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もろこし銀侠伝 [読書・ミステリ]

もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)

もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/18
  • メディア: 文庫



評価:★★★

東京創元社主催の第3回ミステリーズ!新人賞受賞作「殺三狼」を含む、
短編3作(いずれも文庫で約50ページ)と、
中編1作(文庫で約150ページ)を収録した作品集。

タイトルの「もろこし」とはもちろん「中国」のこと。

かつて伝説の名君・「黄帝」は、自分亡き後に世が乱れることを憂い、
信頼する家臣・游に "銀牌" なるものを与えた。

 この "銀牌" とは、要するに水戸黄門の印籠みたいなモノで、
 これを持つ者は超法規的に悪を制裁することが許されるらしい。
 007における "殺人許可証" みたいなモノとも言えそうだ。

この天下御免の "勧善懲悪権" を受け継ぐ者たちが探偵役となって、
さまざまな怪事件に挑み、悪人を退治していく歴史ミステリである。

「殺三浪」
 口に入れる物は常に毒味を怠らなかった商人・李小遊が毒殺される。
 唯一毒味をしなかったのは薬のみだったので、
 薬屋・蒲半仙が捕らえられてしまう。その一人娘・蒲公英は
 半仙の店に出入りする謎の老人・雲游の助けを借りて
 父の容疑を晴らそうとするが・・・

「北斗南斗」
 科挙を受けるために旅の途中の若者・顔賢。
 寝付けずに、真夜中に外へ出たところ何者かに襲われて意識を失う。
 気がつけば、傍らには女の死体が転がっていて、
 周囲には顔賢以外の足跡はなかった・・・

「雷公撃」
 屋敷の離れで轟いた銃声に使用人たちが駆けつけると、
 そこには屋敷の主人・単震雷の死体が。
 しかも離れは内側から閂がかかり、
 誰も出入りすることは不可能だった・・・

「悪銭滅身」
 出来心から盗みを働いた魚屋の韓六郎が殺される。
 そして、生前の彼が接触したとおぼしき人々まで次々に殺されていく。
 若き遊び人・燕青が、謎の道士・抱壺とともに、連続殺人の謎に挑む。
 ちなみにこの事件の3年後、燕青は梁山泊に加わることになる。


使用されているトリックやギミックは、
現代のミステリではいささか無理がありそうだったり、
ちょっと荒唐無稽に見えそうに思う。
でも、この作品世界の中ならさほど不自然さを感じない。
まあ宋とか明とか元とかの、世界史で習ったような時代の中国なんて、
我々からしたらほとんどファンタジーの世界だからねえ。

そんなことより、"銀牌" を受け継いだ好漢(探偵)たちが、
クライマックスで繰り広げる悪人(犯人)相手の大立ち回りを
拍手しながら楽しむのが本書の正しい読み方だろう。

4作とも、時代も違えば探偵役も異なるのだけど、
読んでると一概にそうとも言えないような気もしてくる。
「殺三浪」に登場する老人・雲游と少女・蒲公英が
時を超え名を変え姿を変えて活躍しているようにも読める。
まあそのあたりは読者の想像に任せているんだろう。

このシリーズは、現在「もろこし紅游録」「もろこし桃花幻」と
続巻が2冊出ている。
いずれも手元にあるので、近々読む予定。


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