋代は本作の記録係兼語り手でもある。

 冒頭、銀座での銃撃騒ぎが語られる。キャバレー『花』に素敵な美人がやってきた。三人の取り巻きと共にさんざん飲んでいた彼女の前に、新進画家の蜂屋小市(はちや・こいち)がやってきた。彼の顔を見た美女は顔色を変え、ハンドバッグから取り出した拳銃で小市を撃ってしまう。さいわい、小市は怪我はしたが命に別状はなかったが。

 撃った美女は逃げきってしまったのだが、直樹によるとこれが八千代だったという。彼女には生来、夜中に歩き回る習性(いわゆる夢遊病)があり、その間のことは全く覚えていないのだという。
 本書のタイトル『夜歩く』はここに由来する。

 この事件の直前に、彼女のもとに「われ、近く汝のもとへ赴きて結婚せん」と記された手紙が届き、そこには顔の部分が映っていないせむしの男の写真が同封されていた。蜂屋小市もまたせむしであったことから、八千代はこの事件を起こしたのではないかと直樹は言う。

 さらに、古神家はせむしが多く生まれる家系であり、八千代の兄の守衛もまたせむしだという。彼女自身はせむしではないが、これには理由があって、実は直樹の父・鉄之進と織部の妻・お柳の間の不義の子が八千代なのだという。

 ところが鉄之進は、八千代と直樹を結婚させようと画策しているらしいし、妹と血縁のないことに薄々気づいている守衛まで、八千代に触手を伸ばし始めているという。

 さらに古神家には、織部の異母弟の四方太(よもた)という男が、四十を超えても定職に就かずに居候している。それに加えて最近、鉄之進は酒乱の気が出てきている。
 直樹に言わせると古神家は "魑魅魍魎の巣窟" だというが、その直樹からして屋敷の離れに愛人を囲っているというから人のことは言えない。

 とにかく、よくまあここまで無茶苦茶な人間の集まりを設定した、というか思いついたものだ。横溝正史のミステリの舞台となる "旧家" はいろいろあるが、異様さという点ではピカイチだろう。

 そして殺人が起こる。最初の犠牲者は首のない死体。身体はせむしだったのだが、小市も守衛も背格好が似ており、二人とも姿を消してしまったため、これだけではどちらの死体か判別できない。そしてさらなる連続殺人が・・・


 本書は、屋代が事件をまとめた「手記」の形で進行していく。前半部では古神家の異様な実態や、連続する殺人の残虐さがこれでもかと強調されて綴られていく。
 金田一耕助の登場が中盤からと遅いのは、横溝がこの前半部をじっくり描きたかったからかも知れない。もちろん彼が登場してからは、もつれた糸が綺麗にほぐされて、真犯人の遠大な計画が明らかになっていく。

 横溝正史の作品の中ではマイナーな部類に入るかも知れないが、登場キャラのぶっ飛び度ではトップクラスだろう。



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嘘があふれた世界で [読書・その他]


嘘があふれた世界で(新潮文庫nex)

嘘があふれた世界で(新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/02/28

評価:★★☆


 平成生まれの作家6人+杉井光(『世界でいちばん透きとおった物語』作者)による7編を収録した短編集。

* * * * * * * * * *

「かわうそをかぶる」(浅倉秋成)
 カワウソをイメージしたキャラクターを "かぶって" 活動している人気VTuber・天露(あまつゆ)ゆゆ。彼女と交際しているという噂のあった人気音楽クリエイター「うみの」こと野村海斗(のむら・かいと)が刺殺されるという事件が起こった。犯人は22歳のフリーターで、ゆゆの熱狂的なファンだったらしい。
 幼少期から人気VTuberになるまでの屈折した半生が、ゆゆの独白によって綴られていくのだが・・・
 virtual と real の境目があやふやな現代だが、送り手にとってもそのギャップが苦痛になることもあるかもしれない。


「まぶしさと悪意」(大前栗生)
 15秒の動画が投稿、配信できるアプリ・TipShot。私立布川名和手(ぬのかわなわて)高校に入学してきた赤羽海荷(あかばね・うみか)は、TipShotに投稿した動画が一週間で100万回再生を突破し、一躍人気者となった。学校内では彼女に追随するものが続出し、布川名和手高校は「TipShot強豪校」と呼ばれるようになった。
 しかし3年生に進級した海荷は動画投稿を停止してしまう。若手教師・鮎田小恵子(あゆた・さえこ)は海荷からその理由を聞き出そうとするのだが・・・
 ネットの人気者は憧れの対象なのだろうが、身近な人がそれになってしまうと周囲の人間は平穏ではいられなくなってしまう。それもまた人の情。


