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ネメシスIII [読書・ミステリ]

ネメシス3 (講談社タイガ)

ネメシス3 (講談社タイガ)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★

TVドラマ「ネメシス」をベースにした小説シリーズ、第3巻。

横浜にある探偵事務所ネメシスを舞台に
社長の栗田一秋、新人探偵の風間尚希、
そして助手の美神アンナの3人が事件に立ち向かう。

探偵役を務めるのは、天才的なひらめきをもつアンナ。
ポンコツな風間を陰からフォローして事件解決へ導く役回り。

この第3巻に収録された2話は、いずれもAIがテーマになっている。

「第一話 愛という事件のもとに」

TVドラマ版第4話がベース。

名門校・私立デカルト女子学院の校舎の屋上から、教師が転落死した。
死んだのは、イケメンで生徒からも人気のあった美術教師・黒田秀臣。

警察と学校は自殺で処理しようとしていたが、
それに反発したスクールカウンセラー・雪村陽子が
ネメシスに調査を依頼してきた。

アンナは潜入捜査のため、編入試験を受けて
デカルト女子学院の校舎の生徒となる。

 ちなみに、この学校は東大合格レベルの生徒が集まる超進学校らしいが
 アンナは編入試験を余裕でクリアしてしまう。

一方、風間は知り合いの刑事の伝手で
学園内に入りこむことに成功するが
教頭の南禅寺光江から「1日だけ」と条件を付けられてしまう。

転落時は昼休みで、容疑者となるのはその時間帯にアリバイのない者。
しかしその時校内にいた教職員・生徒は総勢152名もおり、
とても1日で調べきることはできない。

そこで風間はAI研究者・姫川烝位(じょうい)に応援を仰ぐ。
姫川は自らが開発したアプリを全員のスマホにインストールさせ、
そこから得た情報をAIで解析、容疑者を4人に絞り込む。
該当したのは生徒3名、そしてカウンセラーの雪村だった・・・

もちろんこの中に犯人がいてすんなり解決、とはならない。
この後もふたひねりくらいあって、
AIを超えたアンナの推理が真犯人を導く。

「第二話 名探偵初めての敗北」

中村勇気三冠と山神海彦七段によるプロ将棋のタイトル・豪将戦は
全五局のうち四局が終了し、二勝二敗の五分。

ネメシスに現れたのは豪将戦を主催する新聞社の広報部長・塩谷。
依頼内容は、中村三冠のカンニング疑惑の調査。
彼は以前、対局中にスマホを持ち込んでいたことがあり、
反則負けとなった過去があった。

 プロをしのぐ強さのAIも開発され、
 それが手軽なIT機器でも動くようになってきた。
 つまり手元にスマホがあれば、
 プロ棋士にさえ勝てる時代になってしまったということだ。

風間とアンナは、中村三冠が参加する将棋協会のイベントに同行して
様子を探るが、不正行為の証拠はつかめない。

そして迎えた豪将戦最終局の日。
会場となる横浜の旅館で午前十時に始まった対局は
12時間の攻防の末に中村三冠が勝利するが、その直後、
自室に引き上げていた山神七段が刺殺死体となって発見される。
しかもその部屋は密室状態となっていた・・・

密室トリック自体は過去にも作例があるし、
ミステリに詳しい人なら見当もついてしまうだろうけど、
本作のメインはそこではないだろう。

なぜ密室にしなければならなかったか、
そこに至るまでの心情の動きがこの作品の読みどころ。

私は将棋については駒の動かし方くらいしか知らないし、
プロ棋士の世界の厳しさも、ニュースや活字などを通して
間接的にしか知らない。

そんな私だが、この作品は充分に楽しめたよ。


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魅入られた瞳 南青山骨董通り探偵社II [読書・冒険/サスペンス]

魅入られた瞳~南青山骨董通り探偵社II~ (光文社文庫)

魅入られた瞳~南青山骨董通り探偵社II~ (光文社文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/12/25

評価:★★★

前作のラストで、大企業の営業ら探偵へと転職した井上雅也。

しかし、与えられる仕事は地味なものばかり。
夜は探偵社の先輩・立木につき合わされて呑み回る日々。

不満が溜まってきたところで新たな仕事が入る。
商社マン・高岩悟の妻を病院に送迎するという依頼だ。

高岩がワーカホリックなせいか、彼の妻・志津恵は体調を崩し、
軽度の鬱病と診断されていた。

広尾にある自宅から、高岩の遠縁で飛永(ひなが)という医師が経営する
三鷹のクリニックまで送り、診察が終了後は家まで送り届ける。

これが探偵の仕事なのかといささか不満ながら雅也は引き受けるが
志津恵の美貌、清楚さ、寂しげな佇まいにすっかり魅了されてしまう。

雅也は嬉々として仕事に励むことになるが、
送迎に遣う高岩所有のワゴン車はなんだか具合が今ひとつ、
飛永のクリニックも造りは古く、ボロボロだ。
送迎中、謎の車が尾行しているような気がする。
はてには、クリニックの駐車場に止めておいたワゴン車が消え、
再び現れるという不可解な事態が。

この仕事の裏には何かがある・・・

序盤は地味な仕事の連続にうんざりする雅也が描かれるが
あとあと、このエピソードに意味があったことがわかる。

中盤では、謎の出来事の連続に不安を感じながらも、
美貌の人妻に横恋慕した雅也のもやもやがユーモラスに綴られる。

そして後半1/3ほどになると、雰囲気は急転、
緊張感が一気に盛り上がり、前作からは想像できないような
デンジャラスな場面が展開していく。

とはいっても、全体的にはコメディタッチで進むので、
肩の凝らない読み物になっている。
文庫で230ページほどで、早い人なら2時間ほどで読み終わるだろう。
手軽に楽しい読書の時間を得るにはちょうどいいかも。


