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玉依姫 [読書・ファンタジー]


玉依姫 八咫烏シリーズ5 (文春文庫)

玉依姫 八咫烏シリーズ5 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
「黄金(きん)の烏」「空棺(くうかん)の烏」と続く、
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の第5巻。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。
第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

そして「黄金」「空棺」では、その「八咫烏」たちを
喰らい尽くそうとする凶悪な "大猿" が登場し、
両者の抗争、そして烏たちによる戦いの準備が描かれてきた。

この流れなら、次巻ではいよいよ "大猿" たちとの
決戦が描かれるものとばかり思っていたのだが・・・

ところが今作はかなり予想外の物語となっている。
以前の4作は、異世界『山内』で展開されてきたのだが
なんと今回は1995年の日本が舞台となっているのだ。


主人公は女子高生・志帆。
交通事故で両親を失い、祖母・久乃と暮らしている。

ある日、彼女の前に修一という男が現れる。
彼は亡くなった志帆の母・裕美子の兄、つまり伯父だった。

37年前、久乃は夫と修一を残し、裕美子だけを連れて
嫁ぎ先だった「山内村」を飛び出していたのだ。

志帆は久乃に息子(修一)を捨てた理由を問うが、
祖母は頑なにその理由を語ろうとはしない。

真実を確かめようと思った志帆は
修一の招きに応じて山内村を訪れるのだが、
そこで待っていたのは山神を祀るための恐ろしい儀式だった。

唐櫃(からびつ)に押し込められ、山神へ捧げる人身御供とされた志帆は
村の中心にある龍ヶ沼の社へ連れてこられる。

そこへ現れたのは身の丈3m近い大猿の群れ。
彼らによって村を見下ろす山の上に運ばれた志帆は、山神と対面する。
それは赤ん坊の体格ほどしかない異形の怪物であった・・・


このあたりまでなら、伝奇ホラーにありがちな展開ではある。
実際、これに似たような作品も過去に読んだことがあるが
さすがは阿部智里というべきか、ここからの展開が意表を突く。


志帆はここで山神の"母親役"となり、
彼が"神成(かみな)る"まで養育しなければならないという。
拒否したり、手を抜いたり、里心をだしたりすれば
山神の怒りに触れ、たちまち殺されてしまう・・・


志帆は現代(とはいっても20年前だが)の女子高生であり
素直に運命を受け入れることはできず、さまざまな抵抗を試みる。
しかしそれがなかなかうまくいかないのはまあお約束だが
彼女のことを何とか救い出そうとする者も現れる。
それが八咫烏の長、奈月彦である。

ここで読者は、本作と八咫烏シリーズが地続きであることに安心する(笑)。

とはいっても、そう簡単にことは進まない。
どうやら、大猿も八咫烏も、
この山神に仕える神使(しんし)であるという。

つまりこの山神は彼らにとって共通の "上位の存在" であるわけで、
大猿と八咫烏の抗争の原因もまたこの山神にあることがわかってくる。
そして奈月彦たちの住まう『山内』の存在理由まで。

さらに、志帆の行動はある時点を境に大きな変化を遂げるのだが
その理由もまた後ほど明らかになる。
物語の序盤からしばしば登場する謎の少年といい、
あちこちに張られた伏線が終盤できれいに収束していくのは
よくできたミステリを思わせる。

 もっとも、第1作「烏に単は似合わない」も立派な本格ミステリだった。
 一度、彼女にはミステリがメインの話を書いてもらいたいなあ。
 舞台は現代でもいいし時代物でもいいけど。

そして、様々な謎がきれいに解かれたその後に、
もう一段のサプライズが待っている。
いやはや達者なものである。
本書の発表時はまだ25歳だったはずで、
その年齢でここまで書けるとは。


・・・と思っていたら、巻末に収録された「自著を語る」によると、
時系列的には本書(の原型)が最初に執筆されたという。
そしてそれはなんと高校生(!)の時だったそうな。
「栴檀は双葉より芳し」というけれど、すごいにも程があるよねぇ。

そのとき脇役だった八咫烏をメインに据えて書いた番外編
(「烏に単は-」)がデビュー作となってしまったとのこと。

シリーズは次巻「弥栄の烏」で第1期が完結するのだけど、
その前に大猿や烏たちの設定を説明しておく必要があって
本作の発表となった(もちろん内容はリライトされている)らしい。

「弥栄-」の文庫化は来年の初夏あたりですかね。
楽しみに待ちましょう。

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