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聖エセルドレダ女学院の殺人 [読書・ミステリ]


聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)

聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 7人の少女たちが学ぶ小さな寄宿学校。しかし夕食の席で殺人事件が発生する。実家へ帰りたくない彼女らは庭に死体を埋めて事実を隠蔽。同時に犯人捜しを始めるのだが・・・


 時代は1890年、ヴィクトリア朝の末期。舞台はイギリスの学校だ。
 聖エセルドレダ女学院は十代初めから半ばくらいの少女たち7人が在籍する小さな寄宿学校。毎週土曜日はコンスタンス・プラケット校長先生が、弟のアルドスを招いて夕食をとるのが慣わし。
 しかしその席上、コンスタンスとアルドスが突然死んでしまうという事件が勃発する。ところが残された7人は、警察に知らせるどころか2人の死体を庭に埋め、事実を隠蔽してしまう。

 この7人の少女が主人公となるのだが、彼女たちのキャラが素晴らしい。登場人物紹介での記載からして面白い。
 "機転のキティ"、"奔放すぎるメリー・ジェーン"、"愛すべきロバータ"、"ぼんやりマーサ"、"たくましいアリス"、"陰気なエリナ"、"あばたのルイーズ"、とくる。

 キティは紹介の通り、頭が抜群に回る。瞬時の決断にも長けて率先実行できるリーダー役。今回の "隠蔽計画" の中心人物だ。
 基本的に真面目なキティに対して、メリー・ジェーンは常に "いい男" を探している恋愛体質なのだけど、案外この2人はウマが合うみたいなのも面白い。
 アリスはその体型がコンスタンス校長先生とそっくりなところから、校長の "影武者" 役を割り振られる。嫌がっている割に、いざ始まってみると女優並みの演技力を発揮して周囲を驚かせる。
 オカルト系のネタが大好きなエリナは、ところどころでホラーなツッコミを入れる役どころだが、アリスに施す変装のための化粧は一級品。どうやらエンバーミング(死者に施す化粧)に興味があって身につけた技術らしいが(笑)。
 そしてルイーズ。最年少の12歳ながら将来の夢は医師になること。当然ながら科学的素養も豊かで、本書の中では探偵役となる。夕食に出たステーキの肉に毒が仕込んであったことも、その毒の種類までも解明してしまうんだから畏れ入る。

 とにかくこの7人は、特技や才能や夢や野心に溢れている。読んでいても、将来が楽しみになってくるお嬢さんばかりだ。
 しかし彼女たちがいるこの女学院は、それを許さない。

 この時代、女性には社会参加の機会はなく、長じては良妻賢母となることが期待されていた。当然、高等教育への道も開かれていない。
 7人が学ぶこの学校も、家庭に入ったときのために家事の技能やマナーを学ぶためのもの。巻末の解説にもあるがいわゆる "花嫁学校" (現代では死語だね)なのだ。

 彼女たちがこの学校に "押し込め" られているのも、親の価値観と衝突したからだ。でも彼女たちはこの学校で "仲間" を得た。
 もし校長の死が明るみに出て学校が廃止にでもなったら、仲間たちと別れなければならない。うるさい親の元へ帰らなければならない。そんなことはいやだ。自分らしく生きられるこの場所を失いたくない。
 これが彼女たちが事件を隠蔽しようとする理由だ。

 しかし彼女らの前途は多難だ。小さい学校でも校長となれば地方の名士のようで、来客も多い。退役した海軍提督とか牧師とかひっきりなしに現れるものだから、彼女らはてんてこ舞いする羽目になる。
 このあたりはとてもよくできたコメディで、本書が殺人事件を扱ったミステリであることを忘れてしまうほど。
 いくら何でも十代のアリスが高齢女性を演じるなんて無理だろうって思うんだが、これがびっくりするくらいバレないんだなぁ。「おいおい」って思うんだが、ドタバタ喜劇なんだからこれでOKだ。

 ラブコメ要素もしっかりある。若い女性たちが主役となれば若い男性も登場する。学校の隣にある牧場の息子、校長の顧問弁護士の助手、そして学校に聞き込みに現れるイケメンの警官とか。
 メリー・ジェーンを筆頭に、”お年頃” な彼女たちは男性陣の挙動に興味津々だったりする。事件発覚を防ぐことに忙殺されるキティでさえ、事件の翌日から学校周辺に出没しだした青年が気になってくる。

 もちろん最後にはきちんと真相が解明され、犯人も明らかになるのだけど、問題は女学院のゆくえだ。だけど作者は、粋な解決法を用意している。

 物語が終わるに当たって、彼女ら7人の将来も気になるけれど、ここまで読んでくると、彼女らはどんな環境になっても結構うまく生き抜いていけそうな気がしてくるから不思議だ。
 主役格(主犯格?)のキティについては、たぶんこうなるだろうという将来が示される。彼女ならぴったりだ、と納得させる進路だ。

 本書は欧米でいくつかの児童図書の賞を得ているという。その看板に偽りなしの楽しいミステリだ。



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