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鳩の撃退法 [映画]

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まずは、公式サイトからあらすじを引用しながら、
思ったことをつらつらと。

■映画の《あらすじ》

かつては直木賞も受賞した天才作家・津田伸一(藤原竜也)は、
とあるバーで担当編集者の鳥飼なほみ(土屋太鳳)に
書き途中の新作を読ませていた。

 物語の背景として、津田は以前、小説に書いた内容について
 訴訟を起こされ、それが原因で一時失踪していた。
 そして久々に高円寺のバーのバーテンとして鳥飼の前に現れ、
 彼女に新作小説の原稿を見せてる、という流れ。

※〈あらすじ〉
 ここからが津田の書いた小説のあらすじで、
 映画はこの小説の中の世界に入っていく。

一年前、閏年の二月二十九日。雪の降る夜。
かつては直木賞も受賞したが今は富山の小さな街で
ドライバーとして働いている津田伸一は
行きつけのコーヒーショップで偶然、幸地秀吉(風間俊介)と出会い、
「今度会ったらピーターパンの本を貸そう」と約束をして別れる。
しかし、その夜を境に幸地秀吉は
愛する家族(妊娠中の妻と4歳の娘)と共に突然、姿を消してしまう。

それから一か月後、津田の元に三千万円を超える大金が転がりこむ。
ところが喜びも束の間、思いもよらない事実が判明した。
「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」
ニセ札の動向には、家族三人が失踪した事件をはじめ、
この街で起きる騒ぎに必ず関わっている
裏社会のドン・倉田健次郎(豊川悦司)も目を光らせているという。
倉田はすでにニセ札の行方と共に、津田の居場所を捜し始めていた……。

神隠しにあったとされる幸地秀吉一家、
津田の元に舞い込んだ大量のニセ札、囲いを出た鳩の行方、
津田の命を狙う裏社会のドン、
そして多くの人の運命を狂わせたあの雪の一夜の邂逅……。

※津田の書いた小説の〈あらすじ〉はここまで。
 これ以後は、”現実世界の話” になる。

富山の小さな街で経験した出来事を元に書かれた津田の新作に
心を躍らせる鳥飼だったが、読めば読むほど、
どうにも小説の中だけの話とは思えない。
過去の暗い記憶がよぎる鳥飼。
小説と現実、そして過去と現在が交差しながら進む物語。
彼の話は嘘? 本当?

鳥飼は津田の話を頼りに、コーヒーショップ店員・沼本(西野七瀬)の
協力も得て、小説が本当にフィクションなのか【検証】を始めるが、
そこには【驚愕の真実】が待ち受けていた―。

■映画の《あらすじ》はここまで。

まず、私はこの映画についてほとんど情報を仕入れずに観にいった。
原作も読んでないし、上に書いた公式サイトのあらすじも読まずに。

そういう状態で観たこの映画、はっきり言ってよく分からなかった。

冒頭から断片的にいろんな情報が画面に現れてくるのだけど
それがどうつながるのかがさっぱり見えてこない。
(まあ、私のアタマが悪いのもあるのだろうけど)

観客がみな原作を読んだ人ばかりじゃないんだよ!・・・って
心の中で呟きながら見てた。
そんな私を置いてきぼりにして、どんどん映画は進行していく。

強いて分類すれば What done it ? (何が起こっていたのか?)
を巡るミステリ、とも言えるだろう。

小さなピースばかりかと思うと、津田が幸地と出会って
会話を交わすシーンはやたらと長い。
最後まで見終わってみればそれなりに意味があったと分かるのだが
初見では、無駄に長いシーンに思えてしまう。

 そんなこんなで、最初の30分くらいは映画になかなか入り込めなくて
 ちょっと辛かったことを告白しておこう。

 これからこの映画を見に行こうという方で、
 もし原作が未読なら、公式サイトのあらすじだけは
 目を通しておくことをオススメする。

もちろん、最後まで見ていけば、ピースがそれぞれハマって
全体像が明らかになっていく。

特に、津田が手にした偽札、特にその中の3枚(3万円分)が
登場人物たちの間を移動していく様子が明かされていくところは
なるほど、と思う。ミステリとしては、
たぶんこの部分がいちばんメインになるのだろうけど
如何せん、その他の部分がねぇ・・・

映画全体に、売春、不倫、暴力などネガティブなシーンがあふれてして
意外かも知れないが、私はその手のものが苦手なんですよ(笑)。

そして、主人公・津田がまた感情移入のしにくいキャラなんだよねぇ。
颯爽としたヒーローとはおよそ真逆で
どちらかというとダメ人間の部類。
コミカルな部分もあるのだけど、映画全体に広がる
陰鬱な雰囲気を払拭できるほどのパワーはない。
というか、鳥飼相手にはぐらかしたり、とぼけたりするばかりで
観客にとって、映画の内容を理解する助けにならない(笑)。

 冬の北陸、という季節&ロケーションも影響しているのだろうか。

ラストにいたって、事態はいちおうの収束を見せるのだけど
よく考えたら疑問なところもちらほら。
偽札の移動など、かなりの偶然の連続のような気もするんだが
それは言ってはいけないのだろう(笑)。
(まあ、この部分も津田の創作なのか現実なのかは曖昧なんだが)

頭からもういっぺん見直せば、よーく理解できて
評価も変わるのかも知れないが、残念ながら
もう一回観ようという気にならないんだよねぇ・・・
原作ファン、あるいはこの映画のファンの皆さんには申し訳ないが。