「霊感インテグレーション」(新名智)
 霊能力者と相談者のマッチング・サービス(おいおい)を提供するアプリ『スピスタ』。しかしこのアプリによって霊能力者・天津琉依子(あまつ・るいこ)が複数のユーザーから誹謗中傷を受け、自殺したという。
 しかしその後、彼女のアカウントからプッシュ通知(ユーザーに対するお知らせ機能)が届くようになった。そこには誹謗中傷に加担した者の氏名や、その者に対する呪詛の言葉が書き連ねてあるらしい。
 主役は『スピスタ』のメンテナンスを請け負ったソフト会社ピーエム・ソリューションズの社員・多々良。若いが複雑な経歴を持つ彼女がこの謎を巡る騒ぎに巻き込まれていく。
 アプリの謎よりも、多々良さんの出自の方がよっぽど謎だったりする。彼女の話をもっと読みたくなったよ。彼女を主役にした連作とか、ないのかな?


「ヤリモク」(結城真一郎)
 40代のイケメンである ”僕” には、大学生の娘・美雪(みゆき)がいる。最近、外泊が多くなり、身の回りに派手で高価な物が増えてきた。ひょっとしたら何か良からぬことを・・・
 娘の素行を心配しながらも、"僕" はマッチングアプリで女を漁っている(おいおい)。今夜も女子短大生を "お持ち帰り" しようとしているのだが・・・
 ラストはいろんな意味で予想外の展開。


「あなたに見合う神様を」(佐原ひかり)
 主人公・亜子(あこ)は、クラスメイトの権藤(ごんどう)さんと親しくなった。彼女はダンス系YouTuberのWataruの大ファンで、それが高じて自分でもダンスの動画をアップし始めていた。
 亜子は、学校の友人関係では同調圧力に晒され、家庭内では父と妹の不和に板挟みになっている。唯一のよりどころだったのが権藤さんだったのだが・・・
 現代の女子高生って、オジサンには想像もできないたいへんな環境で生きているんだ・・・ってのが分かる一編。


「タイムシートを吹かせ」(石田夏穂)
 "私" は過去3年間、会社の給与システムに違法アクセスしてタイムシートを改竄し、残業代を水増ししていた。
 3年前、現場一筋だった「レジェンド」社員が65歳になったのを機に本社勤めとなり、"私" の隣の席となった。彼の長大な自慢話につき合い、セクハラ発言に耐え、IT音痴の彼がPCを扱うときはほとんどつきっきりで世話する "介護" 状態。その腹いせからタイムシートをイジるようになったのだが・・・
 作中の「レジェンド」はかなりデフォルメされてるが、程度の差はあれ、彼のような人物はどこにもいるだろう。退職直前の私もそうだったのかもなぁとちょっと反省。


「君がため春の野に」(杉井光)
 長編『世界でいちばん透きとおった物語』のスピンオフというか後日談。ストーリー的には独立しているけど、もちろん『世界で-』を読んでいた方が、より楽しめるだろう。
 父親の死をきっかけに巻き込まれた騒ぎを小説化し、作家デビューしてしまった "僕"。作家としての未来がかかった2作目だが、編集者の深町霧子さんの指導のもと、無事にアンソロジー用の新作短編を脱稿した。
 そのアンソロジーの選者から食事会に誘われた "僕" は、そこで奇妙な話を聞く。ミステリ好きで有名な人気アナウンサー・薗田芹香(そのだ・せりか)は、夫でベテラン推理作家だった橋爪錬太郎(はしづめ・れんたろう)を亡くした。
 しかし夫のSNSアカウントはまだ動いていて、未だに "つぶやき続けている" のだ。それも、いかにも "夫がつぶやきそうな内容" なのだという。アカウントのパスワードが分からないため、芹香の手で止めることもできない。
 "僕" をはじめ、会の参加者たちであれこれ推理を巡らすが決定打は出ない。しかしそれを聞いた霧子さんは・・・
 『世界に-』を読んで "僕" の行く末を心配した人(私もだ)は、本作を読んでちょっぴり安心するだろう。



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『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略』特報第二弾 [アニメーション]


