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ブラウン神父の童心 [読書・ミステリ]


ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12

評価:★★★

 探偵役となるブラウン神父は、丸顔で小柄で不器用と、風采が上がらないこと夥しい。金田一耕助のご先祖様みたいなキャラだが、頭の切れは一級品。
 発表が1911年と、いわゆる "古典的名作" と呼ばれる作品集。全5巻となるシリーズの1巻目だ。

 もちろん、現代の目から見たらありきたりや陳腐に見えたりする部分もあるが、発表年を考えたら、この時期にこれだけの内容の作品群を発表しているのは驚嘆に値する。

 読んでみるとわかるが、後続の作家や作品に取り入れられた、いわば "ミステリの定番" 的なトリックや発想や論理や設定がてんこ盛り。本格ミステリの入門書というか教科書みたいな作品集になってる。

 本書には12編が収録されている。一編あたり文庫で30ページほどしかないのだけど、その密度は驚くばかり。現代の作家さんが同じネタで書けばゆうにその2~3倍の分量になりそうだ。


「青い十字架」
 ブラウン神父の初登場作品にして、希代の怪盗フランボウとの出会いのエピソード。フランボウは後に改心して探偵事務所を開き、ブラウン神父の相棒となる。

「秘密の庭」
 パリ警察の警視総監ヴァランタンの自宅の庭で、首を切断された死体が発見される。しかし庭に外部との出入り口はなく兇器も発見されない。この真相には正直驚かされたが、このトリックは後世になると無数のバリエーションを産んでるんだよね。

「奇妙な足音」
 ホテルの一室で他殺死体が発見される。現場と外部をつなぐ通路に面した部屋にいたブラウン神父は、そこで聞いた足音から真相にたどり着く。

「飛ぶ星」
 田舎の農家で開かれたクリスマスパテーィーの中、寸劇が行われるが、その中で宝石盗難事件が発生する。しかし居合わせたブラウン神父が事件のからくりを見抜く。フランボウが改心するきっかけになった話。

「見えない男」
 たしかにその場所へ出入りしたはずなのに、誰も見た者がいない。ミステリでは有名な "見えない男" の元ネタになった作品。今このネタで書いたら噴飯物だが、110年前には斬新な発想だったんだろうと思う。

「イズレイル・ガウの誉れ」
 当主が亡くなり、下僕一人が残されたスコットランドの古城にやってきたブラウン神父とフランボウ。当主の残した奇妙な遺物、そして首のない死体を発見するが。長編が一本書けそうなネタ。

「狂った形」
 詩人のクイントンが殺される。現場は密室状態だったが・・・。ミステリを読み慣れた人なら、さすがにこれはわかります。これもいわば密室殺人の教科書的な作品だから。

「サラディン公の罪」
 川の中州にあるサラディン公爵の屋敷へやってきたブラウン神父とフランボウ。そこへ公爵を "父の仇" と呼ぶ青年が現れるが・・・。わずか文庫30ページの中にこのネタをぶち込んでくる。流石です。

「神の鉄槌」
 僧侶の兄が頭を潰された死体で発見される。いわゆる "不可能殺人" だけどこのトリックが成功する可能性はかなり低そう。現代で使ったらけっこう非難を浴びるだろうなあ。110年前だから、おおらかに受け入れられたのかな。

「アポロの眼」
 太陽信仰を謳う怪しげな新興宗教に入れ込んでいた女性が死亡する。その教祖と被害者の妹、2人が容疑者となるが・・・。真相は確かに意外だけど、これはちょっと受け入れ難いかな。

「折れた剣」
 ミステリではあまりにも有名な警句「木の葉を隠すなら森の中、では森がなかったら・・・」の元ネタになった作品。まさに奇想。チェスタトンはほんとにスゴい。

「三つの兇器」
 アームストロング卿が殺害される。現場にはロープとナイフと拳銃があったが死因はなんと撲殺だったという奇妙な謎。ちなみに「ミステリ史上、最も大きな兇器」についても言及がある。いやあチェスタトン先生、無双状態ですな。
 ラストで明かされる犯行の様子はものすごくせわしなくて、ほとんどコメディ。映像化したらドリフターズのコントみたいになりそう(笑)。



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