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アンデッドガール・マーダーファルス3 [読書・ミステリ]

アンデッドガール・マーダーファルス 3 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 3 (講談社タイガ)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15

評価:★★★★

吸血鬼・人造人間・人狼などの怪物や日本の妖怪たちが
公然と(一部は世間から隠れて)跋扈し、それに加えて、
多くの名探偵たちや怪盗、犯罪者たちも実在しているという
テーマパークみたいなパラレルワールドが舞台。

時は19世紀末。
産業革命から100年、科学文明を得た人類は次第に勢力範囲を拡大し
ヨーロッパ各地に潜む怪物たちを排除しつつあったが、
それでも ”人外の存在” が関わる事件は起こっていた。

そんな ”怪物事件” を専門に請け負う探偵・輪堂鴉夜(りんどう・あや)、
彼女の助手兼下僕の真打津軽(しんうち・つがる)、
そして鴉夜に仕えるメイドの馳井静句(はせい・しずく)の
3人組が、異形の怪物や犯罪者に立ち向かうシリーズ、第3作。

前作のラストで、モリアーティ教授が率いる
怪物軍団《夜宴》(バンケット)の次の目標が ”人狼” と判明、
鴉夜たちもドイツへと向かう。

山岳地帯の中にあって、人口も100に満たない村・ホイレンドルフ。
そこでは、1年前から連続殺人事件が起こっていた。
被害者はいずれも10代前半の少女たち。
遺体は手足の骨が折られ胸は裂かれるなど凄まじい損壊を受けていて
住人たちは人狼の仕業とみていた。

鴉夜たちがホイレンドルフに到着した時も、
漁師の娘・ルイーゼが何者かに掠われたばかり。

ホイレンドルフ村の外れには断崖があり、
その下は霧深い巨大な窪地となっていて、
そこには人狼の住む村があるとの伝説があった。

調査を始めた鴉夜たちは、崖下の窪地には伝説通りに
人狼の村・ヴォルフィンヘーレがあることを発見するが、
そちらの村でも同様に、少女の連続殺人が起こっていたことを知る・・・

人狼は人・狼・獣人の3形態をとることができるが、
それぞれの形態での特徴や身体能力、弱点などの設定が
作中でしっかり描かれている。
特殊状況ミステリでは、このあたりがとても大事なのだけど
作者にぬかりはなく、鴉夜の推理もそれに則って展開される。

前作はミステリというよりはホラー・アクションという趣だった。
本作でも 怪物vs超人 の戦闘シーンは随所にあるけれど
それを超えてメインとなるのは、ミステリ要素。

険しい崖に隔てられた2つの村で起こる、極めて類似した連続殺人。
そして明かされる意外な真相。
舞台も展開も、まさに本格ミステリだ。

怪物軍団《夜宴》からは、前作に引き続き女吸血鬼カーミラが登場、
静句嬢と因縁の再戦を繰り広げる。さらに
人造人間ヴィクター、謎の ”魔術師”・アレイスターも参戦する。

前作から登場したロイズ諮問警備部からは、
新たにアリス・ラピッドショット、カイル・チェーンテイルの
2名の凄腕エージェントがやってきて、
鴉夜たち vs 人狼 vs 《夜宴》 の戦いに乱入、状況を混迷させていく。

文庫で470ページもあるのは、
これら ”濃いキャラの皆さん” それぞれに見せ場を作り、
なおかつ、ガチな本格ミステリとして完成させるためだろう。

いやはや、ものすごい大作だと思うのだけど、
ここまでの作品を書き上げてしまったら、
次作に向けてのハードルが上がってしまうんじゃないかなぁ。
ちょっと心配になってしまうのでした。


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そして医師も死す [読書・ミステリ]

そして医師も死す (創元推理文庫)

そして医師も死す (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/01/22
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

舞台はイギリスの田舎町シルブリッジ。
主人公兼語り手となるのは、そこで開業医を営むアラン・ターナー。

アランはギルバート・ヘンダーソン医師と共同で診療所を経営していた。
そこは一部が住宅となっていてヘンダーソン夫妻が暮らし、
アランもまた別の一室を借りて同居していた。

ある日、ヘンダーソンが自室で死体となって発見されるが
警察は自らの過失による事故死と判定する。

しかしその2か月後、アランは診療所を訪れたハケット市長から
ヘンダーソンの死は何者かが仕組んだものではないか、と問われる。

もしそうなら、犯人は極めて絞られる。
アランか、ヘンダーソンの妻・エリザベスか。

さらに、アランとエリザベスは不倫の関係にあったのではないか、と
街の人々は噂しているとハケットは言う。

アランは自分にかけられた嫌疑を晴らすべく、
独自の調査を始めるのだが・・・

とにかく、登場人物が一筋縄で行かない人ばかり。
腹の中には、表には出ない本音を隠している。
(まあ、それは人として当たり前でもあるんだが。)
その筆頭とも言えるのが語り手のアランだ。

もちろん彼はハケットに対して不倫の噂をきっぱりと否定はする。
でもそれなら、その相手とは会うのも躊躇うのが普通だと思うのだが
エリザベスが訪ねてくると(しかも夜!)すいすいと部屋に通してしまう。
かと言って、男女の仲になりそうでならないという
なんともよく分からない御仁(笑)。

でもねぇ、アランにはジョアンというれっきとした婚約者がいるのだよ。
しかも彼女はハケット市長の姪だったりする。
不用意な行動は市長を敵に回すことになるんだが
そのあたり、分かってるんだか分かってないんだか・・・

