SSブログ

密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿 [読書・ミステリ]


密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/01/28
評価:★★★

 気弱で引きこもりがちな青年・音野順(おとの・じゅん)を探偵役とするシリーズ、第2巻。助手を担当するのは、順の友人にしてミステリ作家・白瀬白夜(しらせ・びゃくや)。短編5作を収録。


「密室から猫を取り出す方法」
 完璧な密室トリックで同僚を殺害した田野。現場はホテルの一室。しかしドアを閉じる瞬間、その隙間を縫って黒猫が中に入り込んでしまう。慌ててドアを開けようとする田野だが、すでにトリックが発動していたために中に入れなくなっていた。
 翌日になって死体が発見され、警察が捜査にやってくるが、現場内に猫はいなかったらしい。猫はどうやって密室から脱出したのか・・・
 密室トリックは、レトロ感あふれる物理的なもの。それに対して猫の脱出方法は・・・無理だろぉ、って言ってしまうのは簡単なんだけど、これが受け入れられるかどうかが本書、ひいてはこの作家さんを楽しめるかどうかを決めるかな。


「人喰いテレビ」
 山奥のロッジの近くで他殺死体が発見される。遺体は一流企業の重役のもので、頭部は激しく殴打され、右腕は切断されて持ち去られていた。
 事件の夜、現場近くでは「UFO研究会」という有志団体が夜空の観測会を開いていた。その代表・如月陽子は「ロッジの中でテレビを見ていた被害者が、テレビに喰われるのを見た」と証言する。
 被害者は ”砂嵐” 状態のテレビに近づき、頭と右腕が ”画面の中” に入っていってしまった、というのだが・・・
 ちなみにロッジにあったのはブラウン管テレビ。本書の初刊は2009年なので、まだアナログ波用の旧式TVも生き残ってた時代かな。私の家が地上波デジタルの液晶TVに切り替わったのが2010年の末だったし。
 そのうち ”ブラウン管” て単語も死語になっちゃうんだろうなぁ。


「音楽は凶器じゃない」
 音野たちのもとを訪れた女子高生・笹川蘭(ささかわ・らん)は、彼女が通っている聖イサベラ学園高校で6年前に起こった殺人事件について語り出す。
 音楽室の中で、音楽教師・藤池伊代が撲殺され、その傍らには3年生の落合彩(おちあい・あや)が、これも殴られて気を失っていた。
 現場周囲の目撃情報から、犯人は彩だと思われたが、逮捕には至らなかった。凶器が発見されなかったからだ・・・
 音野が指摘する ”意外な凶器” が今作のキモなんだが・・・これを使うのは大変そうだなぁ。そしてラストシーンのひねりが効いてる。


「停電から夜明けまで」
 資産家の義父・稲葉慎太郎の殺害を計画する兄弟。彼らの住む屋敷に来客が来る夜、落雷による停電が発生し、彼らの計画が始まった。用意周到に準備されたはずだが、予定外の来客が・・・
 名探偵・音野順は今回も犯人を ”示して” みせる。しかしその方法がなんともねぇ。ネタバレだから書けないけど、古今東西、こんな形で事件を解決に導いた探偵はいないだろうなぁ。
 ある意味本書でも(というか本シリーズの中でも)屈指の問題作。


「クローズト・キャンドル」
  芸術家・鈴谷氏の死体が発見された。現場のアトリエの床には無数のロウソクが立てられており、入り口のドアを開けることもできない。
 アトリエの中には低い円卓(ここにもロウソクが立てられている)があり、その上には、天井からぶら下がった鈴谷氏の縊死状態の遺体が。
 警察は自殺と判断するが、琴宮という探偵が鈴谷家に現れ、これは殺人だと言い出す。鈴谷氏の娘・花澄(かすみ)に導かれた白瀬と音野は、3000万円を賭けて琴宮と推理合戦をする羽目になるが・・・
 作者お得意の物理トリックが炸裂する。よくまあこんなこと考えるなぁと感心するが、ラストの犯人指摘シーンはちょっと唐突だね。「聞いてないよ~」って言いたくなる(笑)。



nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ: