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花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮 [読書・ミステリ]


花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 春坂 咲月
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/11/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。

主人公は仙台に住む女子高生・八重(やえ)。
母・久仁子、そして母の再婚相手の陸朗との3人暮らし。

八重は高校2年の夏の夕暮れ、着流し姿の青年と知り合う。
彼の名は琥珀(こはく)。ちなみに本名である。
職業は仕立屋で、どうやら超絶的な和裁の技術の持ち主らしい。
着物そのものにも豊富な知識を蓄えている。

そんな二人が出会う、着物に関する謎を描く連作短編集。
ちなみに章題の "裂" は "きれ" と読む。
たぶん "布きれ" の "きれ" でしょう。


「一の裂 着物を着ると泥棒になる?」
八重が通う篠笛教室の仲間・相良の3歳になる娘・未由(みゆ)が
突然、七五三で着物を着るのを嫌がりだしたのだという。
"キモノをきたらドロボウになる"と言い出して・・・

「二の裂 呪いまじない、解くほどく」
八重の同級生の小梅と朝美(あさみ)。
母親同士が何かと張り合っていて、そのあおりで娘たちも仲が良くない。
その朝美がなぜか八重と小梅のためにシュシュを手作りしてきた。
しかし、使われている布に描かれている絵柄に
"呪い" が込められているのではないか? と八重は不安を抱くが・・・

「三の裂 花の追憶」
「四の裂 辻が花の娘」
「五の裂 花を追え」
後半3話は、"幻の古裂(ふるぎれ)" と呼ばれる
貴重かつ高価な布地《辻が花》を巡る物語になる。


ここまで書いてくるとワトソン/八重とホームズ/琥珀のコンビが
和服を巡る謎を解いていく探偵物語、
そして事件を通して二人がラブラブになっていくストーリーって
思うかもしれないが、読んでみた雰囲気はいささか異なる。

琥珀の方は、ほぼ一目惚れに近い形で八重にぞっこんなのだが
八重さんは琥珀に対して好意は抱きつつも、
その先に踏み出すことができない。
彼女が琥珀と恋愛関係に入るには、
いくつかの "障壁" を超えなければならないのだ。

その最大のものは、本書のメインである古裂《辻が花》を巡る問題。
かつてこの古裂のために八重の実の父親は "犯罪者" と呼ばれ、
幼い頃の八重もまた《辻が花》の行方を追う者たちから
理不尽な仕打ちを受けていた。
そのせいもあり、八重自身が着物に対して忌避感を抱いている。

本書の後半は、その《辻が花》を巡る陰謀、そして真実が描かれる。
そして琥珀自身もまた、八重の過去に
意外な形で関わっていたことも明らかに。

本書は八重が "障壁" を乗り越えて、
琥珀と向き合うまでの物語でもある。

エピローグでは八重は大学生になり、
琥珀との付き合いも新たな関係に入りそうだ。
この二人の物語はシリーズ化されていて、
すでに第3巻まで刊行されている。

続巻も手元にあるので(いつになるかわからんけど)そのうち読む予定。

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紐結びの魔道師 [読書・ファンタジー]


紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/11/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★

異世界〈オーリエラント〉を舞台にしたこのファンタジー・シリーズは
毎回、登場する土地やキャラクター、そして時代もまちまち。

本書は、紐に様々な結び目を施すことで発動する
〈テイクオク魔法〉を操る魔道師・リクエンシスの活躍を綴った短編集。
ちなみに、ほぼ時系列に沿って並べられているようだ。

 一部、順番が前後するものもあるみたいだが、
 もっとも魔道士は常人を遙かに超える寿命を持つみたいなので
 あんまり関係ないかな(笑)。


「紐結びの魔道師」
湖畔の街・サンサンディアにやってきた貴石占術師カッシ。
ここに住むリクエンシスに弟子にしてもらうために来たという。
しかしそれは口実で、実は魔道の勝負を挑みに来たのだった・・・

「冬の孤島」
エズキウムの都から左遷され、ココツコ島に住まう氷と炎の化け物を
退治せよとの命令を受けて、途方に暮れていた魔道師オルスル。
リクエンシスは彼に助力を申し出る(というか肩代わりする)のだが・・・

「形見」
文庫でわずか6ページの掌編。
リクエンシスが見つけた死体は、
彼にとって宿敵の ”銀戦士” の一人だった・・・

「水分け」
リクエンシスの相棒にして紐魔道の記録係のリコ。
しかし既に齢80を超え、死の床にあった。
なんとか彼の寿命を引き延ばそうと奔走するリクエンシス。

「子孫」
文庫でわずか10ページの掌編。
踊り子のニーナと旅を続けるリクエンシス。
嵐を避けて立ち寄った村の名を聞いてニーナは驚く・・・

「魔道師の憂鬱」
齢300を超え、いささか虚無感に取り憑かれたリクエンシス。
リコの残した ”紐魔道の書き付け” をきれいに製本してもらうため
ニーナと共にパドゥキアへ向けて出発するが・・・


魔道師ってどちらかというと頭脳労働系の職種(笑)で、
気難しくて偏屈でやたら細かそうなイメージがあるんだけど
本書に登場する紐魔道師リクエンシスはおそよ真逆。

何事にも楽観的でおおらか、情にも厚い。
それでいて剣をとっても一流の腕前。

特筆すべきはそのとぼけた言動。
多くの紐魔道を身につけているにもかかわらず、
どの結び方でどの魔道が発動するのかを覚えていないという(おいおい)。
だから、最初のうちは「結んでみないと分からない」とか
「何度もやり直す」とかの事態が頻発する。

書記係のリコを得てからは、
使用した ”結び方” をいちいち記録してもらうようになるのだが。

本書の最後の時点で300歳を超えているんだが、外見は40歳そこそこ。
魔道師としても戦士としても高いスペックを誇るのに、
行動面でいささか ”ポンコツ” なところが好感を抱かせる。

作者の思い入れがあるのか、読者から人気があるのかわからないが
(たぶん両方だろう)彼を主役とした長編が刊行中。
なんと三部作というボリュームになるらしい。
(この短編集の発行もそれに時期を合わせたんだろう)

第一巻『赤銅の魔女』と第二巻『白銀の巫女』は既刊で
第三巻『蒼炎の戦士』は2019年1月刊とのこと。

うーん、全部単行本なので、文庫になるのはかなり先になりそうですねぇ。
まあ、楽しみに待ちましょう。


おっと、第二巻のタイトルを見て
某アニメでパイプオルガンを弾いている人を
思い浮かべてしまったのはナイショだ(笑)。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第六章 回生編 ED主題歌PV公開 [アニメーション]


デスラー役の山寺宏一さんを歌手に起用というニュースには
正直驚きましたねえ。
まあ歌い手としての力量は申し分ない人ではありますが。

ヤマト史上で主題歌に声優を起用という意味では
「2199」での水樹奈々さんがいましたが、
彼女は元々が歌手で声優になったのは後からじゃなかったかな・・・
って思ってwikiを見たら、デビューの頃から両方やってたみたい。

おっと、元祖のささきいさおさんを忘れてはいけませんでした。
もともとはロカビリー歌手として1960年にデビューして、
声優業はその後(72年の「ガッチャマン」から)でしたね。
そして73年の「キャシャーン」でアニソン歌手としてデビュー、

閑話休題。

さて、10月25日にED主題歌の新PVが公開されました。


例によってPVを観て思ったことをずらずら書いていきます。
ただ、私は先日行われた先行上映会も行ってませんし
(ファンクラブの会員でもないし、それに平日の実施では敷居が高い)
現在公開されてる「第6章 冒頭11分」も観てませんので
(以前から「冒頭○○分」てのは観ない主義なので・・・)
トンチンカンなコメントをしてるかも知れませんが
その辺はご勘弁を。


・デスラー法発射態勢に入るノイ・デウスーラ。
 そしてデスラーのモノローグが。
 「ヤマト・・・大いなる和・・・けだし理想は美しい・・・
  だが、理想だけでは何も救えない」
 放たれるデスラー砲。目標はヤマト・・・だろうなあ。
・戦場を行くアンドロメダ級。両舷には2隻のD級が。山南の乗艦かな。
 東堂艦長、そしてバーガーのカットイン。そして真田の台詞。
 「敵の防御力は圧倒的だ。それを突破できる火力は」
 「トランジット波動砲・・・」答えたのはキーマン。
 ここのバックに入る戦闘シーンがやたらカッコいいんだが。
・主砲を撃ちながら戦場を行くアンドロメダ級。
 重なる声は神崎・銀河副長ですかね。
 「この先戦争が長引けば、人類は生き残るために
  どんな選択をするか分からない」
 山南のアップ。装甲突入型のゼルグード級の群れ。
 このフネって限定生産じゃ無かったのかなあ。
 時間断層で量産したのか? 例の ”盾” が攻撃を引きつけている?
 雄叫びを上げて敵艦に向かう加藤がカットイン。
 「人類が生き延びるために」これは市瀬航海長ですか。
 「そこまでしなきゃいけないのかよ!」激高する島。
 加藤が参加した作戦 ”ブラックバード” の中身を知ったせいと予想。
 第五章ではヤマトの操艦しか出番が無かったけど、
 この章では存在感を示せるか?
・夕日を背に発進するD級艦隊。
 やたら主砲が多いアンドロメダ級が見える。そして芹沢の声が響く。
 「徹底抗戦だ!戦線を維持せよ!」
 盛んに攻撃を仕掛けているのはアルデバランか。
 「時間断層ある限り」このとき示す東堂の表情が・・・
・都市帝国へと降下するアンドロメダ艦隊。指揮するは山南。
 「本艦はこれより彗星中心核に接近し、敵重力源の破壊を試みる!」
 このときの艦隊突入のアングルは「ヤマト2」での
 コスモタイガー隊のそれと同じですね。
 艦隊一斉に波動砲発射。果たして都市帝国に通用するか。
 うーん、全く通じない方に一票。
・「山南、死んでとれる責任などないぞ、山南」
 山南のアップと土方のアップ。このとき流れるのは、
 石塚さんの後を受け継いだ土方艦長役・楠見さんの声でしょう。
・そして山寺さんの主題歌が流れる。
・ノイ・デウスーラのアップ。そしてデスラーのモノローグ。
 「その理想に、現実を変える力があるというのなら」
 キーマンのアップ、山南艦に迫るイーターが艦橋を貫く。
 山南は船外服を着用してるから大丈夫かな?
 そして立ち上がるズォーダー。
・東堂艦長「銀河、最大戦速!」ヤマト級二番艦はどこへ向かうのか。
・戦場を駆ける山南艦(たぶん)。
 走るキーマン、そして古代。場所はノイ・デウスーラの中でしょう。
 対デスラーの白兵戦シーンが再現か。ならば雪もここに絡んでくる?
 「私を倒しに来い、ランハルト」デスラーはそれを待っているようだ。
・敬礼する東堂艦長、古代のアップ。土方の声が響く。
 「生きろ、生きて恥をかけ」
 そして振り返る雪。表情が哀しげに見えるのは気のせいか。
 キーマンにつかみかかる斉藤。何が彼をそうさせる?
 「どんな屈辱にまみれても生き抜くんだ」
 ヤマト直衛(?)の機動甲冑。迎え撃っているのはニードルスレイブ。
 (コマ送りしてやっと分かった)
 加藤、デスラーのアップ。そして銀河。
 「コスモリバース、発動!」いったい何を ”リバース” させるのか?
・補助エンジンを点火するヤマト。土方の命令が下る「ヤマト、発進!」
 周囲の岩盤に亀裂が走る。
 「船体起こせ!」古代が操艦しているのは島が退艦してるからと判明。
 古代は降りなかったんだね。残ったクルーは他にどれくらいいたのか?
 波動エンジンを点火し、発進体勢に入るヤマトでPV終了。