アランの語るところの地の文では、
自分はジョアンに首ったけみたいなことを言ってるんだが
本当にそうなのか、怪しく思えてくる。

読んでいると、だんだんジョアンの家庭との間で
雲行きがアヤシくなってくるんだが、それも当たり前だよねぇ。

エルザベスの方も、噂なんて歯牙にもかけないのか
人目もはばからずにアランに会いに来て、
「私も命を狙われていた」と訴える。

この2人を中心にストーリーが展開するのだが、
やがて明らかになってくるのは、ヘンダーソン医師の生前の行動の数々。
いかにも人の恨みを買いそうなものがゾロゾロ出てくる。
そして、疑おうと思えばいくらでも疑えそうな人物もまたゾロゾロ(笑)。

田舎町の狭いコミュニティゆえ、物語の進行と共に
2人に向けられる視線は冷たさを増していく。
それと比例するかのように、アランとエリザベスにかけられた嫌疑は
薄まるどころかどんどん濃くなっていく・・・。

混迷を極める物語なのだけど、ラストで示される解決は
シンプルだけど充分に意外なもの。

なんでこんなことに気がつかなかったんだ・・・とも思うが、
多様な登場人物たちの、濃厚な人間ドラマに目を奪われて
ついつい、そちらへの注意が疎かになってしまうんだな。
そのあたりが、この作者の上手いところなのだろう。

物語としても、登場人物たちに用意されているのは納得の着地点。

 読んでいる間、アランについては
 「いっそのこと××××してしまえばいいじゃん!」なんて
 思ってたんだが、ラストではホントにそうなってびっくり。

終わってみると、途中がドロドロしていたせいか(笑)、
意外にすっきりとした幕切れを迎えるのが心地いい。


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テーラー 人生の仕立屋 [映画]

以前、「ローズメイカー」というフランス映画を観たときも思ったが
ヨーロッパの映画は、いわゆるハリウッドの大作映画とは
かなり異なる雰囲気のものなのだなあと思った。

 ハリウッドでもその手の映画は作ってるのだろうけど、
 私が見てないだけなのだろう。
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さてギリシャ映画を見たのはおそらく私の人生で最初じゃないかな。

公式サイトからあらすじを引用しながら、
この映画を観ていて思ったことを書いていこう。

アテネで36年間、高級スーツの仕立て屋店を父と営んできた50歳のニコス。
無口で内気な性格で、店の上の屋根裏部屋に一人で住んでいる。
ギリシャを不況が襲うなか、長年大切に保管してきた
お得意様の型紙を整理する日々が続く。

 冒頭はほとんど台詞がなく、映像で見せていくのだが、
 状況は充分に分かるように描かれているのは上手いと思う。

そんな中、銀行から突然店の差し押さえの通知が届き、
ショックで父が倒れてしまう。
父のためにもなんとか店を立て直したいニコスは、
病院で見たキャスター付きの台をヒントにある事を思いつく。
廃材を使って足踏みミシンを乗せた屋台を作り、
なんと移動式の高級スーツの仕立て屋を始めたのだ。

 仕立屋一筋に生きてきた割には、手先が器用なようで
 独力で屋台を創り上げてしまう。DIY関係の仕事に転職しても
 食っていけそうじゃん、なんて思った(笑)

 しかもこの屋台、人力で引っ張るだけでなく、
 ニコスが所有するバイクの後ろにつないで、リヤカーみたいに
 牽引しても大丈夫なくらいの強度を持つ。たいしたもの。

だが思い切って店を飛び出してはみたものの、
値段が高いオーダーメイドスーツは道端では全く売れず、商売は傾く一方。

 生来口下手なこともあるが、安易に値引きもしないなど
 仕立屋としての矜持も感じる。
 とは言っても、背に腹はかえられないわけで・・・

途方に暮れていると、ある女性に声をかけられる。
「娘の結婚式用のウェディングドレスは作れる?」
これまでは紳士服一筋のニコスだったが、父のため、
そして大切な店のため、初めてのウェディングドレス作りに挑むことに。

ニコスは隣に住む親子、心優しいオルガと元気な娘のヴィクトリアに
手伝ってもらい、女性服の仕立てを学び始める。

 紳士服専門のニコスだけど、ウェディングドレスもちゃんと作れる。
 もちろん仕事場にはドレスの写真が散乱するなど、
 かなり研究熱心なところもうかがえる。
 もちろん、オルガとヴィクトリアの協力あればこそだが。

そして3人で力を合わせて、ニコスの屋台には
カラフルなスカートやワンピースが少しずつ増えていくのだった。
はじめはオルガとぎこちない会話しか出来ないニコスだったが、
無邪気なヴィクトリアの助けも借りながら、お互い徐々に心を開いていく。

 こう書かれていると、ニコスとオルガのラブストーリーに移行するかと
 思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。
 なにせオルガには、タクシー運転手を生業としている夫がいるのだ。
 妻が隣家の仕事に傾倒していく状況は、
 旦那としては当然面白くないわけで・・・

世界に1点のニコスのオーダーメイドのウェディングドレスは
次第に評判になり、アテネの女性達の間でたちまち大人気に。
だが昔気質な父は女性服を作るニコスを
なかなか認めようとはしてくれない。
その一方で、青空の下で店を開けば行列が出来るほどになり、
商売は軌道にのったかのように見えたのだが──。

ハリウッド映画なら、オルガは旦那と別れてニコスとともに商売に励み、
やがて借金も返してハッピーエンド、となるところだろうが
この映画はそういう予定調和を目指さない。

