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忍者大戦 黒の巻/赤の巻 [読書・ミステリ]

忍者大戦 黒ノ巻 (光文社文庫)

忍者大戦 黒ノ巻 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/10/26
忍者大戦 赤ノ巻 (光文社時代小説文庫)

忍者大戦 赤ノ巻 (光文社時代小説文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/09/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★

私くらいの年齢だと、”忍者” といえば
「伊賀の影丸」とか「仮面の忍者赤影」とか
「サスケ」とか「忍風カムイ外伝」とかの作品名が
ずらずら出てくるのだけど、これはみんな原作はマンガで、
それがアニメ化されたり実写化されたりしてる。

私の少年時代は、いわゆる ”忍者ブーム” で、
こういう作品群に胸を躍らせたものだ。

小説の世界ではどうか。
20年前くらいに山田風太郎の忍法帖シリーズをまとめて読んだことが
あるけれど、”ホラー風味のファンタジー” としては面白かった。
でも、子どもの頃に読んだ忍者ものとはかなり懸け離れたものだった。

 まあ、子ども向けと大人向けの違いも大きいのだろうが。

振り返ってみれば、「忍者ものの小説」を読んだことって、
忍法帖以来、数えるほど(たぶん片手にも足りない)くらい。
書く人がいないのか、書かれてるけど私の視野に入ってこないのか。

そんなとき、この書き下ろしアンソロジーを知った。
”忍者ものに特化” という、かなり読者を選びそうな題材設定(笑)だが
もう一つの特徴として、
作者がみなミステリー作家だということも興味を惹いた。

『黒ノ巻』

「死に場所と見つけたり」(安萬純一)
小浜藩家臣・韮山平右衛門(へいえもん)とその息子・兼明(かねあき)は
幕府が藩内に潜ませた ”草”(スパイ)であった。
かつては凄腕の忍びだった雉八(きじはち)と右門(うもん)は、
数年前の任務中の大怪我がもとで第一線を退き、いまは
公儀隠密として小浜藩の監視をしながら兼明の教育係となっていた。
その兼明に隠密としての初の指令が下る。
城中から、ある重要文書を盗み出せというものだった。
しかしその命令の裏には、ある陰謀が隠されていた・・・
クライマックスでは雉八と右門の死力を尽くした最後の戦いが描かれ、
そしてラストシーンでは・・・思わず涙腺が緩んでしまった。
トシのせいか、こういう話には弱いんだよなぁ・・・

「忍夜(にんや)かける乱」(霞流一)
バカミスで有名な作者による、バカ忍者アクション小説だ。
徳川の世も100年を過ぎ、忍者も無用の存在になっていた。
このままでは忍びの技は錆びつき、絶えてしまう。そこで忍者たちは
依頼された仕事は何でも請け負う ”エージェント業” を始めた。
現在、業界のシェア(!)は伊賀組と甲賀組で二分されている(笑)。
その伊賀組に入った依頼は、大洗藩藩主の死体を寺まで運ぶこと。
岡場所での腹上死という不名誉を隠すためである。
しかし、かねてより大洗藩をライバル視する木更津藩は、
甲賀組に移送の妨害を命じる。かくして、
藩主の遺体を巡る忍者バトルが始まる・・・
山田風太郎でもやらないだろう(笑)という
奇想天外というか、ほとんどギャグのような忍法合戦の果てに、
意外にもきちんとミステリとして着地する。流石。

「風林火山異聞録」(天弥涼)
舞台は第四次川中島合戦。武田軍の軍師・山本勘助は、
自ら考案した啄木鳥(きつつき)戦法を破られてしまう。
そこで勘助は単身、上杉政虎(謙信)を討ち取るべく敵陣深く潜入する。
総大将の護衛を司る忍者集団・軒猿(のきざる)との死闘を経て
ついに政虎を眼前に捉えるが・・・。
山本勘助が実は忍びだった、というところと、
彼の持つ特殊な ”眼術” が読みどころ。

「下忍 へちまの小六」(山田彩人)
風間十兵衛を頭とする5人の伊賀忍者は、織田方の内情偵察に向かうが
逆に窮地に陥ってしまう。下忍の小六を囮として
他の者は脱出を試みるが、生還したのは十兵衛と小六のみだった。
植物の栽培が趣味で、忍者としての能力は決して高くはない小六が
どんな任務でも必ず生きて還ってくるのはなぜか・・・
ホラーな展開になりそうかと思いきや、合理的な解決を見せる。

「幻獣 伊賀の忍び 風鬼/雷神」(二階堂黎人)
徳川家が幕府を開いたものの、いまだ豊臣に与しようとする者がいる。
服部半蔵は甲州を探らせに2人の忍びを送り込むが、連絡が途絶える。
新たに3人の忍びを遣わしたが、こちらも
血文字で書かれた謎の文を残して消息を絶った。
かくして半蔵は風鬼と雷神、2人の手練れを送り込むのだが・・・
クライマックスで登場する〈三つ首のオロチ〉がとにかく圧巻。
これはぜひ映像で観たいなあ。「赤影」なみに派手な絵になりそう。
いちおう書いておくと、キングギドラではありませんので念のタメ(笑)。