毎回のことですが、時系列をシャッフルしているので
何がどうなるのか全く分かりません。上に書いたことも、
本編を観たらまったくの勘違いだとわかるかも知れないし。

それでも、今回のPVでポイントになる(と私が思った)台詞はこれ。
「生きろ、生きて恥をかけ」
「どんな屈辱にまみれても生き抜くんだ」

40年前の「さらば」のキャッチコピーは
「君は愛するもののために死ねるか?」でしたよねえ。


今回の土方の台詞が「2202」の中で
どのような位置づけにあるのかは分からない。

40年前のオリジナルに対しての、
リメイク版としての ”答え” なのかも知れないし、
最終章ではあっさりと否定されるのかも知れないし、
はたまた、全く別のテーマが浮かび上がってくるのかも知れないし。

どう転ぶにしろ、ここまでつきあってきたのだから
最期まで見届けるつもりです。


来週の予定がまだ未定の部分が多いんだけど、
やっぱり週末は難しそうな情勢。
週明けに休みをもらって観に行くかなぁ・・・・

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満願 [読書・ミステリ]


満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

著者は、『氷菓』ではじまる ”古典部シリーズ” でデビューした
ライトノベル出身の作家さん。
しかし近年、高水準のミステリを次々に発表してる。
本書のその一つ。粒ぞろいの短編を6作収録している。

「夜警」
交番勤務の警官・柳岡のもとに配属された新人・川藤。
柳岡は川藤の警官としての資質に疑問を感じながらも、
日々の業務をこなしていく。
ある夜、交番に通報が入る。男が刃物を持って暴れているという。
柳岡たちは現場で説得を試みるも通じず、男は逆に切りかかってきた。
川藤が拳銃を発砲、男は死亡するが川藤もまた負傷し、
搬送された病院で死亡する。
事件は殉職警官による美談として報道されたが、
現場に不審なものを感じていた柳岡は、川藤の意外な秘密を暴いていく。
誰しも、自分の仕事についてある程度の葛藤はあるものだろうが
さすがにここまで歪んだものを抱えている人は少なかろう・・・
とは思ったが、自分のことを振り返ってみるに
今日まで無事に過ごせてきたのは
ただ単に幸運だっただけだったりするのかな、とか思ったりする。

「死人宿」
アンソロジーで既読。以前にも記事に書いたはず。
失踪した恋人・佐和子が栃木の山奥の温泉宿で働いているという。
復縁を願う ”私” は、とるものも取りあえず会いに行く。
彼女の働く温泉宿の周囲では火山ガスが発生し、
毎年のように死人が出ているという。
”私” は佐和子を説得するために宿泊するが、
露天風呂の脱衣所で遺書が見つかる。
宿泊客の誰かが死のうとしている。
私は佐和子とともに自殺志願者を探し始めるが・・・
ミステリ的な結末のことより、本編の後、
二人はどうなるのかのほうが気になってしまった(笑)