そこのところをどう捉えるかで、この映画の評価も決まるかな。

「映画なんだから、やっぱり楽しく終わってほしいな」って
考える人からは不評かも知れないが
「でも、人生ってそういうものだよね」って共感できる人なら
この映画を評価するだろう。

私は基本的に映画については前者の考え。
映画館に行くのは、金を払って ”2時間の夢の時間” を買う行為、
って思ってるから。

”つらい現実” や ”哀しい事実” なんて、金を払わなくったって
身の回りにいくらでも転がってるんだもの。

でも、この作品を観ていて、頭の中の片隅に
「こんな映画があってもいいかな」って感じる部分があったのも事実。

これはあれかね。
やっぱトシを取ったせいなのかなぁ(笑)。


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忍者大戦 黒の巻/赤の巻 [読書・ミステリ]

忍者大戦 黒ノ巻 (光文社文庫)

忍者大戦 黒ノ巻 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/10/26
忍者大戦 赤ノ巻 (光文社時代小説文庫)

忍者大戦 赤ノ巻 (光文社時代小説文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/09/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★

私くらいの年齢だと、”忍者” といえば
「伊賀の影丸」とか「仮面の忍者赤影」とか
「サスケ」とか「忍風カムイ外伝」とかの作品名が
ずらずら出てくるのだけど、これはみんな原作はマンガで、
それがアニメ化されたり実写化されたりしてる。

私の少年時代は、いわゆる ”忍者ブーム” で、
こういう作品群に胸を躍らせたものだ。

小説の世界ではどうか。
20年前くらいに山田風太郎の忍法帖シリーズをまとめて読んだことが
あるけれど、”ホラー風味のファンタジー” としては面白かった。
でも、子どもの頃に読んだ忍者ものとはかなり懸け離れたものだった。

 まあ、子ども向けと大人向けの違いも大きいのだろうが。

振り返ってみれば、「忍者ものの小説」を読んだことって、
忍法帖以来、数えるほど(たぶん片手にも足りない)くらい。
書く人がいないのか、書かれてるけど私の視野に入ってこないのか。

そんなとき、この書き下ろしアンソロジーを知った。
”忍者ものに特化” という、かなり読者を選びそうな題材設定(笑)だが
もう一つの特徴として、
作者がみなミステリー作家だということも興味を惹いた。

『黒ノ巻』

「死に場所と見つけたり」(安萬純一)
小浜藩家臣・韮山平右衛門(へいえもん)とその息子・兼明(かねあき)は
幕府が藩内に潜ませた ”草”(スパイ)であった。
かつては凄腕の忍びだった雉八(きじはち)と右門(うもん)は、
数年前の任務中の大怪我がもとで第一線を退き、いまは
公儀隠密として小浜藩の監視をしながら兼明の教育係となっていた。
その兼明に隠密としての初の指令が下る。
城中から、ある重要文書を盗み出せというものだった。
しかしその命令の裏には、ある陰謀が隠されていた・・・
クライマックスでは雉八と右門の死力を尽くした最後の戦いが描かれ、
そしてラストシーンでは・・・思わず涙腺が緩んでしまった。
トシのせいか、こういう話には弱いんだよなぁ・・・

「忍夜(にんや)かける乱」(霞流一)
バカミスで有名な作者による、バカ忍者アクション小説だ。
徳川の世も100年を過ぎ、忍者も無用の存在になっていた。
このままでは忍びの技は錆びつき、絶えてしまう。そこで忍者たちは
依頼された仕事は何でも請け負う ”エージェント業” を始めた。
現在、業界のシェア(!)は伊賀組と甲賀組で二分されている(笑)。
その伊賀組に入った依頼は、大洗藩藩主の死体を寺まで運ぶこと。
岡場所での腹上死という不名誉を隠すためである。
しかし、かねてより大洗藩をライバル視する木更津藩は、
甲賀組に移送の妨害を命じる。かくして、
藩主の遺体を巡る忍者バトルが始まる・・・
山田風太郎でもやらないだろう(笑)という
奇想天外というか、ほとんどギャグのような忍法合戦の果てに、
意外にもきちんとミステリとして着地する。流石。

「風林火山異聞録」(天弥涼)
舞台は第四次川中島合戦。武田軍の軍師・山本勘助は、
自ら考案した啄木鳥(きつつき)戦法を破られてしまう。
そこで勘助は単身、上杉政虎(謙信)を討ち取るべく敵陣深く潜入する。
総大将の護衛を司る忍者集団・軒猿(のきざる)との死闘を経て
ついに政虎を眼前に捉えるが・・・。
山本勘助が実は忍びだった、というところと、
彼の持つ特殊な ”眼術” が読みどころ。

「下忍 へちまの小六」(山田彩人)
風間十兵衛を頭とする5人の伊賀忍者は、織田方の内情偵察に向かうが
逆に窮地に陥ってしまう。下忍の小六を囮として
他の者は脱出を試みるが、生還したのは十兵衛と小六のみだった。
植物の栽培が趣味で、忍者としての能力は決して高くはない小六が
どんな任務でも必ず生きて還ってくるのはなぜか・・・
ホラーな展開になりそうかと思いきや、合理的な解決を見せる。

「幻獣 伊賀の忍び 風鬼/雷神」(二階堂黎人)
徳川家が幕府を開いたものの、いまだ豊臣に与しようとする者がいる。
服部半蔵は甲州を探らせに2人の忍びを送り込むが、連絡が途絶える。
新たに3人の忍びを遣わしたが、こちらも
血文字で書かれた謎の文を残して消息を絶った。
かくして半蔵は風鬼と雷神、2人の手練れを送り込むのだが・・・
クライマックスで登場する〈三つ首のオロチ〉がとにかく圧巻。
これはぜひ映像で観たいなあ。「赤影」なみに派手な絵になりそう。
いちおう書いておくと、キングギドラではありませんので念のタメ(笑)。