 去る4月18日、公式サイトに特報第二弾が公開されました。


これを見て、つらつら考えたことを書いてみると

○宇宙の彼方から迫り来る謎の巨大物体。
・これが「グランドリバース」なるモノでしょう。
 旧作では「重核子爆弾」だったよね。

○何かの残骸の間を抜けて進む謎の巨大物体。
・残骸が緑色に見えるところから、第11番惑星付近の
 ガトランティス艦隊の残骸かな。地球艦隊のものかも知れんが。

○女性の瞳のアップ
・真田の姿が映っていることから、たぶんサーシャ。

[台詞]早紀「何かが地球に迫りつつある。とてつもない何かが」

○土門、南部のアップ

○攻撃する地球艦隊。しかし効果は無い模様。
・アスカか、その同型艦かと思われる。

[台詞]「拡散波動砲が効かないなんて」
・いやあ、ゴルバにデスラー砲(≒収束波動砲)が効かなかったんだから、
 拡散波動砲が効果がないのもむべなるかな。

○何かのコンソールを前にした島。
[台詞]島「最初からバグが仕掛けられていた?」
・これが今回いちばん謎の台詞。

○地球に降下していく巨大物体。
・こういうふうに機体が展開するんですねぇ。 

○巨大物体に向かう地球艦隊。指揮艦は北野兄?

[台詞]古代「予備役となったヤマトは一線から外され、クルーもバラバラに」
[台詞]早紀「でも、それには意味があった」
・来るべきデザリアムの地球侵攻に備えての布石・・・だよねぇ・

○攻撃するデザリアム艦。被弾する地球艦隊

○腕立て伏せ?してるキャロライン、森雪

○艦首を回す銀河。
・艦首の「銀河」の文字は「GINGA BBY-03」へと変更
 漢字は不評だったみたいだからか(笑)。

○都市部上空の巨大物体、見上げる人々の中には加藤真琴さんと翼くん。
・真琴さん、アホ毛が復活した?

[台詞]アナライザー「集結せよ、集結せよ」
・おお、アナライザーも復活ですね

○防衛軍本部? 藤堂、芹沢、森雪、星名とその嫁さん、

○古代のアップ、そして太陽、タイトル
・この太陽、ぱっと見で普通じゃなく感じるのは気のせい?

○最後は、いずこかにいるヤマト。
・小惑星イカルスでしょうか?

[台詞]アナライザー「ヤマト艦隊クルーは集結せよ」


 全体的に、旧作『ヤマトよ永遠に』の流れを汲んでいるみたいですけど、わずか30秒ばかりではなんとも言えませんね。何らかの新要素、新展開を入れてくることは間違いないところ。期待しましょう。


 今更ですが、3月24日にも公式サイトが更新され、「CHARACTERS」「MECHANIC」に情報が追加されてますので、こちらについてもちょっと書いてみる。


「CHARACTERS」

■新キャラ

○北野誠也
 北野哲の兄さん。2199年には負傷していて「ヤマト計画」へ参加できず、いまは防大の教官。
 CVは鳥海浩輔さん。「シドニアの騎士」の弦打攻市とか「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」の名瀬・タービン役を演じてた人だね。

○揚羽武
 飛行科トップの天才ながら、防大を中退して姿を消す。なんか行方不明者多くないですか「3199」(笑)。
 CVは上村祐翔さん。「ダーリン・イン・ザ・フランキス」の主役・ヒロを演じた人ですね。実はそれくらいしか知らない(おいおい)。

○アルフォン
 「3199」でも一、二を争う重要キャラでしょう。旧作での野沢那智さんの美声は忘れられない。
 リメイク版でのCVは古川慎さん。「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のシャディクを演じた人ですね。こっちも女たらしキャラだったからぴったり?

