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赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 [読書・ミステリ]


赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

  • 作者: 青柳碧人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2020/08/19
評価:★★★

 タイトル通り、童話の主人公・赤ずきんが旅の途中で殺人事件に遭遇する。その事件もまた童話の世界の物語。
 「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」の登場人物が、被害者になったり容疑者になったり真犯人になったり。

 全編を通して探偵役を務めるのは赤ずきん。彼女が旅をしている目的も、物語が進むにつれて明らかになり、最終話で決着する。
 もちろん魔法も随所に出てくるが、無制限に使えるわけではなく、魔法ごとに規則や制約も定められていて、それが読者にきちんと開示されている。そしてそれが大きな手がかりにもなっている。


「第1章 ガラスの靴の共犯者」

 赤ずきんはシンデレラという少女と知り合う。彼女を虐めている継母とその連れ子たちはお城で行われる舞踏会に出かけていて、一人残されているという。

 そこに現れた魔法使いバーバラによって、シンデレラと赤ずきんはドレスと馬車を与えられ(もちろんガラスの靴も)、彼女らも舞踏会へ向かう。

 しかしその途中、馬車が年配の男性をはねてしまう。男性は死亡するが2人は死体を隠して舞踏会に参加する(おいおい)。
 ところが舞踏会の席上、死んだ男は王様の信頼深い者だったと判明、その場で犯人捜しが始まってしまう・・・
 事件は二転三転し、意外な結末へと向かう。


「第2章 甘い密室の崩壊」

 ヘンゼルとグレーテルの兄妹が、継母のソフィアを殺害するシーンから幕を開けるという、倒叙ミステリ。

 兄妹の住む家にやってきた赤ずきん。妻を探しに行くという父親と兄妹とともに森へ出かけることに。
 一行はあの有名な "お菓子の家" に到着するが、そこは内部から施錠された密室状態だった。そして家の中からはソフィアと、このお菓子の家を作った魔女、2人の死体が発見される・・・

 今回、赤ずきんの相棒となって事件の真相解明に当たるのは、"森の管理者" を名乗る銀色オオカミのゲオルグ。人語を話す賢者のオオカミ、というキャラがなかなかいい。彼を主役にしても物語が作れそう。

 密室トリックはこの物語世界でしか成立しないものだけど、伏線も張ってあるし、必要な情報も開示されてる。いささか都合がよすぎるかなと思わないでもなかったが(笑)。


「第3章 眠れる森の秘密たち」

 グーテンシュラーフ王国の国王に姫が生まれ、祝いの席に12人の魔女を招いた。しかし招かれなかった13人目の魔女から呪いをかけられてしまう。
 その呪いの通りに、16歳になった姫は糸車にふれて眠りについてしまい、以来40年の時が流れた。

 赤ずきんが道ばたで助けた老人は、王国の宰相キッセンだった。そしてキッセンの孫メライが殺人事件の容疑者として捕まってしまう。
 彼の容疑を晴らすよう、赤ずきんはキッセンに頼まれるが・・・

 一つの事件から芋づる式に、王国や関係者の秘密がずるずると明らかになっていくのはお見事。
 12人の魔女の "祝福の魔法" も効果的。魔法をミステリに "取り入れる" にはこういう手もあるのか、って思った。


「第4章 少女よ、野望のマッチを灯せ」

 シュペンハーゲンの町でマッチ工場を経営するガルヘン。彼は両親を亡くした遠縁の娘エレンを引き取ったが、マッチ売りを強要するという虐待をしていた。

 そんなエレンの前に天使が現れ、魔法をかける。
『君が触ったマッチを擦りながら願い事をすると、君の好きな夢を見られるようになるよ』
 ただし夢が見られるのは、マッチの火が灯っている短い時間だけ。

 しかし、この "力" を得たエレンはガルヘンを殺害してマッチ工場を相続し、"魔法のマッチ" の量産(!)を開始する。
 "夢" が見られるエレンのマッチは飛ぶように売れるが、同時に現実逃避にも使われ、 "マッチ依存症" も多発し始める・・・

 悲劇の主人公だったはずのマッチ売りの少女エレンは金の亡者となり果て、さながら ”麻薬王” の様相に。目的のためには手段を選ばないという、まさかのダークヒーロー(ダークヒロイン?)化だ。

 エレンと並行して赤ずきんの過去も語られ、彼女の旅の目的も明らかになる。そして赤ずきんがシュペンハーゲンにやってくる・・・

 サスペンスっぽい展開だが、ミステリ要素もしっかりある。終盤では大がかりなトリックも出てくるが、大胆すぎていまひとつピンとこない(笑)。まあ、これは私がニブいせいだろうが(おいおい)。



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