イスランの白琥珀 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
かつては大魔道師と謳われ、イスリル帝国の建国に多大な貢献をしたヴュルナイ。しかし時は流れ、王宮は腐敗し国土は乱れた。
そんな中、野に下っていた彼はある人物に出会う。その中に新たな希望を見いだしたヴュルナイは、帝国の再建を決意する。
〈オーリエラントの魔道師〉シリーズの1冊。
その身の内に、稀なる ”闇の種” を宿す少年ヴュルナイは、魔道師イスランにその能力を見いだされ、やがて大魔道師へと成長した。
イスランはヴュルナイ率いる魔道師軍団とともに乱れた国土を統一してイスリル帝国を築き上げ、”国母” と呼ばれるようになる。
しかし彼女が亡くなり、その親族たちによる後継者争いが始まる。その諍いに巻き込まれたヴュルナイは、地位も名声も失って表舞台から去ってしまう。
失意のヴュルナイはオーヴァイデン(オーヴ)と名を変えて放浪生活に入り、百年あまりの時が過ぎた頃(この世界の魔道師は長命なので)に、物語は始まる。
帝国の王宮は腐敗し人心は乱れ、不正と賄賂が横行する時代となっていた。
そんな中、北方から侵入してくる蛮族との戦いに身を投じていたオーヴは、無実の罪で捕らえられたロブロー族の若い女族長ハルファリラと関わることになる。
ハルファリラの中に ”ある力” の存在を感じ取ったオーヴは、彼女を救い出すべく王都イスリルに潜入、〈落雷王〉の異名を持つ魔道師にして国王のグラスグーシや、宰相ジルナリルと対決することになるが・・・
イスリル帝国では、建国初期の後継者争いによる混乱の中、「魔力の最も強い者が王になる」慣例が成立している。ならばグラスグーシは当代最強の魔道師のはずなのだが、百戦錬磨のオーヴは彼と互角以上に渡り合ってみせる。
オーヴの戦歴を考えれば、グラスグーシなど易々とやっつけてしまえそうなものだが、意外と苦戦するのは舐めてかかっていたからかも知れない(笑)。
「俺はまだ本気出してない」って言いそうだが(おいおい)。
タイトルの「イスランの白琥珀」とは、オーヴァイデン(ヴュルナイ)がイスランから与えられた宝玉のこと。彼にとってそれはイスランとの絆であり、帝国建国時の理想の象徴だ。
一時は絶望して野に伏していたオーヴが、新たな希望を見つけ出し、再び立ち上がる。かつての恩人が築いた帝国を再建するために。かつての恩人から託されたものを、次世代へとつなげるために。
とはいっても、主人公オーヴのキャラクターはあくまで明るく軽快だ。悲壮感など欠片もない。実年齢は百歳を超えているので、酸いも甘いも噛み分けているはずなのだが、けっこう頭に血が上りやすく、後先のことを考えずに行動してしまうなどかなりの粗忽者。精神年齢はかなり若そうだ(笑)。
オーヴの相棒を務める青年エムバス、オーヴの財産管理をしているスティッカーカル、ハルファリラ救出に協力する双子の魔女など、脇役陣も個性派が揃っていて飽きさせない。
本書の最後のページに「イスリル帝国年表」というものが載ってるんだけど、これ、ネタバレじゃないかなぁ。もっとも、「この後はこうなる」と分かっていても面白いんだけど。
タグ:ファンタジー