「柘榴」
自他ともに認める美女へと成長したさおり。
大学で出会った不思議な魅力をたたえる男・成海(なるみ)と結婚し
二人の娘を儲けるが、やがて成海は家に寄り付かなくなり、
さおりは一人で子供らを育てていくことになる。
長女・夕子が中学3年生になったとき、さおりは離婚を決意するが
娘たちの親権を巡って成海と対立する。
家庭裁判所の審判を受けることが決まるが、
そのとき夕子が意外な行動をとる・・・
ミステリというよりはホラーな結末だなあ。

「万灯」
商事会社で働くモーレツ社員(死語だねwww)・伊丹は、
バングラデシュでガス田開発に取り組んでいる。
地質調査のための拠点建設の許可を得ようと、
伊丹は候補地のボイシャク村に向かうが
村の実力者・アラムは強硬に反対する。
しかし、村の長老たちはアラムと異なり、
開発を受け入れる意思を示す。しかしその条件として
彼らが示したのは、”アラムの殺害” だった。
遠く離れた異国の僻地で犯罪に手を染めた伊丹。
発覚する恐れは皆無と信じていた彼だが、意外なところから・・・
ミステリというよりは因果応報な物語かな。
人を呪わば穴二つってやつですか。

「関守」
フリーライターの私は、伊豆半島南部の桂谷峠を訪れる。
ここ4年間で5人も転落事故で亡くなっている、死を呼ぶ峠だ。
峠でドライブインを経営する老婆から
今までの事故の模様を聞き出していくのだが・・・
お婆さんの語り口がソフトなのでするする読めてしまうのだが
ラストで一気にホラーになる。

「満願」
アンソロジーで既読。以前にも記事に書いたはず。
苦学生の藤井が住み込んだ鵜川家。
主人の重治は酒と遊興に溺れて家業の手を抜くようになり
妻の妙子はやりくりに苦労していた。
やがて藤井は司法試験に合格して弁護士となるが
その4年後、妙子が高利貸し・矢場を刺殺する事件を起こす。
下宿時代に何くれとなく世話をしてくれた妙子のため
弁護に立った藤井だったが、一審では彼の訴えが認められない。
しかし妙子は控訴を取り下げてしまうのだった・・・
終盤で明らかになる妙子の真意。
前の記事にも書いたが、連城三紀彦の ”花葬シリーズ” を彷彿とさせる
”女の情念” の物語。そしてミステリとしても秀逸。
”鮮やかな反転” とはこんな作品のことを言うのだろう。

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隻眼の少女 [読書・ミステリ]


隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/03/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

1985年の冬。
大学生の種田静馬(たねだ・しずま)は、ある事情から
”死に場所” を求めて、信州の山深き寒村・栖刈(すがる)村を訪れる。

村の旧家・琴折(ことさき)家には、代々ふしぎな力を持つ女性が生まれ、
村を数々の災厄から守ってきたという伝説があった。
そして ”力” を示す女性は 代々 ”スガル” という名で呼ばれてきた。

村内を彷徨う静馬はある日、河原に立つ巨岩・”龍の首” で、
水干(すいかん)を身につけた少女と出会う。
彼女は「御陵(みささぎ)みかげ」と名乗った。

 ちなみに「水干」とは平安時代の古風な装束で
 表紙の写真でモデルの女の子が着てるようなものです(笑)。

みかげは17歳ながら、名探偵だった母親の血を受け継ぎ、
自らも名探偵となることを目指して、
父・山科恭一とともに全国を巡っているのだという。

その2日後、”龍の首” で首を切断された死体が発見される。
被害者は琴折春菜・15歳。
夏菜・秋菜とともに、当代スガルである琴折比菜子が産んだ
三つ子の長女で、次代のスガルとして修行中の身であった。

そしてここから、琴折家を舞台にした連続殺人事件が始まる・・・


役回りとしてはみかげがホームズ、静馬がワトソン役だ。
閉鎖的な村で因習の残る旧家での殺人事件なんて
まんま横溝正史の世界だが、読んでいてあまりそんな感じがしないのは
探偵役のみかげのキャラによるところが大きいだろう。

年上である静馬に対しても高飛車に振る舞うので
いけ好かない女だな~、って思うんだが
時折、静馬を頼りにしてそうなそぶりも見せたり、
弱音を吐いて見せたりと、静馬を戸惑わせる。
このツンデレぶりがなかなか魅力的(笑)。

事件自体は、最終的にはみかげの推理によって
意外な真犯人が判明し、解決を見るのだが・・・

ここまでが第一部。文庫で約500ページのうち、約320ページあたり。
そして第二部が始まる。

時間軸は一気に18年後に飛び、2003年。
”ある出来事” のせいで18年間、世間から遠ざかっていた静馬は、
再び栖刈村を訪れる。

そこで出会ったのは、みかげそっくりの少女。
彼女もまた「御陵みかげ」と名乗った。
18年前の ”先代” の娘で、名前とともに
「探偵」の仕事もまた受け継いだのだという。

そして、琴折家でも再び殺人事件が発生する。
18年前の事件は、本当に解決していたのか?