『赤ノ巻』

「殺人(せつにん)刀」(鏑木蓮)
寛永十五年、公卿出身の嘉内四郎という者が
柳生新陰流との真剣勝負を挑んできた。
新陰流は将軍家兵法指南、万が一にも負けは許されない。
そこで柳生家当主・宗矩は「印」(いん)と呼ばれる4人の忍びを呼ぶ。
苦人(くにん)・集人(しゅうにん)・滅人(めつにん)・道人(どうにん)は
「くじき」と呼ばれる特殊な技を持っていた。
相手の体内(内蔵や脊髄)を傷つけ、死に至らしめる。
しかもそれは時間差を置いて発動する。
早いものは数時間後から、最長では10年後まで。
彼らは、柳生家との試合中に発動するように事前に「くじき」を仕掛け、
それによって相手を敗死せしめてきた。今回も、道人は
嘉内四郎に対して「くじき」を仕掛けることに成功するが
相手は ”予定” より早く、試合の日の早朝に死んでしまう。
”仕損じた” とされた道人は、仲間たちから追われる身となるが・・・
なんともぶっ飛んだ設定だが、忍者ものならアリか。
柳生と言えば十兵衛だが、本作にも登場する。その扱いもまた面白い。

「忍(しのび)喰い」(吉田恭教)
幼い頃に上杉家の忍者集団・軒猿(のきざる)衆に拾われた
朧源蔵(おぼろの・げんぞう)は、長じて手練れの下忍となった。
やがてくノ一の桔梗と恋仲になり、夫婦となることを許される。
2人はそろって越中へ潜入するが、一年後、源蔵のみが呼び戻される。
それは新たな小頭となった三郎の命令だった。
桔梗を源蔵と別れされた後、我が妻にしようというのだ。
源蔵は三郎を殺して脱走し、抜け忍となる。
追っ手を躱しながら桔梗のもとへ急ぐのだが・・・
”抜け忍” つながりのせいか、なんとなく白土三平の雰囲気を感じる。

「虎と風魔と真田昌幸」(小島正樹)
訳あって北条家家臣、江川貞永の娘・さゆきを
居城の沼田に匿うことになった真田昌幸。
しかし北条家はさゆきの命を奪うべく、
忍び軍団・風魔衆を差し向けてきた。
そこで昌幸は家臣の出浦盛清(いでうら・もりきよ)に、
さゆきを上杉領まで送り届けることを命じる。
盛清は横山甚吾(じんご)たち4人の忍びと
阿佐美(あさみ)康行という牢人を雇い、上杉領へと向かうが
最初に泊まった旅籠で康行が謎の毒殺死を遂げ、
さらに翌日、山道に差し掛かった一行の中で
さゆきが突然、姿を消してしまう。
そこは険しい崖と深い谷に挟まれた道の上だった・・・
文庫で70ページほどの中に毒殺トリックと人間消失トリックを
盛り込むなど、「やり過ぎミステリ」はここでも健在。
最後の2行については、いくらなんでもそれはないだろう(笑)。

「月に告げる」(羽純未雪)
天正十年。織田家家臣・伏屋(ふしや)角之助の養女・清夜(さや)は
言葉が話せないが美女との評判は高く、
信長の側室となることが決まっていた。
しかしある夜、清夜の暮らす近江の屋敷の庭先に、
切り刻まれた死体と覚しきものが入った袋が見つかる。
驚いた警備の者が清夜の部屋に入ると、
そこに彼女の姿はなく、あたりは一面の血の海だった・・・
忍者バトルあり、哀しいラブストーリーあり、そして
後半に行くと本能寺の変の意外(やっぱり?)な、”黒幕” が登場する。
サービスたっぷりな一編。

「素破(すっぱ)の権謀 紅城奇譚外伝」(鳥飼否宇)
市房(いちふさ)信秀の居城・市房城は難攻不落として知られていた。
猛将・鷹生龍久(たかき・たつひさ)も攻めあぐね、
根来忍者・田中無尽斎(むじんさい)の知恵を借りることに。
入念に下準備をした無尽斎は信秀の子・朱鷺丸(ときまる)を誘拐し、
そこから壮大な仕掛けが動き始める。
作者には『紅城奇譚』という長編があって、その外伝なんだが
これだけでは本編とのつながりがよくわからない(笑)。
単体でも充分ミステリ的に面白い出来なのだけど、
やはり本編を読まないと本来の良さは分からないのかも知れない。
作中の何カ所かに、無尽斎が見せる超常の忍術について
それっぽい科学的な説明が書いてある。まあこの手の解説の常で、
理屈の上では可能なのかも知れないが、実際には無理だと思うよ。
でも ”それは言わない約束” なんだろう(笑)。

「怨讐の峠」(黒田研二)
本能寺の変の直後、徳川家康は伊賀の国を抜けて三河へ戻った。
いわゆる ”伊賀越え” のエピソードを忍者の側から語る。
伊賀の下忍・音吉は、織田家の伊賀攻めで妻・お菊を殺され、
無気力な日々を送っていたが、あるとき服部正茂に呼ばれ、
新たな任務を授かる。すなわち三河に向かう徳川家康の護衛だ。
しかし家康の目的は、本能寺の変を起こした明智光秀を討つこと。
憎き織田信長を殺してくれた明智を討つことに加担はできない。
音吉は護衛の任を引き受けるが、密かに心の中で決めていた。
「家康は誰にも殺させない。俺がこの手で殺す」と。
葛藤を抱えながらも、”敵” の襲撃から家康を守って奮戦する音吉。
その中で、お菊を殺した者の正体が次第に明らかになっていく・・・
終わってみれば、もう器が違うとしか言い様がないくらいの
家康の狸親父ぶりが際立つ。
まあ、こうでなくては天下はとれなかったのだろうと納得。