○イジドール
 オリジナルキャラ。CVは堀江瞬さん。うーん、人気声優なんでしょうけど、残念ながらこの人の出演作品は一本も見てないなぁ。ごめんなさい。

○ランベル
 オリジナルキャラ。なんとあの戦艦グロデーズの艦長さん。デザリアム軍のキャラが増えてるということは、彼らの側のドラマもけっこう描かれるということでしょう。
 CVは江口拓也さん。この人はNetflixアニメ「ULTRAMAN」の諸星弾で知ったけど、何といっても「SPY×FAMILY」のロイド役で有名でしょう。


■未発表

 肝心の二人、サーシャスカルダートがまだ未発表ですね。

 旧作でのサーシャ役の潘恵子さんは「2205」に出てたけど、あれはファンサービスだったのでしょう。
 今作でのサーシャ役は誰になるのかな。潘めぐみさんか井上ほの花さんだったら話題にはなるんだろうけど、さて。

 旧作のスカルダートは大平透さん。『マグマ大使』のゴア、『科学忍者隊ガッチャマン』の南部博士とかが思い浮かぶなぁ。トシが分かってしまうが(笑)。
 『スター・ウォーズ』でのダース・ベイダーの吹き替えもやってたよねぇ。かと思えば『ハクション大魔王』とか、シリアスもギャグも硬軟両面を自由自在に演じ分けるスゴい声優さんだった。
 平成の終わりあたりから、昭和の時代から活躍していた重鎮クラスの声優さんの訃報が相次いで淋しい限り。さて、令和のスカルダートを演じるのは誰だ。


「MECHANIC」

○ヤマト
 ”予備役艦隊に編入され、その後、各種テストに用いられる予定だった。
しかし……” 旧作では小惑星イカルス内に隠匿されてましたが、さて。

○アスカ・ヒュウガ
 同型艦が作られているというのは想定内ではあるけど、問題は「3199」でのヤマトが単独行動をするのか、あるいは僚艦と共に艦隊行動をするのか、ですね。
 まあ、今作のヤマトがどこへ向かうのかにもよるかな。旧作みたいに40万光年の彼方にある二重銀河まで行っちゃうのかしら。

○アルフェラッツ
 初期アンドロメダ級の21番艦だとか。ガトランティス戦役を生き残った艦は少ないので大事にするのでしょう。
 でも、太陽系内にはガトランティスの戦闘艦がけっこう残っていそうな気もするけどね。11番惑星付近にはカラクルム級が腐るほど(笑)浮遊してそうだし。その辺を鹵獲して改装、ってわけにはいかないのかな。まあ異星文明の船だからそう簡単ではなさそうな気はするが。

○5式空間機動甲冑
 空間騎兵隊とデザリアム上陸部隊の戦闘は「3199」序盤の見せ場になりそう。

○無人艦隊コマンド艦 グラディエーター / 無人艦隊迎撃艦 エイジャックス
 ガトランティス戦役で人材が枯渇した地球防衛軍の苦肉の策なのか、将来へ向けた既定の路線なのか。
 旧作に出てきた無人艦隊は、暗黒星団帝国軍に秒殺されましたからねぇ。今回はもう少し意地を見せてほしいところ。


 さて、第一章公開まであと三ヶ月。これからもちょこちょこ情報が出てくるのでしょう。
 とにかく今シリーズは、145分映画を26本のTVシリーズにするんだから、時間だけでも(1回23分として)598分。単純計算でも4倍以上の尺があるので、いくらでも膨らませられそう。
 どんな「ヤマトよ永遠に」を見せてくれるのか、期待してます。



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オーパーツ 死を招く秘宝 [読書・ミステリ]


オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 蒼井 碧
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 大学生・鳳水月(おおとり・すいげつ)の前に現れた男・古城深夜(こじょう・しんや)は、なぜか鳳と瓜二つの風貌をしていた。
 自らを "オーパーツ鑑定士" と名乗る古城は、鳳と共にオーパーツがらみの事件に関わっていく。
 第16回(2017年)『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

* * * * * * * * * *

 日本最高峰のS大学法学部の学生・鳳水月は、なぜか自分と瓜二つの風貌を持つ男・古城深夜と出会う。彼は鳳の同級生であり、なおかつ自らを "オーパーツ鑑定士" と名乗った。

 オーパーツ(OOPARTS)とは、Out Of Place ARTificalS の略で、「古代に製作されたものでありながら、当時の技術や知識では実現することが不可能だった工芸品」のこと。
 例えばペルー南部にあるナスカの地上絵とか、イースター島の巨大な人面石像とかを指す。オカルト系の雑誌などで "超古代文明が産みだした物" とか "宇宙人の遺物" とか言われているアレ、といえば想像はつくだろう。