静馬は、新世代の ”御陵みかげ” とともに、
再び事件の渦中に入っていく・・・

ちなみに、先代より娘のほうが素直そうで、
オジサンは好感度大である(笑)。


探偵役だけ見ているとライトノベルみたいだが、
どっこい本作は超絶かつ骨太な本格ミステリで、
なんといっても2011年に、
第11回本格ミステリ大賞を受賞しているという折り紙付きの作品。

どこがすごいのかを書いてしまうとネタバレになってしまうので
詳しくは書けないが、ラストの謎解き場面で、
作品世界の ”風景” がガラッと変わってしまうのは驚異的だ。
”どんでん返し” ともちょっと違う。
作品中で起こった事象や人物の行動の意味、
そして ”事件の様相” そのものが根底から揺さぶられてしまう。

けっこう長い間ミステリというものを読んできて、
ちょっとやそっとのことでは驚かなくなっていたつもりなんだが
この作品は素直にびっくりしたよ。

さすがは麻耶雄嵩。”鬼才” と呼ばれるだけのことはある。


最後に余計なことを。

ミステリ作品というものはたいてい死人が出て、
あまり明るく終わることはない。
本書の結末もお世辞にも明るいとは言えないのだけど
最後の最後に、3ページだけ割かれている「エピローグ」。
これ、ホントにいい。

長い陰惨な物語につきあってきた読者は、
ここでホッと心温まるものを覚えるだろう。
私は好きだよ。こういう収め方。

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コロロギ岳から木星トロヤへ [読書・SF]


コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/03/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

西暦2214年。
深刻なエネルギー不足に陥った小惑星ヴェスタの人々は、
木星前方トロヤ群の小惑星アキレスへ強制移住を図った。
アキレスの周囲を巡る人工太陽から得られる
豊富なエネルギーを手に入れるためだ。

ヴェスタの方が人口が多く、宇宙航行技術的にも秀でていた。
常備軍を持たなかったトロヤ人は宇宙戦艦アキレス号を建造したものの
衆寡敵せず、ヴェスタの軍門に降ってしまう。
人工太陽周辺のスペース・コロニー群はヴェスタ人に支配され、
トロヤ人たちは小惑星アキレスの地表に押し込められた。
アキレス号は敗戦の象徴として、小惑星アキレス地表の終戦広場に
弾薬と反応炉を抜いた状態で安置され、”見世物” と化していた。

そして2231年のある日。
アキレス号に忍び込んだトロヤ人の少年、リュセージとワランキは
なぜか艦内に閉じ込められてしまう。そして彼らは
艦底部で蠢く、差し渡し5mもの謎の ”根” を目にする・・・

2014年、北アルプスのコロロギ岳の山頂観測所では、
観測施設である大ドームが何者かによって破壊される。
そこで働く天文学者・岳樺百葉(だけかんば・ももは)は、
残骸の中に、赤紫色の巨大な ”大根のようなもの” を発見する。

意外なことに、”大根” は百葉に向かって会話を試みてきた。
やがて ”二人” はある程度の意思疎通をこなすようになる。
”大根” は自らを ”カイアク” と名乗った。
“彼” は、一種の宇宙生命体で、時間と空間を超越して
”回遊” しているらしい。

そして現在、”彼” の体の一端は2014年の北アルプスに、
もう一端は2231年の小惑星アキレスにあるのだという。
アキレスの方の一端は、何かによって ”固定” されてしまっていて
カイアクは ”身動き” ができない状態にある。

しかしこのまま放置しておくと、地球に壊滅的な被害が発生するらしい。
(カイアクの直径が刻一刻と大きくなっており、
 やがて地球の直径を超えるのだそうだ。)

百葉は、2231年にある一端の ”解放” を目指して
あらゆる手段を試み始める・・・


120年後の未来にどのように働きかけるか。
当然ながらタイムマシンなんて便利なものは存在しないので
百葉は(つまり作者は)アタマをひねるわけだ。

例えばメッセージを残すなら書物にして残す、とか
物資を渡したいなら、あらかじめロケットで打ち上げておき、
2231年にアキレスの近傍を通るように軌道を設定しておく。
このあたりは序の口で、作者はいろいろなアイデアを見せてくれる。
これが本作の読みどころだろう。

そして、それらの実現のために百葉が駆使するのは
ネットでありSNSなのだ。
それらを通じてこの事実を世界に知らせ、世界を動かしていく。

 設定だけなら1970年代SFの雰囲気もするが
 このあたりはさすが21世紀の作品だなあ、と思わせる。

時間SFでもあるので、こんなふうに時を超えて
過去と未来で情報のやりとりをしてしまったら
歴史が変わってしまうのではないか・・・?

