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アンソロジー 初恋 [読書・その他]


アンソロジー 初恋 (実業之日本社文庫)

アンソロジー 初恋 (実業之日本社文庫)

  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2020/01/31

評価:★★★


 女性作家集団「アミの会」によるアンソロジー。
 "初恋" がテーマだが、甘酸っぱい話ばかりではない(というかほとんどない)。苦味も辛味も塩味も、ミステリからサスペンス、はてはホラーまで何でもあり。


「レモネード」(大崎梢)
 亜弥(あや)は、20年ぶりに中学校時代の友人・リサと再会する。彼女は美人で、中学生の頃から男子には人気があった。
 当時、亜弥はサッカー部の島村くんに片思い。しかし島村くんはリサに想いを寄せていた。そのリサが好きになった男子は、意外にも、さえない男子の中里くんだった・・・
 "初恋は実らないもの" というが、"縁は異なもの" でもある、という話。


「アルテリーベ」(永嶋恵美)
 定年退職後、妻の勧めでドイツ語教室に通い始めた原島悟。そこで隣の席になった女性と親しくなるが、彼女は妻の幼馴染みだった・・・
 意表を突くラストを迎えるのだが、うーん、こういう初恋もあり得るよねぇ。


「再燃」(新津きよみ)
 年の差のある夫に先立たれた "わたし" は、還暦同窓会に出席する。そこには初恋の相手だった向井も出席していた。そして後日、向井の方から「会いたい」と連絡が来たのだが・・・
 人生百年時代だからね、こういうこともあるでしょう。しかしこの展開にはびっくり。


「触らないで」(篠田真由美)
 語り手は古物商を営む女性。ある夜、店の方が騒がしい。そこには10歳にも満たない少女がいて、自分の身の上を語り出す。それと同時に体の方も成長を始める。
 幼い頃から彫刻が好きだったが母には認められず、弟だけが理解者だったこと。才能を認めてくれた師のもとで創作に励んだこと。しかし兄弟子たちには、色仕掛けで師に取り入ったと責められたこと。彫刻家として自立するために師から離れようとしたこと・・・
 芸術に掛ける情熱と男女の情念が複雑に絡み合うさまをホラータッチで描く。


「最初で最後の初恋」(矢崎在美)
 留学することになった泰一は、幼馴染みで親友の悠矢に頼みごとをする。月に一度、祖母の千鶴子を訪ねてほしいと。頼まれた悠矢は、千鶴子とともにスイーツ巡りをしたり映画を観たり。そして彼女は、悠矢に今は亡き夫・源吾のことを語り出すのだが・・・
 この千鶴子さんが、実に愛らしい。こんな女性と結婚できた源吾さんは幸せだ。


「黄昏飛行 涙の理由」(光原百合)
 瀬戸内海に面した街・潮の道(しおのみち)。永瀬真尋(まひろ)は、地域FM放送のパーソナリティをしている。地元の寺・地福寺で開かれる、女性の幽霊画を集めた『隠れた名画展』に上司の局長と共に出かけるが、そこで局長が一枚の絵に見入ってしまう・・・
 真尋と局長の会話がとにかく楽しい。どうやら真尋さんは局長に想いを寄せているみたい。続きがあったら読みたいものだ・・・と思ったのだけど、作者は昨年(2022年)の8月にお亡くなりになってる。この人の作品、好きだったんだけどね。残念です。合掌。


「カンジさん」(福田和代)
 デイケア「やすらぎハウス」に通ってくる91歳の千代子は、亡き夫・カンジの思い出話を語る。しかし彼女の夫はカンジという名ではない。「カンジさん」は彼女の認知症の産物なのだ。
 やがて千代子は亡くなるが、今度は別の女性が「亡き夫のカンジさん」の話をし始める・・・
 ホラータッチのオチにちょっとゾクリ。


「再会」(柴田よしき)
 中学生だった "私" は、受験塾で知り合ったコウちゃんに恋をした。横浜でデートもした。でもその後、2人は再会することはなかった。
 そこから2つのエピソードを挟み、長い年月の末に2人はついに再会を果たすのだが・・・
 なかなかミスリードが巧みで、最後のオチに持っていく。


「迷子」(松村比呂美)
 35歳で未婚の智沙(ちさ)のもとに見合い話が持ち込まれる。相手は同年齢の男性・洋介。しかしバツイチで5歳の男の子がいる。悩んだ末、会うことにしたが、洋介の連れ子の佑樹を見て智沙は驚く。3ヶ月前、デパートで迷子になっているのを彼女が見つけて、面倒を見てあげた子だったのだ・・・
 笑えて泣ける、"ちょっといい話"。このアンソロジーのトリを務めているのだが、最後にこの話があってよかった。ほっこりした気持ちで本が閉じられる。



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