いけない [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
蝦蟇倉(がまくら)市と、その北に隣接する白沢(はくたく)市。この2つの架空の街を舞台にした連作短編集。
各章の最後には、一枚の写真が挿入されている。それを見ることで、小説部分では伏せられていた事実や真相が明らかになる、という趣向。
ご丁寧に、目次の次ページには「本書のご使用方法」として、その写真を見ることで何が分かるかまで示してある。
本書には4つのエピソードを収録。タイトルの後の( )は「ご使用方法」だ。
「第一章 弓投げの崖を見てはいけない」(死んだのは誰か?)
蝦蟇倉市と白沢市をつなぐ道路、白蝦蟇シーライン。その途中には自殺の名所である "弓投げの崖" がある。
その近くの路上で殺人事件が発生する。保育士・安見邦夫の乗った車が何者かに襲われたのだ。
蝦蟇倉署の刑事・隈島(くましま)は、大学時代には邦夫の妻・弓子とは恋人関係にあった。彼女への想いを残す隈島は、邦夫の事件を捜査する中で有力な容疑者を突き止めるが、その男は現場近くで殺されてしまう・・・
これはまさに、背負い投げを食らったみたいに一本取られました。道夫秀介はやっぱりうまい。
「第二章 その話を聞かせてはいけない」(なぜ死んだのか?)
中国人の両親と友に日本にやってきた珂(カー)。しかし両親の経営する料理屋は閑古鳥が鳴き、彼自身も鬱屈した日々を送っている。
そんなとき珂は文具店の中で不可解な光景を目撃する。それは、殺人の現場のように思われた。やがて、蝦蟇倉市と白沢市の間を流れる川の河原で、文具店主の死体が発見されるが・・・
珂の視点で語られるのだけど、しばしば幻想のような描写が入るので、どこまでが真実でどこからが虚構なのかが判然せず、全体としてはホラーな雰囲気で進行する。
ラストまで読んでも、何が起こったのかよく分からず、写真をけっこう長時間眺めて、やっと得心がいった。
分かってみれば簡単なことで、私自身の注意散漫ぶりに呆れてしまう。あのまま分からなかったら、ネットで解説を探そうかと思ってたよ。
「第三章 絵の謎に気づいてはいけない」(罪は誰のものか?)
宗教団体・十王環命会(じゅうおうかんめいかい)。その蝦蟇倉支部で奉仕部を統括していた幹部・宮下志穂の死体が発見される。
現場は彼女の自宅マンション、首にコードを巻いて玄関ドアのノブにかけて縊死していた。遺体から睡眠薬が検出されたことから自殺と思われたが・・・
現場から発見されたメモ用紙には、本人が書いたものと思われる模式図が。そこには現場の様子とともに本人も描かれていた。これは何を意味するのか。
最後まで読むと、「罪は誰のものか?」という言葉の意味を考えてしまう。
「終 章 街の平和を信じてはいけない」(????????)
「第一章」の事件の後日談として始まる。
内容を紹介するとネタバレになってしまうのだけど、これまでの3つの話に登場した人物たちも再登場し、意外な関係があったことも明らかになって、三章全部を通じた終章になっていることがわかる。
一見して平和にみえる蝦蟇倉と白沢の街だが、その底には、心に深い闇を抱えた人間たちがいることを示して物語は終わる。
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