 大学にはろくに顔を出しもせずに鑑定の仕事に走り回っている古城に巻き込まれる形で、鳳も怪事件に関わることになっていく。


「第一章 十三髑髏の謎」
 有名なオーパーツのひとつでである ”水晶髑髏”。
 文字通り水晶を切り出して造られた "水晶髑髏" は全部で13個ある。古代の叡智が宿った水晶髑髏を13個すべて集めたとき、"真の地球の歴史と超古代文明の全貌" が明らかになる、という伝説があるらしい。
 財前龍之介(ざいぜん・りゅうのすけ)博士は、すべての水晶髑髏を集めることに成功したという。その真贋を鑑定するために、古城と鳳は長野県の北部にある博士の別荘へやってきた。
 しかしその財前博士が密室の中で殺されてしまう。しかも遺体の周囲の床の上には、13個の水晶髑髏が円形に配置されていた・・・
 密室トリックは面白いけど、そんなに上手く○○○ものなのかなぁ。


「第二章 浮遊」
 "黄金シャトル" とは、南米でインカ帝国が栄える前の『プレ・インカ』と呼ばれる時代に作られた黄金製の工芸品で、ほとんどは鳥や魚をかたどったものと思われているが、その中のいくつかはジェット機やスペース・シャトルにそっくりの形状をしている。しかも、航空力学的にも問題ない形をしているという。
 考古学者・相馬公博(そうま・きみひろ)とその妻ミランダが自宅で殺された。さらに、博士たちが発掘してきた "黄金シャトル" も盗まれていた。
 現場は施錠された部屋で、二つある部屋の鍵は、遺体が着ていた服から見つかっていた。しかも犯行時刻と思われる時間帯に、現場周辺ではUFOの目撃証言まで出てきた・・・
 こちらの密室は、UFOとの合わせ技で一本と言うところか。
 本作で登場してくるのが古城深夜の姉・古城まひる。職業はなんと警視庁捜査一課の警部補。弟と鳳を取り違えてしまうギャグシーンがあるのだが、この二人はそんなに似ているのか?


「第三章 恐竜に狙われた男」
 鳳は、突然警察に捕まって留置場に入れられてしまう。
 北海道三笠市郊外の別荘で、古生物学者・榊原玄司(さかきばら・げんじ)が殺された。防犯カメラの映像から、出入りした人間はひとりだけ。それが鳳にそっくり(つまり古城深夜)だったことから、彼に疑が掛けられたのだった・・・
 今回のオーパーツは恐竜土偶。遙か昔に絶滅した恐竜を象った土偶を人間が造っていた、というもの。熱狂的な恐竜オタクである古城まひるさんが、延々と蘊蓄を語るシーンがあるのだが、あまり本編に関係しないような気も。
 今回の、人目につかずに現場に出入りするトリックはバカミスに近いだろう。


「最終章 ストーンヘンジの双子」
 ストーンヘンジのような巨石遺跡を再現した『巨石庭園』。私有地のため外部の人間は入れないが、近く園内の鑑賞会が開かれるという。ただし、"双子であること" が参加条件だ。これは所有者の筒井川(つついがわ)亮介・亮平(りょうすけ・りょうへい)兄弟が双子であるかららしい。
 そこで古城と鳳は双子を装って『巨石庭園』にやってくるが、敷地内に建つ本館に見学者一行が宿泊した夜、別館が火災になり、本館では筒井川亮介の死体が発見される・・・
 巨大な○○○○○○○○○ともいうべきトリックには、島田荘司もビックリだろう。


「エピローグ」
 連作短編において、最後に来るとすべての話がつながって一つの大きな絵が見えてくる、という展開はよくある。本書でも・・・といいたいところなんだがよくわからない。
 つなげるならちゃんとつなげてほしいし、つながらないなら変に匂わせたりせずに、別個の話として独立させたままにしておいたほうがいいんじゃないかな。ちょっと中途半端な気がする。
 あと、鳳と古城が他人の空似を超えて瓜二つなところにも、てっきり ”裏がある” って思ってたんだが、どうやらそうでもないような。
 もっともこれは、(あるとすれば)続巻に持ち越しなのかも知れないけど。



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推理大戦 [読書・ミステリ]


推理大戦 (講談社文庫)

推理大戦 (講談社文庫)

  • 作者: 似鳥鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/11/15

評価:★★★★


 日本の大富豪が発見したキリスト教の「聖遺物」。その獲得を目指し、世界各地から名探偵がやってくる。
 舞台は北海道。実施されるのは "競技としての推理"。
 しかし開幕早々、本物の死体が現れる。これもゲームの一環なのか、それとも想定外の "事件" なのか・・・