『赤ノ巻』

「殺人(せつにん)刀」(鏑木蓮)
寛永十五年、公卿出身の嘉内四郎という者が
柳生新陰流との真剣勝負を挑んできた。
新陰流は将軍家兵法指南、万が一にも負けは許されない。
そこで柳生家当主・宗矩は「印」(いん)と呼ばれる4人の忍びを呼ぶ。
苦人(くにん)・集人(しゅうにん)・滅人(めつにん)・道人(どうにん)は
「くじき」と呼ばれる特殊な技を持っていた。
相手の体内(内蔵や脊髄)を傷つけ、死に至らしめる。
しかもそれは時間差を置いて発動する。
早いものは数時間後から、最長では10年後まで。
彼らは、柳生家との試合中に発動するように事前に「くじき」を仕掛け、
それによって相手を敗死せしめてきた。今回も、道人は
嘉内四郎に対して「くじき」を仕掛けることに成功するが
相手は ”予定” より早く、試合の日の早朝に死んでしまう。
”仕損じた” とされた道人は、仲間たちから追われる身となるが・・・
なんともぶっ飛んだ設定だが、忍者ものならアリか。
柳生と言えば十兵衛だが、本作にも登場する。その扱いもまた面白い。

「忍(しのび)喰い」(吉田恭教)
幼い頃に上杉家の忍者集団・軒猿(のきざる)衆に拾われた
朧源蔵(おぼろの・げんぞう)は、長じて手練れの下忍となった。
やがてくノ一の桔梗と恋仲になり、夫婦となることを許される。
2人はそろって越中へ潜入するが、一年後、源蔵のみが呼び戻される。
それは新たな小頭となった三郎の命令だった。
桔梗を源蔵と別れされた後、我が妻にしようというのだ。
源蔵は三郎を殺して脱走し、抜け忍となる。
追っ手を躱しながら桔梗のもとへ急ぐのだが・・・
”抜け忍” つながりのせいか、なんとなく白土三平の雰囲気を感じる。

「虎と風魔と真田昌幸」(小島正樹)
訳あって北条家家臣、江川貞永の娘・さゆきを
居城の沼田に匿うことになった真田昌幸。
しかし北条家はさゆきの命を奪うべく、
忍び軍団・風魔衆を差し向けてきた。
そこで昌幸は家臣の出浦盛清(いでうら・もりきよ)に、
さゆきを上杉領まで送り届けることを命じる。
盛清は横山甚吾(じんご)たち4人の忍びと
阿佐美(あさみ)康行という牢人を雇い、上杉領へと向かうが
最初に泊まった旅籠で康行が謎の毒殺死を遂げ、
さらに翌日、山道に差し掛かった一行の中で
さゆきが突然、姿を消してしまう。
そこは険しい崖と深い谷に挟まれた道の上だった・・・
文庫で70ページほどの中に毒殺トリックと人間消失トリックを
盛り込むなど、「やり過ぎミステリ」はここでも健在。
最後の2行については、いくらなんでもそれはないだろう(笑)。

「月に告げる」(羽純未雪)
天正十年。織田家家臣・伏屋(ふしや)角之助の養女・清夜(さや)は
言葉が話せないが美女との評判は高く、
信長の側室となることが決まっていた。
しかしある夜、清夜の暮らす近江の屋敷の庭先に、
切り刻まれた死体と覚しきものが入った袋が見つかる。
驚いた警備の者が清夜の部屋に入ると、
そこに彼女の姿はなく、あたりは一面の血の海だった・・・
忍者バトルあり、哀しいラブストーリーあり、そして
後半に行くと本能寺の変の意外(やっぱり?)な、”黒幕” が登場する。
サービスたっぷりな一編。

「素破(すっぱ)の権謀 紅城奇譚外伝」(鳥飼否宇)
市房(いちふさ)信秀の居城・市房城は難攻不落として知られていた。
猛将・鷹生龍久(たかき・たつひさ)も攻めあぐね、
根来忍者・田中無尽斎(むじんさい)の知恵を借りることに。
入念に下準備をした無尽斎は信秀の子・朱鷺丸(ときまる)を誘拐し、
そこから壮大な仕掛けが動き始める。
作者には『紅城奇譚』という長編があって、その外伝なんだが
これだけでは本編とのつながりがよくわからない(笑)。
単体でも充分ミステリ的に面白い出来なのだけど、
やはり本編を読まないと本来の良さは分からないのかも知れない。
作中の何カ所かに、無尽斎が見せる超常の忍術について
それっぽい科学的な説明が書いてある。まあこの手の解説の常で、
理屈の上では可能なのかも知れないが、実際には無理だと思うよ。
でも ”それは言わない約束” なんだろう(笑)。

「怨讐の峠」(黒田研二)
本能寺の変の直後、徳川家康は伊賀の国を抜けて三河へ戻った。
いわゆる ”伊賀越え” のエピソードを忍者の側から語る。
伊賀の下忍・音吉は、織田家の伊賀攻めで妻・お菊を殺され、
無気力な日々を送っていたが、あるとき服部正茂に呼ばれ、
新たな任務を授かる。すなわち三河に向かう徳川家康の護衛だ。
しかし家康の目的は、本能寺の変を起こした明智光秀を討つこと。
憎き織田信長を殺してくれた明智を討つことに加担はできない。
音吉は護衛の任を引き受けるが、密かに心の中で決めていた。
「家康は誰にも殺させない。俺がこの手で殺す」と。
葛藤を抱えながらも、”敵” の襲撃から家康を守って奮戦する音吉。
その中で、お菊を殺した者の正体が次第に明らかになっていく・・・
終わってみれば、もう器が違うとしか言い様がないくらいの
家康の狸親父ぶりが際立つ。
まあ、こうでなくては天下はとれなかったのだろうと納得。

どの作品も、忍者同士の壮絶なアクションが織り込まれていて
楽しく、そしてちょっぴり懐かしく読ませてもらった。
やっぱり忍者ものはおもしろい、と再確認。


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