なあんて心配もあるかも知れないが、
作者はそのへんも抜かりはない。

一連の ”やりとり” の結果、未来は微妙に変わっていく。
どう変わるのかはネタバレになるから書かないけど、
このあたりの収め方も70年代SF的かなと思う。

私は好きだよ、こういうの。

久しぶりに壮大なホラ話を読ませて頂いた。
SFはやっぱりこうでなくちゃねぇ。

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カーリーⅢ 孵化する恋と帝国の終焉 [読書・その他]


カーリー <3.孵化する恋と帝国の終焉> (講談社文庫)

カーリー <3.孵化する恋と帝国の終焉> (講談社文庫)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

1939年。第二次世界大戦勃発の直前に
父の赴任先であるインドへ渡り、花嫁学校である
オルガ女学院へ転入した14歳の少女・シャーロット。

当時のインドは英国の統治のもと、
多くの「藩王国」と呼ばれる小国が存在していた。
彼女の転校は、その藩王国の一つで英国大使を務めていた
父の招きではあったが、シャーロットには
実母の情報を得たいとの想いもあった。
母・ミリセントはシャーロットを産んだ後、
愛人を追ってインドに渡り、そこで死んだと聞かされていたから。

シリーズ既刊の「Ⅰ」「Ⅱ」では、
シャーロットがオルガ女学院で過ごした日々を描いてきた。

関西なまりの英語(?)を駆使するミチル、
マッドサイエンティストへの道をまっしぐら(笑)のヘンリエッタと
心の許せる友人もできる。
前巻で登場したプリンセス・パティ、そして彼女を通して、
”学園一のお嬢様” ヴェロニカとも関係改善が進む。

そして何より、一番の親友となった
イギリスとインドのハーフである美少女・カーリーガード・・・

ガンジーたちによる独立運動、それを押さえようとするイギリス、
そして両者の間で漁夫の利を狙う藩王国。さらには
英仏独露の列強諸国によるスパイが暗躍する1940年のインド。

シャーロットたちもいくつかの陰謀に巻き込まれ、
何とかをそれを切り抜けてきたが、オルガ女学院の閉鎖が決まり、
生徒たちは散り散りになってしまう・・・

そして本書「Ⅲ」は、前作から4年後の1944年の物語となる。

インドからスイスへ移り、勉学に励んだシャーロットは
その後イギリスへ帰国、19歳となった現在は
オックスフォード大学の1年生となっていた。おお、才媛だねえ。

しかし彼女の中には、インドへ渡って
カーリーとの再会を願う気持ちが未だ強く残っていた。

そんなとき、子爵家主催のホームパーティーに潜り込んだシャーロットは
(いちおう、彼女だって政府高官の娘ではあるのだ)
カブールタラ藩王国の第四王子ナリンダー=シンと知り合う。
インドとカーリーのことを熱く語るシャーロットに、王子は提案する。
「僕と婚約すれば、インドへ行けるよ」

かくして、王子と ”偽装婚約” したシャーロットは、
周囲の混乱をよそに、イギリスを出国していく・・・

物語はこの後インドへ舞台を移し、
シャーロットはインド王族の暮らしぶりに驚いたり、
イギリス諜報部のスパイだったエセルバードと再会したり。
そしてクライマックスの ”婚約披露の宴” へと進んでいく。
もちろん、女学院時代の友人たちも招待して・・・


前2作の登場キャラたちも4年の歳月を経て様々に変わっている。

まずは冒頭で明かされるエセルバードの ”正体” で
強烈な一発を食らってしまう。
”偽装婚約” なぁんてライトノベル風に展開する本編の前に
しれっとこんなネタを放り込んでくるのは流石である。
エスピオナージものにさほど詳しくない私でも、
思わずニヤリとさせられたよ。

女学院の面々もそれぞれの場所で人生を歩んでる。
人気モデルとなって世界を巡っているミチル、
パティはインド最大の藩王国ハイデラバードへ嫁ぎ、
上級生だったベリンダもまたインド有数のタタ財閥へ嫁いでいる。
”リケジョ” のヘンリエッタと ”お嬢様” のヴェロニカは
アメリカに渡っていて、特にヘンリエッタの境遇は、
1944年という時代を考えれば「さもありなん」。

もちろん肝心のカーリーとの再会も果たされるのだが
その登場の仕方が、まあ凝ってるというかミステリタッチというか。
このへんは読んでのお楽しみだろう。


てっきりこの「Ⅲ」で完結かと思ってたのだけど、まだ続きそうだ。
ここまで風呂敷を広げてしまうと、なかなか畳むのが大変なのだろう。

ラスト近く、意外な事実が明かされてびっくり。
これはかなり予想外の内容で、読んでいて思わず
「そっちかよ!」って心の中で叫んでしまった(笑)。

続巻「Ⅳ」はまだ発表されていないけど、
どうやら本書の3年後、1947年の物語になりそうだ。
22歳になったシャーロットの運命や如何に。

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チャーチル閣下の秘書 [読書・冒険/サスペンス]


チャーチル閣下の秘書 (創元推理文庫)

チャーチル閣下の秘書 (創元推理文庫)

  • 作者: スーザン・イーリア・マクニール
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/06/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公はマーガレット(マギー)・ホープ。
アメリカ育ちの英国人女性だ。

