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イマジン? [読書・青春小説]


イマジン? (幻冬舎文庫 あ 34-8)

イマジン? (幻冬舎文庫 あ 34-8)

  • 作者: 有川 ひろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

 映画制作の夢破れ、フリーター生活を送る良井良介(いい・りょうすけ)。しかし映像制作会社の仕事に誘われたことから彼の人生は大きく変転する。トラブルの波が続々と押し寄せるが、情熱と想像力を駆使して切り抜けて、再び夢を取り戻していく。


 連作短編形式の全五章構成。


1『天翔る広報室』

 幼少時にTVで観た「ゴジラvsスペースゴジラ」に衝撃を受け、映画制作の夢を抱いて上京した良介だったが、入社した映像制作会社が計画倒産してしまう。

 以来、定職に就けずにフリーター生活を送ってきたが、バイトで知り合った佐々賢治から映像制作会社「殿浦イマジン」の仕事に誘われる。

 ひとくちに "映像制作" といっても、その業務は多種多様、そして多忙だ。
 製作スタッフの人材派遣もすればロケ地候補の選定や情報収集、現地との折衝もするし、かと思えば撮影現場の弁当の手配、給湯場の設営、ロケバスの運転、ゴミの収集、クレーム対応までやるという、いわば下働きの "何でも屋"、雑用全般を請け負う、縁の下の力持ち的な存在だ。

 そして良介が飛び込んだのは連続TVドラマ『天翔る広報室』の撮影現場。日曜夜9時放映で、自衛隊の広報室を舞台にしたものだ。
 これはもちろん作者自身の小説およびそれをドラマ化した『空飛ぶ広報室』がモデルだね(笑)。ドラマの方は観なかったけど小説は面白かったよ。

 初めての体験ばかりで、てんてこ舞いをしながらも良介はこの仕事に魅せられていく。


2『罪に罰』

 映画監督・雑賀才壱(さいか・さいいち)のオリジナル脚本による映画『罪に罰』の制作に参加した「殿浦イマジン」。
 しかし雑賀監督はそのワンマンぶりで有名で、彼に潰された人材は数知れず。"スタッフクラッシャー" の異名をとるほどだった。

 そんな中、良介は他の制作会社からきている助監督・島津幸(しまず・さち)が上司から理不尽な扱いを受けているのを見て怒りに燃えるのだが・・・

 ところどころ「罪に罰」のシナリオが挿入される。基本的には少女二人の友情を描いた物語なんだけど、後半の展開は意表を突くもの。有川ひろはこんなダークな話も書けるんだなあと驚いた。引き出しの多い人だ。


3『美人女将、美人の湯にて~刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ~』

 「刑事真藤真・湯けむり紀行」は定番の二時間ドラマ・シリーズだ。
 主役の真藤刑事の相棒として出演するのが若手お笑い芸人の丸太マルタ。しかし彼と関わったことで良介は意外なトラブルに巻き込まれていく。本作中ではいちばんユーモアに溢れたエピソード。


4『みちくさ日記』

 冴えない生物教師と女子高生との恋愛を描き、ベストセラーとなった小説を映画化した『みちくさ日記』。

 良介たちはロケ地にぴったりのレストランを見つけたものの、店主が頑としてOKしてくれない。

 一方で、主役に起用されたタレントについて原作ファンからのバッシングが起きる。"冴えない生物教師" のはずなのに、イケメンで茶髪はおかしいと。
 原作ものの映像化では多かれ少なかれ起こることではある。特に「原作へのリスペクトが感じられない」ってファンが感じたら、騒ぎは大きくなるものだ。

 良介たちは現場にいるから、出演者の苦労や制作陣の思い入れもよくわかるのだが、観客からしたら「出てくる情報」「完成した映像」がすべてだからね。受け入れられるかどうかは蓋を開けてみないことにはわからない。
 本書では映画公開後の反響までは描かれていないのだけど、好意的に受け入れてもらえていたらいいなあ、と切に願ってしまう。


5『TOKYOの一番長い日』

 東都テレビ開局50周年記念映画『TOKYOの一番長い日』。
 国際テロ組織による無差別テロに襲われる東京と、それに立ち向かう警視庁特殊部隊SATの活躍を描く超大作映画だ。

 この仕事の受注に成功した「殿浦イマジン」は沸き立つ。大ヒットすれば続編制作への参加も決まっているという。
 例によってトラブルの連続の撮影だったが、良介たちは総力を挙げて乗り切り、無事に映画の完成にこぎ着けるのだが・・・

 本書とは別に、これはぜひ単独の小説として読みたいなあと思った。
 過去には「自衛隊三部作」や「図書館戦争」を発表してるんだから、そろそろまたパニック・アクション大作を望みたい。だって書ける人なんだから。


 映像制作の現場というのは強烈な個性の奇人変人の集まりかと思いきや、(本書を読む限り)案外そうでもないみたい。でもみな総じてプロ意識の塊で、こだわるものを持っているんだなと感じた。まあそうでなくては人の心を揺さぶる作品は作れないだろうけど。

 中盤から登場してメイン・ヒロインとなる島津幸さんもなかなか魅力的だし、良介のいる「殿浦イマジン」の同僚たちのキャラも立っていて "お仕事小説" としては抜群に面白い。

 現在のところ本書に続編はないけれど、10年後か20年後かの未来、幸が監督として一本立ちし、それを支えるプロデューサーにまで成長した良介、そんな2人の物語を読んでみたいと思った。



タグ:お仕事小説
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