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人間じゃない 〈完全版〉 [読書・ミステリ]


人間じゃない 〈完全版〉 (講談社文庫)

人間じゃない 〈完全版〉 (講談社文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/08/10
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

 綾辻行人の単行本未収録の作品を集めた短編集の文庫版。〈完全版〉というのは、単行本に加えて新たに短編「実録・ぬえの密室」を収録したため。
 いわば ”拾遺集” なので、ミステリもあれば怪談やホラーもあって、多彩な内容。そのせいか一編ごとに作者の短い紹介文が載っている。


「赤いマント」

 どこからともなく「あかいマントをかぶせましょうか」という歌が聞こえてきて、それに応えてしまうと怪異に襲われる。そんな噂が流れているらしい。

 大学生・道沢希早子(みちざわ・きさこ)は、アルバイト先の塾の教え子である女子高生・水島由紀からその噂を聞く。ところがその由紀が "赤マント" に襲われるという事件が発生する。
 児童公園のトイレの個室に由紀が入ったところ、あの噂の不気味な歌が流れてきた。外で待っていた希早子が個室に入ると、全身に赤いペンキをかけられた由紀が・・・

 怪談仕立てだけど、ミステリとしてはわかりやすい。作者の紹介文にも「ごく普通の推理小説」とあるし。でもそれを綾辻が書くと、なんとも不気味な雰囲気になってくるのは流石だ。


「崩壊の前日」

 主人公が昼近くに起き出し、雪の中を恋人に会いに行く、それだけなのだが、これもまた綾辻独特のホラーな幻想小説になってる。


「洗礼」

 2006年、38歳の綾辻行人のもとに届いた封筒には、一編の推理小説の原稿が入っていた。それは彼が大学時代に所属していた京大ミステリ研で、部員たちの間で披露された犯人当て小説のようだが、作者名が滲んでいて読めない。

 小説の内容は、大学祭のさなかに学生バンドのメンバーが殺されるというもの。タイトルの「洗礼」はこの作中作の題名。

 京大ミステリ研の活動の様子の一端が分かる、ある意味興味深い話だ。しかし、学生仲間とはいえ、"ミステリの鬼" たちを前に自作のミステリを発表するなんて、並の神経では務まらないだろうなあ。でもこれくらいこなせないと作家デビューなんて無理だよね。

 最後まで読むと、実話かと思わされる(もちろん作中作の部分はフィクションだが)のだけど、まさかね。


「蒼白い女」

 怪談連作「深泥丘奇談」の番外編。
 担当編集者と一緒に地下2階の喫茶店に入った "私"。そこの片隅に座っている蒼白い顔の女に気づく。電波が届かない "圏外" の場所なのに、その女は携帯電話のディスプレイをじっと見つめ続けていたのだ・・・


「人間じゃない -B〇四号室の患者-」

 精神病棟に収用されている "私" が、"発病" の原因となった事件について語り出す。
 密室状態の中で女が殺され、遺体は人間の仕業とは思えないほどの損壊を受けていた。被害者は事件の前日、「ここには人間じゃないものがいる」と云っていたという・・・
 私はこの手の作品は苦手です。


「実録・ぬえの密室」

 "新本格30年" を記念するイベントに綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸が参加する。そこで話題に出たのが、京大ミステリ研の中で行われた "犯人当て" イベントの中で、"幻" と言われるほどのスゴい作品があったという噂。

 3人は記憶をたどるがどうにも思い出せない。場所は綾辻邸に移り、妻である小野不由美まで話に加わって、「ぬえの密室」というタイトルまでは出てきたものの、そこから先は、ああでもないこうでもないという状態に。

 新本格系の作家さんたちが実名で登場する、ドキュメントっぽい小説。ラスト近くに登場する人物は、新本格を語るなら絶対に外せない人だ。



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