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機龍警察 火宅 [読書・SF]


機龍警察 火宅 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 火宅 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/08/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴い発達した人型近接戦闘兵器・機甲兵装。

 機甲兵装とは、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』におけるATみたいな、
 簡単に言えば "ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。

警視庁特捜部も、テロリスト対策のために最新鋭の機甲兵装「龍機兵」を
3機導入し、その搭乗要員(パイロット)として3人の傭兵と契約した。
日本国籍を持つ元傭兵の姿俊之、
アイルランド人で元テロリストのライザ、
元モスクワ警察の警官ユーリ・オズノフ。
この3人は "警部待遇" で捜査にも加わることになる。
英語名は Special Investigation Police Dragoon (「機龍警察」)。

閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は "異物"。
特捜部は仲間であるはずの組織にすら拒否反応を示される。
しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。

「機龍警察」は、テロリストという外敵はもちろん、
"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。

本書は、そういう宿命を背負った部署の
メンバーたちにスポットを当てた短編集である。

各編のタイトルが漢字二文字に統一されているんだが
「雪娘」以外はみな仏教用語になっている。
それぞれ内容とリンクしてるんだけど、個々の意味は説明しませんので、
皆さんググるなりなんなりしてください(笑)。


「火宅(かたく)」
特捜部主任の由紀谷志郎は、膵臓がんを患って
余命幾ばくもないかつての上司・高木を訪ねる。
高木は努力型で、こつこつと地道な捜査を続ける男ではあったが
出世とは縁遠く、40歳近くまで万年巡査部長と呼ばれていた。
しかし蒲田での一家四人殺し事件で、キャリア管理官の
松尾のもとについてから彼の運命は変わる。
事件は迷宮入りに終わったものの、その後の高木は
とんとん拍子に昇進し、ついには警視にまで登り詰める。
一人暮らしの高木の家で話しているうちに、
由紀谷はあることに気づくが・・・
純粋な警察ミステリとして秀作。SF要素は全くないけど(笑)

「焼相(しょうそう)」
台湾人武器密売組織の残党二人が、機甲兵装二体を駆って逃亡の途中、
児童教育センターに逃げ込んで立てこもるという事件を引き起こす。
館内にいた小学生を含む数十人を人質に取り、
二人は逃亡のために様々な要求を始める。
対応に苦慮した上層部から特捜部に対して出動要請が下される。
人質を危険にさらさず、離れた場所にいる二機の機甲兵装を
同時に無力化するという一見して不可能な作戦に挑む龍機兵の活躍を描く。
今回スポットライトが当たるのは
龍機兵のメンテナンスを担当する技術主任・鈴石緑と
元テロリストという過去を持つ龍機兵パイロット・ライザ。
かつてテロによって家族を失った緑が
ライザに抱く葛藤も事件と並行して綴られていく。
この短編集は特捜部の人間を深堀りする作品がメインで、
龍機兵が活躍する話が少ない。本作はその貴重な一編で、
解決への突破口を開く「特殊装備」も披露される。

「輪廻(りんね)」
ウガンダの反政府組織LRAの武器調達幹部デオブが日本に入国し、
台湾の武器密売組織『流弾沙(りゅうだんしゃ)』と
接触しているのをつかんだ由紀谷たち。
さらにデオブは医療機器メーカー『本川製作所』の社員とも会っていた。
龍騎兵パイロットの一人で元傭兵の姿俊之が推測した彼の目的は、
冷酷非情かつ非人道的な、機甲兵装用のオプションに関するものだった。
未来世界でのロボットアニメなら時折目にするギミックだが
現実世界と地続きな近未来を舞台にした中で見せられると
いささかショックではある。

「済度(さいど)」
テロ組織IRFを抜け、逃亡を続けるライザは、
組織の差し向ける刺客を倒し続けながら世界各地を彷徨っていた。
南米ベネズエラに流れ着いた彼女は、
「X」なる謎の人物から連絡を受けて港町サン・リベルラへ赴くが、
そこで過激派組織FBLにかかわる騒ぎに巻き込まれる。
ライザが特捜部に加わる直前のエピソード。
『自爆条項』を読んでおくと、より一層楽しめるかな。

「雪娘(ゆきむすめ)」
墨田区の工場で、ロシア人ゴルプコフの死体が発見される。
遺体の腹部を貫いていたのは直径3cm、長さ1mに及ぶ鉄棒。
龍機兵パイロットの一人で元モスクワ警察のユーリ・オズノフは
被害者の10歳になる娘・アーニャから事情を聴くうち、
過去にモスクワで捜査に当たった事件を思い出す。
被害者は元軍人、そして9歳の孫娘と暮らしていた・・・
この世界設定ならではのミステリ。

「沙弥(しゃみ)」
九州で暮らしている高校生・由紀谷志郎は札付きの不良だった。
不倫相手に捨てられたことを苦にして母親が自殺しても
彼の素行は改まらず、悪友の福本とともに喧嘩に明け暮れていた。
その福本が亡くなったとの知らせに警察へ赴いた志郎は
彼が連続ひったくり犯の容疑者となっていたことを知る。
由紀谷が警察官を目指すきっかけとなったエピソード。
東京で警察官をしている叔父・岩井がいい味を出してる。

「勤行(ごんぎょう)」
理事官の宮近(みやちか)浩二は、特捜部の職務に忙殺されて
家に居着かず、妻には幻滅され娘には愛想を尽かされかけている。
娘のピアノ発表会を明日に控え、必ず出席すると約束をするが
特捜部に対して突然、国家公安委員長の国会答弁書作成の命令が下される。
同僚の城木理事官と共に資料調べと想定問答集の作成に取りかかる宮近。
夜を徹した作業のおかげで、予定通りなら何とか午後の発表会に
間に合うはずだったが、不測の事態が次々に襲ってきて・・・
警察官というのは現場で犯人を追いかけているだけではなくて
こんなことまでやってるんだなあ・・・と思った。
中央官庁の官僚は、国会会期中は家に帰れないくらい忙しいとか聞くが
警察幹部だって官僚なんだねえ。
発表会をすっぽかしたら、今度こそ家族に相手にされなくなってしまうと
心配になったけど、この収め方は見事。

「化生(けしょう)」
大手商社『海棠(かいどう)商事』を巡る一大疑獄事件のさなか、
重要参考人と目されていた経済産業省の官僚・平岡が自殺した。
特捜部は平岡が接触していた相手がフォン・コーポレーションの
社員・唐(タオ)であることを突き止める。同社は過去にも
多くの事件の影で暗躍してきた、“限りなく黒に近い企業” でもあった。
さらに唐は、光コンピュータ用の光半導体を開発している
如月フォトニクス研究所にも出入りしていた。
そして研究所の研究員・西村が毒殺される・・・
龍機兵の抱える ”秘密” にまつわるエピソードが語られる。
長編であるシリーズ本伝では、警察組織内部に潜む
巨大な ”敵” の存在が暗示されているが、
それとの決戦の時がそう遠くない未来になるであろうことも。

現在、本伝シリーズは第二作の『自爆条項』までしか読んでないんだが
従来の機甲兵装に対して圧倒的な性能差を誇る龍機兵を
どこの誰が開発したのかは明かされてない。
(第三作以降で明かされてるのかも知れないが)

そのあたりも含めて、早く本伝の続きが読みたいんだけど、
このシリーズは文庫化のスピードが遅いんだよねえ・・・
そんだけ売れてるってことなんでしょう。

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