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風と行く者 -守り人外伝- [読書・ファンタジー]


風と行く者 (新潮文庫)

風と行く者 (新潮文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 「精霊の守り人」から始まり、全10巻もの大河ファンタジーとなった「守り人」シリーズの番外編だ。主役である女用心棒バルサの、本編終了後と20年前との2つの時代が描かれる。


 本編のラストから1年半、復興の槌音が響く新ヨゴ皇国。
 用心棒を生業とするバルサは、連れ合いの薬草師タンダとともに訪れた市場で〈サダン・タラム〉と呼ばれる巡礼旅の楽団の窮地を救う。

 20年前、まだ10代だったバルサは、養父ジグロとともに彼らと旅をしたことがあった。当時の女頭だったサリはいま病床にあり、その娘である19歳のエオナが新たな頭となって、聖地〈エウロカ・ターン〉へ向かう旅の途上にあった。

 〈サダン・タラム〉の一行は、何者かに狙われているらしい。彼らを聖地へ近づけたくない勢力が蠢いているようだ。
 護衛を依頼され、引き受けるバルサ。その理由は、エオナはサリとジグロの娘ではないか、と感じたことだ。ならば彼女はジグロの忘れ形見、バルサとは義理の姉妹ではないか・・・

 バルサは一行とともに、聖地のある隣国・ロタ王国へと向かう。
 そこは、ロタ氏族が支配する地。国の中枢も実権もロタ氏族が握り、ターサ氏族などの少数氏族の勢いは先細り、いずれは消滅するものと見られている。
 しかしだからこそ、ターサがロタに向ける憎悪は激しい。聖地〈エウロカ・ターン〉はターサの支配する土地にあり、一行が狙われるのも、この氏族対立が背景にあると思われるが・・・


 本書は三章建てになっているのだが、第一章はバルサが〈サダン・タラム〉の護衛を引き受けて旅立つまでが語られる。
 そして第二章はほぼまるごと過去編。20年前のジグロとバルサ、そして女頭サリの率いる〈サダン・タラム〉の物語でもある。

 本編中ではほとんど出番がない(本編開始前に亡くなってるからね)ジグロだが、本書では200ページ以上にわたって彼の活躍が存分に描かれる。
 本編では無双状態のバルサだが、20年前ではまだまだ未熟。ジグロに手ひどく叱られ、厳しく鍛えられる発展途上の戦士だが、その中でも着実に成長してゆくところを見せるのは、さすがの主役ぶり(笑)。

 そして第三章では再び現在に戻る。〈エウロカ・ターン〉に隠された秘密、〈サダン・タラム〉が狙われる理由があきらかになっていく。
 このあたりはちょっぴりミステリっぽい。情報が全部明かされているわけではないので、読者が推理するのはちょっと無理だろうけど、納得のいくストーリーが提示される。

 そして二つの氏族間における対立と憎悪の中、バルサは一つの解決策を見いだすのだが・・・


 本編以外の「守り人」シリーズの作品もいくつか書かれているけど、みんな短編ばかり。その中で、本書は450ページほどの長編(まあ半分は回想シーンなんだが)で、なかなか読み応えがあった。バルサとタンダが "その後" の世界でも順調に(平穏ではないが)生きていることがわかって、素直にうれしい気持ちになる。

 こうなると、もっと知りたくなる。あの人はどうなったのか、この人はどうなったのか・・・
 巻末の解説で大矢博子氏も書いてるけど、チャグムの嫁取りの話は、読みたい話の筆頭だね。思いを同じくするファンの方も多いと信じる。いつかその話が読めることを願って。



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