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暗色コメディ [読書・ミステリ]

暗色コメディ (双葉文庫)

暗色コメディ (双葉文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/04/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

「序章」では4人の人間の、半ば狂気に取り憑かれたような幻想、
あるいは直面した謎の事態が語られていく。

主婦・古谷羊子は、ある日デパートに行ったおりに自分を呼び出す
アナウンスを耳にし、それに応じてエスカレーターで正面玄関へ向かう。
そこには夫・征明(まさあき)が待っていたが、彼はなぜか
エスカレーターで羊子の前に立っていた女とともに
立ち去ってしまう。その日以来、羊子は ”もう一人の自分” が
存在するという妄想に悩まされ始める。

スランプに苦しむ画家・碧川(あおかわ)宏は、夜の道で
トラックに衝突された・・・と思った次の瞬間、無傷である自分に気づく。
そして車は何事もなく、彼の体を通り抜けたように去って行った。
この日から、彼は周囲のものの消失現象に悩まされることになる。

葬儀屋の惣吉は、ある日突然、妻の芳江から
「あんたは1週間前に事故で死んだ」と言われ始める。

外科医の髙橋充弘は、いつの頃からか妻・由紀子が
別人にすり替わっているとの妄想に苛まれるようになっていた。

物語のかなり早い段階で、この4人がみな都内にある藤堂病院に
何らかの関わりをもっていることが明かされる。

さらに病院内では、衆人環視のエレベーターからの人間消失事件が
発生したりと、不可解な事象てんこ盛りの展開が続く。
後半に入ると、過去に起こった(かも知れない)殺人事件の存在が
浮上してくるとか、事態はどんどん混迷していく。

読んでいて、「これほんとにミステリかいな」とか
「幻想小説じゃないの」とか「これ絶対説明できないだろ」とか
思ってたのだけど、中盤あたりから少しづつ謎の解釈が示されはじめ、
終盤までには、ほぼきっちりと合理的な解明がなされてしまう。

まあ、かなり苦しい(笑)部分や、強引な力業な部分も垣間見えるけど
不可解なものを ”本人の見た幻覚” と切り捨てることなく、
全ての事象にとりあえずの説明がついていくのはたいしたもの。

さらにスゴいのは、バラバラに見えたこの4人の状況が
実は裏で一つのつながりを持ち、最終的に ”真犯人” となる
一人の人物に収束していくこと。

冷静に考えてみると、かなり無理矢理な部分が存在することも
否めないのだけど、これを ”超絶技巧を駆使したミステリ” ととるか、
”広げた風呂敷を畳むのに四苦八苦してる” とみるかで
本書の評価は変わってくるだろう。

「いくらなんでもそれはないだろう」って感じてしまえば
”破綻した作品” になってしまうだろうし。

私は「ギリギリのバランスのところで踏みとどまった」
って思うんだけど、他の人はどう感じるだろう。


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