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金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび [読書・ミステリ]

金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび (角川文庫)

金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび (角川文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

私と同年代の方なら、明智小五郎と怪人二十面相の対決に
心を躍らせたことがあるだろうし、
40代以上の方なら、角川文庫での復刊をきっかけに起こった
1970年代の "横溝正史ブーム" をご存じだろう。
石坂浩二や古谷一行が演じる金田一耕助が。銀幕やTV画面で
大活躍していたものだ。

そんな日本が誇る二大名探偵の夢の共演をえがいた
パスティーシュ作品集の第二弾である。


「明智小五郎対金田一耕助ふたたび」
 約120ページの中編。
 冒頭、1945年のニューギニアで
 金田一耕助が玉音放送を聞くシーンから始まるなんて
 なんとも憎い演出じゃないか。
 言われてみればそんなことがあってもおかしくないわけで、
 こういうところがこの手の "二次創作" の醍醐味だろう。
 この2年後、復員して探偵事務所を開業した耕助が
 没落した貴族・柳条家の御曹司・月光(つきみつ)の
 訪問を受けるところから物語は始まる。
 ところがこの御曹司が殺害され、なぜか被害者は
 事切れる直前に明智小五郎のところへ電話を入れており、
 かくして二人の名探偵が事件解決を競うことになる。

「金田一耕助 meets ミスター・モト」
 約20ページの掌編。
 1935年、アメリカで遊学していた金田一耕助が、
 日本へ帰る客船の中で謎の人物から奇妙な依頼を受ける。
 寡聞にして「ミスター・モトって誰?」だったのだが
 巻末のあとがきによるとアメリカ人作家J・P・マーカンドの
 作品に登場する東洋人の名探偵とのことだ。
 これは日米の名探偵の共演、という趣向なのだろう。
 本作とは全く関係ないけど、
 金田一耕助のアメリカ滞在時代の事件といったら
 なんといっても「僧正の手毬唄」(山田正紀)が面白かったなあ。
 また誰かあんな作品を書かないかなあ・・・

「探偵、魔都に集う - 明智小五郎対金田一耕助」
 約100ページの中編。
 1941年。南方戦線で負傷した金田一耕助は上海の病院に送られる。
 療養中の耕助は、本の取り持つ縁で親しくなった大道寺少尉と共に
 夜の上海へ繰り出すが、その少尉が殺害される。
 殺人の容疑をかけられて窮地に陥った耕助を救ったのは、
 軍の防諜任務のために上海に滞在していた明智小五郎だった・・・
 「魔都・上海」って言葉、フィクションの世界では
 盛んに聞くのだけれど残念ながら私は行ったことがない。
 ミステリ好きなら生きてるうちに一度くらいは行っとくべきか?

「物語を継ぐもの」
 約20ページのショートショート。
 ミステリと言うよりはメタフィクション?
 ここに描かれてるのは、たしかにここ数年の
 フィクションの一つの潮流だよねえ。
 でもまあミステリに限らず、ライトノベルや深夜アニメなんかに
 特に顕著に現れてるような気がする。
 これがいいのか悪いのか。長く続くのかそれとも
 ここ数年の流行に過ぎず、何年か先にはまた変わっているのかは
 分からないけれどね。
 個人的には、数年後にはまた流れが変わっていると思うんだけども。
 (読んでない人には何が何だかわからないですね、スミマセン。)

「瞳の中の女異聞 - 森江春策からのオマージュ」
 金田一耕助の登場する作品中、
 唯一、明快な解決の為されていない短編「瞳の中の女」。
 この事件の真相に、作者の分身たる若き日の森江春策くんが挑む。
 最後の事件である「病院坂の首縊りの家」の解決後、
 アメリカへ旅立った金田一耕助が再び日本へ戻り、
 18歳の春策くんと対面を果たす。
 ここは作者の願望を叶えたシーンなんだろうなあ。


人口に膾炙したキャラを使って新たな物語を紡ぐのは
楽しい作業なんだろうけど、プレッシャーもあるんじゃないかなあ。
上手く出来て当たり前で、ミステリとしての出来が悪ければ
もうコテンパンにけなされることもあるかも知れない。

そんなことをすべて承知の上で、パスティーシュに挑戦してくれた
作者に素直に感謝したい。
金田一耕助の、そして明智小五郎の活躍する物語が
また読めるのだから。
なかなかネタを考えるのは大変かも知れないけれど、
このシリーズ、何年かに一冊でいいから続けて欲しいなあ。

できれば、他の作家さんたちにも、
新たな物語の語り手として参加してもらえるとなお嬉しいんだけど。


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