1916年、エドマンド&クララ・ホープ夫妻の間に生まれたが
その直後に両親を事故で失い、アメリカで大学教授を務める
叔母・イーディスの元で養育される。

長じては数学を専攻し、ウェズリー大学を
優秀な成績で卒業した才媛へと成長したマギーは
ロンドンにある祖母の家を売却するため、イギリスへと帰ってくる。
しかしなかなか買い手がつかず、生活費を稼ぐために
マギーは広大な祖母の家を利用してシェアハウスを始める。

そうこうしているうちに第二次世界大戦が勃発、
1940年のロンドンにはドイツ軍の空襲が始まる。

そんなとき、マギーの元へ首相官邸での秘書としての仕事が舞い込む。
とはいっても主な業務はタイピスト。
数学の能力を活かせないことに難色を示しながらも
彼女はチャーチル首相の下で働き始める。

ロンドンではアイルランドの反英武装組織によるテロが勃発し
ドイツから潜入しているスパイも活動を活発化させていた。
対イギリスという一点で手を組んだ彼らは
チャーチル首相の側近にまで浸透しようとしていた。

マギーは図らずも、彼らの仕掛けた謀略の渦中に
飛び込んでいってしまったのだ・・・


本書の魅力はなんと言ってもヒロインのマギーのキャラだろう。
数学を学んだだけあって頭の回転は速いし
自分の能力にも自信があるから、官邸(というか世間一般)に蔓延る
女性を蔑視する男どもにも怯むことなく立ち向かっていく。

時代設定こそ1940年代だが、
マギーは極めて現代的な価値観の女性として描かれている。
(だからこそ21世紀の小説として受け入れられてるんだろう)

肉体労働よりは頭脳労働派のはずなんだけど、
その割にけっこう簡単に敵の罠にハマってしまうのはご愛敬か。

マギーがシェアしている5人のハウスメイトの女性たちも、
官邸で彼女の上司や同僚となる男女も、
それぞれ見事にキャラが立っているし
マギー自身が若い女性なので、ロマンス要素も描かれていく。

そして中盤では、彼女の父・エドマンドについて
意外な事実が明らかになる。


本書のラストで、マギーは英国諜報部MI-5の新人スパイとして採用され
第2巻『エリザベス王女の家庭教師』へと続いていく。

実はこの記事を書いている時点で『-家庭教師』まで
読み終わってるのだが、こちらのラスト近くでは
さらに大きなサプライズが彼女を待ち受けている。

シリーズ開始当初からこの設定を考えていたのなら、
作者はたいしたものだと思う。
いずれにしろ、この数奇な星の下に生まれたヒロインの前途には、
波瀾万丈の冒険が延々と続きそうだ。

このシリーズは現在第7巻まで翻訳されており、
原書でもまだ続刊が出ているという人気ぶり。

もう何冊か、この威勢のいいお嬢さんに
つきあってみようかと思っている。

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怪しい店 [読書・ミステリ]


怪しい店 (角川文庫)

怪しい店 (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖の活躍する
ミステリ・シリーズの短編集。

今回は「店」にちなんだ作品を5編収録している。

「古物の魔」
骨董店〈骨董 あわしま〉の主人、粟島左衛門(さえもん)は
最近商売に身が入っていない様子。
ある日骨董市から帰ってきた左衛門は「変な物を掴んだ」と
甥の時也(ときや)に語り、その翌日に撲殺死体となって発見された。
現場に残されていなかった凶器の行方から紡ぎ出される推理が
するすると真犯人に繋がるのは見事。

「燈火堂の奇禍」
京都の街を散策していたアリスは、
たまたま通りかかった古書店〈燈火堂〉へ入るが、
そこの店主は前日、万引き犯ともみ合ったことが原因で入院していた。
常連客の証言から、希少本の詩集が1冊、
店から消えていることが判明するが、
火村は「その万引き犯は本を盗んではいない」と断言する・・・
”日常の謎” を安楽椅子探偵の火村が解き明かす。

「ショーウィンドウを砕く」
夕狩正比古(ゆうかり・まさひこ)が自ら社長を務める
芸能プロダクションは、経営危機を迎えていた。
資金繰りに駆け回るも万策尽きて、いよいよ倒産が決定的になった時、
思い余った正比古は愛人・愉良(ゆら)を殺してしまう。
警察の捜査が始まり、正比古の前には警察の協力者と称する
”学者と作家の二人組” が現れる・・・
火村シリーズではあまりお目にかからない倒叙もの。
現場の疑問点を突く火村と、ミスを挽回しようとする正比古。
二人の攻防も面白いし、ラストで火村が提示する ”証拠” もなかなか。
最初から犯人が分かっている倒叙ものには、あまり手が伸びないんだけど
たまに読む分には面白いし、ましてや有栖川有栖なら間違いない。

「潮騒理髪店」
海辺の小さな町で調査を終えた火村は、次の上り列車まで
2時間半も待ち時間があることから、駅を出て理髪店へ向かう。
途中、海辺に立つ二十歳ほどの美女が、
近くの線路を通る下り列車の特急に対して、
手にしたハンカチを振っている所に出くわす。
火村は、入った理髪店の主人との会話から、
美女の行動の意味を推理する・・・
これも ”日常の謎” 系ミステリなんだが、
ロマンチックな光景から意外な ”真相” が導かれていく。
本作とは全く関係ないんだが、『砂の器』(松本清張)で
美女が列車の窓から紙吹雪を撒くシーンを思い出したよ。