どの作品も、忍者同士の壮絶なアクションが織り込まれていて
楽しく、そしてちょっぴり懐かしく読ませてもらった。
やっぱり忍者ものはおもしろい、と再確認。


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月蝕島の魔物 [読書・その他]

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/11/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台は19世紀のイギリス。
両親を亡くして大学を中退し、雑誌記者をしていたエドモンドは
1853年にクリミア戦争に騎兵として出征した。

激戦をくぐり抜けて辛くも生還を果たしたエドモンドは
1856年にイギリスへ帰国する。ときに31歳。

しかし出征中に親族のほとんどは病死したり消息不明になり、
残っていたのは17歳の姪、メープル・コンウェイだけだった。

エドモンドはメープルとともに、会員制貸本屋である
ミューザー良書倶楽部(セレクト・ライブラリー)に職を得る。

その頃、イギリスの文豪ディケンズの屋敷に
デンマークの童話作家アンデルセンが滞在していた。

エドモンドとメープルは、この2人の世話役を命じられ、
彼らのスコットランド東岸のアバディーンへの旅に同行することになる。

そこで彼らが出会ったのは、スコットランド西岸にある
”月蝕島” の領主リチャード・ゴードン大佐。
島民に対して圧政を敷いているという曰く付きの人物だ。

折しも、その月蝕島には巨大な氷山が流れ着き、
その中には一隻の帆船がそっくり氷づけになっているという。

それに興味を示したディケンズに引っ張られ、
エドモンドたち4人は月蝕島へ向かうことになるが・・・

三部作の第1巻ということもあるのか、
前半1/3ほどは主役2人の紹介がメイン。
今回のキーパーソンのゴードン大佐が登場するのはその後、
主人公たちが月蝕島に上陸するのは後半に入ってから。

とは言っても、ディケンズ、アンデルセンなどの
実在人物の描写もなかなか楽しく、前半も飽きさせない。

途中から出てくるメアリー・ベイカーというお婆さんも
なかなか逞しい人なのだが、なんとこの人も実在の人。

ある程度は史実に基づいているのだろうが、
もちろんそれなりの脚色は入っているだろう。
まあそのあたりはベテランだからね。きっちりできてる。

普段は常識家だが、非常識な相手には非常識な対応を躊躇わない。
死線をくぐり抜けた戦士でもあるから、武器だってふるうエドモンド。
聡明な美少女なんだが、跳ねっ返りで威勢のいいお嬢さんのメープル。

主役の二人は、どちらも田中芳樹の作品では
お馴染みのキャラ造形といえるが、そのぶん手堅い感じはする。

敵役となるゴードン大佐、その息子のクリストルと
こちらも絵に書いたような悪役ぶりで何とも分かりやすい。

楽しい読書の時間を得られる本であるのは間違いない。

気軽に読める本ではあるが、書く側はかなり苦労していると思える。
歴史考証はかなり練り込んでるみたいで、
巻末の参考文献の数にはちょっと驚く。

同じく、関連する事項の歴史年表までついてるんだが
こちらは作者の自作だろう。
1789年のフランス革命から、1907年の北京ーパリ間の
ユーラシア大陸自動車レースまで、主に西洋での出来事に加えて
文学や科学の発明発見などの文化文明史も取り込んであって、
同時期に起こっていたことを眺められるのはかなり面白い。

 マリー・キュリーのラジウム発見と
 アメリカがハワイを併合したのと
 H・G・ウェルズが「宇宙戦争」を発表したのが
 いずれも同じ1898年だった、とかね。

まだまだ女性の地位の低い時代にあって、
職業婦人となって男性に伍して生きていこうとするメープル嬢。
彼女はどんな人生を送るのだろう・・・なんて思いながら読み終わった。


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ゴーストハント2 人形の檻 [読書・その他]

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

依頼人として現れたのは森下典子という若い女性。
彼女が兄夫婦と一緒に住んでいる古い洋館で、
奇怪な出来事が起こっているという。

誰もいないところで壁を叩く音がしたり、
閉めたはずの扉が開いていたり、
ものの位置が変わっていたり、なくなったり、
なくなったものが戻ってきていたり・・・

SPRの所長・渋谷一也(通称ナル)は助手のリン、
アルバイトの女子高生・谷山麻衣とともに現場へ向かう。

東京から車で2時間ほどの、閑静な住宅街にあるその屋敷には、
典子の兄・仁、その妻の香奈、一人娘の礼美(あやみ)が住んでいた。

既に森下家に呼ばれていた巫女・松崎綾子、僧侶・滝川法生と再会した
SPR一行はさっそく調査を始めるが、
怪現象は次第にエスカレートしていく・・・

途中からは前回も登場した金髪美少年エクソシストのジョン・ブラウン、
和服姿の美少女霊媒師・原真砂子(まさこ)も加わる。
たぶんこのメンバーはずっとレギュラーメンバーになるのだろう。

前巻の時にも書いたが、この ”チーム・ゴーストハント” の
キャラたちの間の掛け合いが面白く楽しい。

怪奇な描写も多々あるし、中にはぞっとさせられるシーンもあるのだが
私のような ”ホラー嫌い” でも大丈夫だ。

 もともと少女向け小説だったものをリライトしてあるので
 ホラー風味もマイルドなのだろう。

調査が進み、あらゆる可能性を一つずつ潰していって
最後に残ったものが真相・・・なのだが、そこはホラー。
ミステリではないので「そうだったのか!」って
納得にはつながらないのだが、これはこれで面白いとは思う。