* * * * * * * * * *

 大富豪・救仁郷進(くにさと・すすむ)が見つけたのはキリスト教の「聖遺物」。天正少年使節団(1582年にヨーロッパへ向けて送り出された)が持ち帰り、のちに海路で函館へ渡ったものだという。
 ところが、かつて江戸川乱歩とも面識があり、ミステリマニアでもあった彼はその所有権を賭けて「推理ゲーム」を行うことを決める。
 それを知った各国のカトリック・正教会組織から選りすぐりの「名探偵たち」がやってくることに。

 本書の前半には4つの短編が置かれ、名探偵たちが紹介される。それぞれが難事件を解決し、それによって "代表" に選ばれていく。
 この4編もそれぞれ凝ったミステリで、それぞれの名探偵のキャラというか特徴を充分に活かした作品になっている。

 アメリカからは、「AI探偵」ユダとその助手(開発者でもある)・シャーロット。キャッチフレーズは "無限の情報量と超高速の演算能力"。

 ウクライナからは、「クロックアップ探偵」ボグダン。
 クロックアップとは、自分の思考能力を加速させる能力のこと。この能力を発動すると、相対的に周囲の時間の流れがスローモーションのように見える。サイボーグ009みたいだね。キャッチフレーズは "無限の思考時間と無制限の現場検証能力"。

 日本からは「五感探偵」高崎満里愛(たかさき・まりあ)。
 嗅覚をはじめ常人離れした五感を備え、現場に立つと犯人の残したあらゆる情報を感知できる。キャッチフレーズは "完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力"。

 ブラジルからは「霊視探偵」マチウス。嘘を100%見抜く「魔眼」をもつ。
 もちろんオカルトではなく、彼の持つ卓越した観察眼と推理能力がそれをもたらしている。

 この4人(4組)、能力もずば抜けているが、シリーズものの主役が務まるくらいそれぞれのキャラも十分すぎるくらい立っている。


 そして後半では舞台を北海道に移し、聖遺物争奪の推理ゲームが始まる。

 本編の語り手は、救仁郷進の孫の弘瀬廻(ひろせ・めぐる)。推理ゲームのために各国からやってくる探偵たちの世話役を、従兄弟の弘瀬大和(やまと)とともに務めることになっている。
 この大和くん、廻の目から見ても充分に名探偵の素質を持っているのだが、主催者側の人間ゆえにホスト役に徹している。ただまあ多くの読者が予想するだろうけど、終盤に至ると彼も推理合戦に加わってくる。


 会場は北海道上川郡筆尻村の山奥にある「レラカムイ筆尻」。コテージが数軒と本館からなるリゾートで、オーナーはもちろん救仁郷だ。
 折しも季節は冬。辺り一面は銀世界だ。

 本書の前半で紹介された名探偵たち4組、さらにシスター・リンという修道女を加えた5組がこのゲームの参加者となる。
 シスター・リンについては前半での紹介がなかったのだが、その理由も後半の中で明かされる。

 ゲーム参加者が揃ったのも束の間、早々と事件が起こる。
 ホスト役の一人で弁護士の山川が、コテージの一つで死体で発見される。人里離れた場所ゆえ、犯人は一行の中にいるはずだ。

 かくして名探偵たちの推理合戦が始まる。
 推理の結果、犯人に辿り着いた者から告発が始まるのだが、犯人と名指しされた側も名探偵。周囲にいるのも名探偵。
 それゆえに、出てくる推理は反論反証の集中砲火を浴び、次々に消えていく。はたして真犯人は・・・


 作者の持ち味のユーモアも大盛りだ。やたらおしゃべりで下世話なジョークを連発するAI探偵とか、北海道出身なのになぜかコテコテの関西弁でマシンガントークをかます満里愛さんとか、もう面白すぎである。ぜひ、独立した作品で主役を務めてほしいものだ。


 多重推理・多重解決ものは多いけど、登場人物のほとんどが名探偵というのは類例が少ないだろう。犯人指摘の論理もなかなか高レベルで、どれが真相でもそれなりに説得力がある。読んでるほうは感心してればいいが、書く方はたいへんだったろうなぁと思う。

 最終的に提示される真相は好みが分かれるかな。私はあまり好きになれないけど、そこに至るまでの積み重ね(前半の4短編、後半の多重解決)のレベルがものすごく高いので、許せる気分になってしまう(笑)。



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