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赤朽葉家の伝説 [読書・ミステリ]

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/18
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

桜庭一樹って、かなり前に長編のSFを一作読んだことがあるんだけど
さっぱり分からなかったので、それ以後ずっと敬遠してた。

だから本作もどうしようか迷ったんだけど、
けっこう面白いって評判になったらしいし、
第60回日本推理作家協会賞の受賞作にもなった。

賞の権威ってのをあまり信じる方ではないんだけど、
(ていうか一部の賞はほとんど信じてないんだけど)
受賞作でなかったら読まなかったかも知れないので、
賞をもらうってのはやっぱり大事なんだろうと思う。

閑話休題。紹介に入ろう。

中国山脈の奥深くに隠れ住むという "辺境の人" の一族。
彼らによって、一人の女児が人里に置き去りにされた。
彼女が10歳になった1953年に物語は始まる。

ある日、たまたま道で出会った年配の女性になぜか気に入られる。
「あんた、大きくなったらうちの嫁にきなさい」
その女性こそ鳥取の旧家にして製鉄業を営む大富豪、
赤朽葉(あかくちば)家の大奥様・タツであった。

その日から10年後、タツの言葉通りに
赤朽葉家嫡男・曜司の元へ輿入れしたのが
本書の主人公、赤朽葉万葉(まんよう)である。

万葉には不思議な力があった。
幼少の頃より、ときおり未来が "視える" ことがあるのだ。
彼女はその力によって後に "赤朽葉家の千里眼奥様" と
呼ばれるようになる。

しかし、その力は必ずしも彼女を幸せにはしない。
時として "望まぬもの" まで視えてしまうのだから・・・

奇妙な巡り合わせから旧家に嫁いだ万葉と、
赤朽葉家の一族がたどる、数奇な運命が
時代の流れと共に綴られていく。

東京オリンピック、高度成長、オイルショック、バブル景気・・・

赤朽葉家の盛衰と、戦後の日本が歩んだ歴史とが
二重写しのようになって描かれ、
赤朽葉家の "企業城下町" である紅緑村は、
さながら日本の縮図のようである。

物語は万葉の長女・毛毬(けまり)、孫の瞳子(とうこ)へと続き、
作中時間でおよそ60年以上にもおよぶ、"女三代記" とも呼ぶべき
「大河ドラマ」になっている。

私は世代的には万葉と毛毬の間になる。
(毛毬は丙午・1966年生まれ)
だから本書に描かれた戦後の風俗もかなり分かる。
いままで "歴史物" とか "年代記" っていうと、
自分からかけ離れた過去の話ばかりだと思ってたんだけど
本書では "実感できる" というか
 "実際にその中を生きてきた" ものばかりで
「自分の生きてきた世界が "歴史" になりつつある」のを
実感して、なんだか複雑な気持ちになった。

 まあ、手っ取り早く言えば
 それだけ歳をとったって事なんだなぁ・・・

文庫で約450ページ(しかも活字もやや小さめに組んである)と、
決して短くはないけれど、読み始めるとけっこう引きつけられる。

何と言ってもキャラクターがいいんだろう。

一介の孤児から、運命の波に弄ばれているかのように、
あれよあれよという間に旧家の若奥様になり、4人の子の母となり、
しかし苦難や逆風にも折れることなくしなやかに生き続け、
そしていつのまにか赤朽葉家の大黒柱へと成長していく万葉。

その娘・毛毬は、資産家に産まれながらも、
暴走族 "製鉄天使(アイアン・エンジェル)" のリーダーとなり、
中国地方を走り回って "縄張り" を広げ、
やがて暴走族を引退後は、なんと漫画家へ転身し、
自らの不良時代の経験を描いて大ヒットを飛ばすという、
とんでもなく破天荒な女性として描かれている。

そして孫の瞳子は、自らの平凡さに悩みながらも、
この物語全体の "語り手" となっている。

この3人以外にも実に多彩な登場人物たちが物語を盛り上げていく。

なかでも、学生時代の万葉をいじめる悪役として登場しながら
年代を重ねるうちに、いつのまにか親友となってしまう
黒菱みどり嬢がいいなあ。後半の彼女の登場シーンはとても楽しい。

ミステリとしては、終盤に一つの謎が提起される。
万葉が最後に残した言葉の意味を、瞳子が解き明かすのだが、
この謎解きがそのまま物語の終幕につながるというつくり。

読み終わって感じたのは、
この物語の世界から離れたくないなあ・・・
もう少し、赤朽葉の人々の暮らす世界に浸っていたいなあ・・・
という思いだった。
それだけ、魅力的な作品世界だったと言うことなのだろう。

巻末の「文庫版あとがき」によると、
初稿では毛毬の暴走族時代のエピソードがたくさんあったのだが
完成稿ではごっそり削ったのだという。
でも、削った分は後に加筆し、
「製鉄天使」という別作品として刊行されたとのこと。

近いうちに、そちらも読んでみようと思う。


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