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レアリアⅠ~III [読書・ファンタジー]

レアリアI (新潮文庫nex)

レアリアI (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫
レアリアII: 仮面の皇子 (新潮文庫nex)

レアリアII: 仮面の皇子 (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: 文庫
レアリアIII(前篇): 運命の石 (新潮文庫nex)

レアリアIII(前篇): 運命の石 (新潮文庫nex)

  • 作者: 紗衣, 雪乃
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/12/23
  • メディア: 文庫
レアリアIII(後篇): 運命の石 (新潮文庫nex)

レアリアIII(後篇): 運命の石 (新潮文庫nex)

  • 作者: 紗衣, 雪乃
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/12/23
  • メディア: 文庫

まず、私は勘違いをしていました。
このシリーズはまだ完結していなかったのですね。

私の ”積ん読” の山に埋もれていた本なんだけど
「I」が2014年9月、「II」が2015年9月、
「III(前後編)」が2018年1月の刊行で、
それ以後3年以上音沙汰がなかった。

だから、てっきり完結したものと思い込んで
読み始めたんだけどねぇ・・・

舞台となるのは、帝国と王朝が長い間争い続けている異世界。

帝国には、兄王家・魔女家・法皇家の三大勢力がある。
兄王家は現皇帝を擁し、魔女家は軍事・外交を担当、
法皇家は神事と経済面で帝国を支えていた。

主人公ミレディアは幼い頃に ”魔王の森” で命を落としかけた。
彼女を救ってくれたのは謎の少年アキだったが、彼は姿を消した。

ミレディアは魔女家に保護され、当主オレンディアのもとで養育される。
12歳になったミレディアは、王朝軍との戦いのさなかに
アキと再会するが、彼は法皇の神官ロジェと名を変えていた。

帝国軍の軍師として目覚ましい働きを見せるロジェだったが、
彼の行動には不可解なものがつきまとう。

1年後、要衝グランゼリア城の攻防は激戦を極め、
甚大な被害を被った帝国と王朝は、5年間の停戦協定を結ぶ。

そして4年。停戦終了まで1年となったところで
帝国では次期皇帝を決める会議が始まろうとしていた。

候補の筆頭は、法皇家が推す12歳のラムザ皇子。
しかし法皇家は戦争再開派の筆頭だった。

グランゼリア戦では、名だたる武将がことごとく討ち死にしており、
魔女家当主オレンディアは、再戦したなら帝国の敗北は必定と考えていた。

オレンディアは、再戦派の法皇家を抑えるために、
魔女家が後見する12歳の皇子アリルを皇帝候補として擁立する。
さらに、彼を魔女家が後押ししていることを内外に示すべく、
17歳になっていたミレディアをアリルと結婚させることを決めた。

かくして、ミレディアは帝都に向けて旅立つことに・・・

長々と書いてきたけど、物語は17歳のミレディアを中心に進む。
つまり ”魔女の森” とか、アキとの再会とか、グランゼリア戦とかの
過去のエピソードは本筋の間に挟み込まれて語られるのだけど
とにかく、過去シーンが頻繁に登場するし、しかも長い。

時系列も分かりづらくて、正直読みやすいとはとても言えない。

しかも、本筋の進みも遅い。
文庫4冊、1400ページを超えて、作中時間は3か月くらい?

よく言えばゆったり進んでる。

書類上の夫でしかないアリルと、次第に交流を深めていくくだりや、
ロジェ(アキ)への愛憎半ばする感情を心の奥底に秘めるなど
ミレディアというキャラはなかなか面白いし、応援したくはなる。
しっかりしているようで案外うっかりしているところも微笑ましい。

”ツギハギ部隊” の生き残りレナートや最凶将軍ギィなど、
ミレディアを囲むキャラもユニーク。
彼女の親代わりとなるオレンディアとその義弟ミルゼリス。
現皇帝ユーディアスと黒衣の宰相セシル、法皇フロレンス。

綺羅星のように多彩なキャラが登場してきて、確かに魅力的なんだが
上にも書いたように物語の進みがゆったりしていて・・・

こういう雰囲気が好きな人にはたまらないのかも知れないが。

これも上に書いたが、「III・後編」を読んで驚いたよ。
完結しなかったのもそうだけど、さらにもう一つ。

本編は160ページほどで終わり、そして
その後に200ページほどの「碧落」という章がある。
これは本編の4年前のグランゼリア戦を描いた中編だ。

この構成には首を傾げてしまったよ。

本編中でもさんざん語られてきたグランゼリア戦を
なぜここでまた語るのか。
本編中に語られなかったことも書かれてるが
それはそんなに重要なことなのか。

それとも、ここにそれを置く必然性があるのかな。
次巻となる「レアリア・IV」を語る上で、
この「碧落」のエピソードが必要なのか?

 そんなにグランゼリア戦を語りたかったら、
 3巻くらいをまるごと過去編に費やして
 「レアリア・グランゼリア編」とでもしてまず刊行し、その後に本編を
 「レアリア・選帝侯会議編」として刊行したらいいのでは。
 そんなことを思った。


時系列が頻繁に前後して、ストーリーがなかなか進まない。
これがこの作者の持ち味、作風なのでしょうか。
だとしたら、この人とは波長が合わないなあ・・・

続きが出たらどうするかなぁ。
ミレディアの、そして帝国のその後は気になるんだが
たぶん、買わないような気がするなぁ。


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