ネクスト・ギグ [読書・ミステリ]
評価:★★★★
ライブハウスのステージ上に登場したボーカルが倒れる。彼の胸には千枚通しが突き立っていた。衆人環視の中、誰が殺人を犯したのか。
ライブハウスのスタッフ・児玉梨佳は、事件の背景を調べ始めるが・・・
「ラディッシュハウス」は、オールスタンディング(立ち見)でキャパ(総定員)が500人という中規模のライブハウスだ。
かつて熱狂的ファンを集めたロックバンド〈サウザンドリバー〉。解散後、そのギタリストだったクスミトオルが中心となって新たに結成した〈赤い青〉というバンドが根拠地にしている。
定例となった〈赤い青〉のステージでのアンコールで、ボーカルのシノハラヨースケが倒れる。胸には千枚通しが突き刺さって。
しかし肝心の ”その瞬間” を見た者はいない。ステージ上のバンド仲間か、最前列の客か。近くから投げつけても可能と思われ、自殺を疑う声も挙がる。
視点人物は、ライブハウスのスタッフ・児玉梨佳(こだま・りか)。大学時代からラディッシュハウスでアルバイトを始め、卒業後はそのままそこに就職している。スタッフの中でも最年少の彼女は、死んだヨースケが生前に漏らした「ロックってなんなんだろうな」という言葉にこだわり続ける。
物語が進むにつれて、〈サウザンドリバー〉時代の出来事も明らかになっていく。メンバーの1人が死亡したこと、それに関する事情をクスミは黙して語らないことも。
さらには解散後の〈サウザンドリバー〉の元メンバーも登場し、事態は混迷していくが、そこで第二の殺人が起こる。しかも現場は密室状態だった・・・
「ロックってなんなんだろうな」作中で執拗に繰り返される問である。
梨佳がことあるごとに相手に対して投げかける質問だが、答えは様々だ。十人十色の回答がそのままその人の ”ロック観” を表すのだろう。
しかし、事件の根底にはこの「ロック」というものが重奏音のように常に流れている。登場人物がみな、多かれ少なかれ ”ロックに魂を奪われた者たち” ばかりだからだ。
私自身はロックについてはからきしである。高校時代の友人にディープ・パープルのファンがいて、一度彼の家に遊びに行ったときにレコードを(まだCDは登場していなかった)聞かされた記憶があるのだが、どんな演奏だったかさっぱり覚えていない(おいおい)。
でも、そんな私でも本書は楽しめた。何より、作中でロックについて、その誕生から変遷も含めて実に豊穣に語られているのだから。本書を読むといっぱしのロック通になったような気がする(あくまで ”気がする” だけね)。
そして、本書のラストでの謎解きシーンでも、この「ロックとは何か」は事件と切り離せない、大きな意味を持ってくる。
ちなみに、探偵役も実に意外な人物が務めることになるのだが、これは読んでのお楽しみだろう。
作者は新人賞を受賞してのデビューではない。投稿作品が編集者の目にとまり、アンソロジー用の短編執筆を経ての長編デビューだとのことだ。
初長編である本書は文庫で400ページ近い大作だが、ストーリーテリングもしっかりしているし、新人離れした文章だと思う。
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