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煙突の上にハイヒール [読書・SF]


煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

近未来のテクノロジーと人間の関わりを描く短編SFを
5編収録した作品集。


「煙突の上にハイヒール」
結婚詐欺師に引っかかって落ち込んでいたOL・織香(おりか)は
たまたま雑誌の広告で見かけた ”MeW” を衝動買いしてしまう。
MeW(Man enhancer by Wing)とは、一人乗りのヘリコプター。
背中に背負った小型モーターとプロペラを
新型バッテリーで駆動させ、30分の飛行が可能。
MeWによって空を飛ぶ楽しさに目覚め、変わっていく織香。
彼女の前に広がる新たな世界、現れる新たな友、そして新たな愛・・・
人とテクノロジーの幸福で理想的な関係を描いていて、読後感も良好。

「カムキャット・アドベンチャー」
主人公・御厨(みくりや)は大学の研究室で助手をしている。
彼の飼い猫・ゴローが最近太りだした。
誰かが隠れて餌をやっているらしい。
そこで彼は、ゴローの首輪に超軽量カメラを取り付けるが、
猫の行く先で予想外の ”隠し撮り” をしてしまう・・・
この短編、雑誌発表が2008年なので、今ならもう
これくらいの小型カメラは実現してるんじゃないかなあ。
近未来を描くSFは、いつか時代に追いつかれ、
そして追い越されてしまうという宿命を負ってるんだが
それでもなお、この作品のラストは微笑ましい。
とはいっても、御厨の行動はやはりやり過ぎでしょう。
撮られた相手が寛容だったので大事にならずに済んだけど。

「イヴのオープン・カフェ」
小雪の舞うクリスマス・イヴの夜。
ある ”事情” を抱えたOLの未知(みち)は、
カフェの屋外席に腰を下ろすが、そこには先客がいた。
それは少年型ロボット・”タスク” だった。
”彼” は、未知に自らの身の上を話し始める。
アルツハイマー病を患ったユーザー・”華(はな)さん” の
介護をしていたが、3日前に ”華さん” が亡くなったので
サービスセンターへ自力で歩いて帰る途中なのだという。
”タスク” と言葉を交わすうちに、未知もまた自らの過去を顧みる。
毎回思うことだけど、SFに登場するロボットって
なんでこんなに健気なんだろう。今回の ”タスク” も、
抱えた "事情" に悩む未知の心を少しずつ癒やしていくのだが、
ロボットなのに、いや、ロボットだからこそ
未知の心を掴んでいくことができるあたりは感動的ですらある。
ちょっとミステリっぽいところもあって、
そのへんもアシモフに寄せたのかな。
個人的には、本書の中で最高作。

「おれたちのピュグマリオン」
吉崎晃司は、一角電機工業で二足歩行ロボットの開発をしている。
あるとき、部下の倉近稔が会社に無断で
女性メイド型ロボットを試作していたことに気づく。
しかしその完成度に驚いた吉崎は、会社に正式な商品化を具申する。
やがて「芳の(よしの)」と名付けられた量産型は発表直後に完売し、
大量のバックオーダーに会社は大増産を決定する・・・
一人の男の発明によって人型ロボットが一気に普及、世界を変えていく。
ロボットはどこまで人間に近づくのか?  そして
ロボットはどこまで人間の行動を代替していくのか?
昔から描かれてきたテーマだけど、
本作もまた独自の未来像を描いてみせる。
その世界が万人に受け入れられるものかどうかはまた別問題だが。
そして、本作のラストは「えー!」っていうオチで締められる。
私自身は、こういう未来はイヤだなぁ・・・って思います。

「白鳥熱の朝に」
高い致死率を持つ新型インフルエンザ ”白鳥熱” が世界中に蔓延、
日本でも4000万人が罹患、800万人を超える死者がでた。
4年間に渡って猛威を振るった ”白鳥熱” が去った後、
残されたのは保護者を失った150万人の子供たちだった。
政府は子供のない有職成人に対して、補助金交付と引き換えに
孤児の扶養を義務づける特別措置法を可決する。
主人公の元医師・狩野習人(かりの・しゅうと)のもとにも
両親を失った少女・芳緒(よしお)がやってくる。
異性を預かることに戸惑いながらも、二人の生活は始まり、
芳緒は狩野のもとから高校へ通い始めるが、
彼女にはある ”秘密” があった・・・
死病がもたらした悲しみと苦しみによって
医師の仕事に背を向けていた習人が、芳緒との出会いをきっかけに
再び前を向いて生きていくことを決意するラストが感動的。

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