「怪しい店」
大阪・京橋近くの裏通りでアリスが見つけた謎の店〈みみや〉。
その実態は『聞き屋』で、店主の磯原記久子は
カウンセラーもどきのことをしていたらしい。
その記久子が絞殺死体となって発見される。
被害者は、仕事上知り得た内容を元に、恐喝もしていたのだ。
現場のテーブルの裏の痕跡から、火村は
ボイスレコーダーが仕掛けられていた可能性を指摘する・・・
そのボイスレコーダーの存在から真犯人を導き出す火村の推理は
今回もまたお見事である。
思えば、子どもの頃には町中の看板に意味不明な文言を見つけて
不思議に思ったこともあったが、
それをこういうミステリに仕立ててしまうんだから
作家というのはたいしたものだと思う。

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問題物件 [読書・ミステリ]


問題物件 (光文社文庫)

問題物件 (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/07/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公の若宮恵美子は、短大時代にヘルパーの資格を取り、
介護関係の仕事を目指したが果たせず、不動産会社へと就職した。

彼女が入社した「大島不動産グループ」は、
創業者の長男・信昭が二代目社長を務めていたが7年前に事故で死亡し、
現在の社長は次男の高丸(たかまる)が務めている。
信昭の遺児・雅弘は難病で寝たきりの状態にあり、
恵美子が与えられた仕事は彼の身の回りの世話をすることであった。

そして1年。雅弘は二十歳となった。
彼のために甲斐甲斐しく働いていた恵美子だったが、
新設された ”販売特別室” への突然の異動が命じられる。
そこは不動産物件へ寄せられるクレーム処理を担当する部署で、
責任者には(名目だけだが)雅弘が充てられ、実働する職員は恵美子1人。

この異動は、雅弘を会社から追放したい高丸社長の画策だった。

恵美子がクレーム処理に失敗すれば、
それがそのまま雅弘の失点に繋がる。
途方に暮れる恵美子だったが、そんな彼女の前に
犬頭光太郎(いぬがしら・こうたろう)と名乗る謎の男が現れ、
様々なトラブルをバッタバッタと解決していくのだった・・・


「居座られた部屋」
取り壊しが決まっている5階建てのマンションで、
最後まで引っ越しを拒否している男・猪俣(いのまた)。
犬頭は、猪俣の居座る ”真の理由” を暴いていく。

「借りると必ず死ぬ部屋」
そこの住人が5人続けて自殺しているという、曰く付きの部屋。
それも服毒、首つり、ビルの屋上から飛び降り、電車へ飛び込み・・・
犬頭は連続する怪死の間に潜む犯罪をあぶり出す。

「ゴミだらけの部屋」
元大手商社のエリートサラリーマン・前島が退職し、
年金暮らしで住んでいる家がいつの間にか堂々たるゴミ屋敷に。
しかしその裏には、ある哀しい理由があった。

「騒がしい部屋」
薬物を使っていると思われる男・高野の部屋で
ポルターガイスト騒ぎが起こる。
しかし犬頭は、騒ぎの裏に潜む大がかりな仕掛けと、
意外な動機を解き明かす。

「誰もいない部屋」
その部屋では、過去3年間で3人の住人が失踪し、
3日前には4人目の住人まで消えたという。
ラストで明らかになるのはけっこう古典的なトリックなんだけど、
本作の雰囲気のせいか、さほど不自然さを感じない。


さて、本作のキモはなんと言っても犬頭光太郎の存在。
単にアタマが切れる探偵と言うだけでなく
腕っ節も強く、常に相手を圧倒してみせる。
およそ物事に動じるということがなく、
どんな人間に対しても ”上から目線” で、
はじめから吞んでかかっている。

常人のレベルを遙かに超えたスペックの持ち主なんだが
ときおり、“超能力” か ”魔法” かとしか思えない
不可思議な能力さえも発動するので、ある意味ホントの ”超人” なのだ。

もっとも、それと並行して彼の ”正体” を
それとなくうかがわせる描写も随所に挿入されてるので、
読者は安心して(笑)犬頭のヒーローぶりを楽しめる。

 まあ、”武闘派のドラえもん” みたいなもんだな・・・(おいおい)。

ファンタジー風味を振りかけたユーモア・ミステリの傑作だ。


雅弘の抱える難病には、新たな治療法が見つかっており、
病状を飛躍的に改善させる可能性がでてきた。
彼の追い落としを狙う高丸が今回の部署を新設したのも、
雅弘が病を克服して表舞台へ出てくることを恐れたからだ。

一方、雅弘の病状が快方に向かえば
恵美子との関係も変わっていくだろう。

本書はシリーズ化されているので、
雅弘と恵美子のロマンスもそこで描かれるのかも知れない。

現在、第二巻も文庫化されていて手元にあるので、近々読む予定。

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