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月蝕島の魔物 [読書・その他]

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/11/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台は19世紀のイギリス。
両親を亡くして大学を中退し、雑誌記者をしていたエドモンドは
1853年にクリミア戦争に騎兵として出征した。

激戦をくぐり抜けて辛くも生還を果たしたエドモンドは
1856年にイギリスへ帰国する。ときに31歳。

しかし出征中に親族のほとんどは病死したり消息不明になり、
残っていたのは17歳の姪、メープル・コンウェイだけだった。

エドモンドはメープルとともに、会員制貸本屋である
ミューザー良書倶楽部(セレクト・ライブラリー)に職を得る。

その頃、イギリスの文豪ディケンズの屋敷に
デンマークの童話作家アンデルセンが滞在していた。

エドモンドとメープルは、この2人の世話役を命じられ、
彼らのスコットランド東岸のアバディーンへの旅に同行することになる。

そこで彼らが出会ったのは、スコットランド西岸にある
”月蝕島” の領主リチャード・ゴードン大佐。
島民に対して圧政を敷いているという曰く付きの人物だ。

折しも、その月蝕島には巨大な氷山が流れ着き、
その中には一隻の帆船がそっくり氷づけになっているという。

それに興味を示したディケンズに引っ張られ、
エドモンドたち4人は月蝕島へ向かうことになるが・・・

三部作の第1巻ということもあるのか、
前半1/3ほどは主役2人の紹介がメイン。
今回のキーパーソンのゴードン大佐が登場するのはその後、
主人公たちが月蝕島に上陸するのは後半に入ってから。

とは言っても、ディケンズ、アンデルセンなどの
実在人物の描写もなかなか楽しく、前半も飽きさせない。

途中から出てくるメアリー・ベイカーというお婆さんも
なかなか逞しい人なのだが、なんとこの人も実在の人。

ある程度は史実に基づいているのだろうが、
もちろんそれなりの脚色は入っているだろう。
まあそのあたりはベテランだからね。きっちりできてる。

普段は常識家だが、非常識な相手には非常識な対応を躊躇わない。
死線をくぐり抜けた戦士でもあるから、武器だってふるうエドモンド。
聡明な美少女なんだが、跳ねっ返りで威勢のいいお嬢さんのメープル。

主役の二人は、どちらも田中芳樹の作品では
お馴染みのキャラ造形といえるが、そのぶん手堅い感じはする。

敵役となるゴードン大佐、その息子のクリストルと
こちらも絵に書いたような悪役ぶりで何とも分かりやすい。

楽しい読書の時間を得られる本であるのは間違いない。

気軽に読める本ではあるが、書く側はかなり苦労していると思える。
歴史考証はかなり練り込んでるみたいで、
巻末の参考文献の数にはちょっと驚く。

同じく、関連する事項の歴史年表までついてるんだが
こちらは作者の自作だろう。
1789年のフランス革命から、1907年の北京ーパリ間の
ユーラシア大陸自動車レースまで、主に西洋での出来事に加えて
文学や科学の発明発見などの文化文明史も取り込んであって、
同時期に起こっていたことを眺められるのはかなり面白い。

 マリー・キュリーのラジウム発見と
 アメリカがハワイを併合したのと
 H・G・ウェルズが「宇宙戦争」を発表したのが
 いずれも同じ1898年だった、とかね。

まだまだ女性の地位の低い時代にあって、
職業婦人となって男性に伍して生きていこうとするメープル嬢。
彼女はどんな人生を送るのだろう・・・なんて思いながら読み終わった。


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