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そして医師も死す [読書・ミステリ]

そして医師も死す (創元推理文庫)

そして医師も死す (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/01/22
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

舞台はイギリスの田舎町シルブリッジ。
主人公兼語り手となるのは、そこで開業医を営むアラン・ターナー。

アランはギルバート・ヘンダーソン医師と共同で診療所を経営していた。
そこは一部が住宅となっていてヘンダーソン夫妻が暮らし、
アランもまた別の一室を借りて同居していた。

ある日、ヘンダーソンが自室で死体となって発見されるが
警察は自らの過失による事故死と判定する。

しかしその2か月後、アランは診療所を訪れたハケット市長から
ヘンダーソンの死は何者かが仕組んだものではないか、と問われる。

もしそうなら、犯人は極めて絞られる。
アランか、ヘンダーソンの妻・エリザベスか。

さらに、アランとエリザベスは不倫の関係にあったのではないか、と
街の人々は噂しているとハケットは言う。

アランは自分にかけられた嫌疑を晴らすべく、
独自の調査を始めるのだが・・・

とにかく、登場人物が一筋縄で行かない人ばかり。
腹の中には、表には出ない本音を隠している。
(まあ、それは人として当たり前でもあるんだが。)
その筆頭とも言えるのが語り手のアランだ。

もちろん彼はハケットに対して不倫の噂をきっぱりと否定はする。
でもそれなら、その相手とは会うのも躊躇うのが普通だと思うのだが
エリザベスが訪ねてくると(しかも夜!)すいすいと部屋に通してしまう。
かと言って、男女の仲になりそうでならないという
なんともよく分からない御仁(笑)。

でもねぇ、アランにはジョアンというれっきとした婚約者がいるのだよ。
しかも彼女はハケット市長の姪だったりする。
不用意な行動は市長を敵に回すことになるんだが
そのあたり、分かってるんだか分かってないんだか・・・

アランの語るところの地の文では、
自分はジョアンに首ったけみたいなことを言ってるんだが
本当にそうなのか、怪しく思えてくる。

読んでいると、だんだんジョアンの家庭との間で
雲行きがアヤシくなってくるんだが、それも当たり前だよねぇ。

エルザベスの方も、噂なんて歯牙にもかけないのか
人目もはばからずにアランに会いに来て、
「私も命を狙われていた」と訴える。

この2人を中心にストーリーが展開するのだが、
やがて明らかになってくるのは、ヘンダーソン医師の生前の行動の数々。
いかにも人の恨みを買いそうなものがゾロゾロ出てくる。
そして、疑おうと思えばいくらでも疑えそうな人物もまたゾロゾロ(笑)。

田舎町の狭いコミュニティゆえ、物語の進行と共に
2人に向けられる視線は冷たさを増していく。
それと比例するかのように、アランとエリザベスにかけられた嫌疑は
薄まるどころかどんどん濃くなっていく・・・。

混迷を極める物語なのだけど、ラストで示される解決は
シンプルだけど充分に意外なもの。

なんでこんなことに気がつかなかったんだ・・・とも思うが、
多様な登場人物たちの、濃厚な人間ドラマに目を奪われて
ついつい、そちらへの注意が疎かになってしまうんだな。
そのあたりが、この作者の上手いところなのだろう。

物語としても、登場人物たちに用意されているのは納得の着地点。

 読んでいる間、アランについては
 「いっそのこと××××してしまえばいいじゃん!」なんて
 思ってたんだが、ラストではホントにそうなってびっくり。

終わってみると、途中がドロドロしていたせいか(笑)、
意外にすっきりとした幕切れを迎えるのが心地いい。


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