向こう側の遊園 [読書・ミステリ]
評価:★★★
ファンタジー風味の連作ミステリ短編集。
町の郊外にある廃園となった遊園地。
その園内には、四季の花の咲き乱れる秘密の動物霊園があるという。
墓守を務めるのは「森野」と名乗る青年。
この霊園に愛するペットを葬ってもらうためには、
"自分の一番大切なもの" を差し出す必要があるという・・・
様々な理由でこの霊園を訪れる人々と会話を交わし、
森野青年は、人間と動物の間に秘められていた
意外な真実を明らかにしていく。
第一章から第四章までは、ほぼ独立した短編になっている。
入院患者のパートナーとなっていたゴールデンレトリーバー(第一章)、
未確認生物である "ビッグフットの死体" を持ち込んできた夫婦(第二章)、
石笛でヤマネズミを呼び集められる老人(第四章)・・・
だが本書の白眉は、殺人現場から逃げ出した "天才インコ" を
追ってきた刑事・市川の登場する第三章だろう。
森野の口から語られる殺人事件の真相は、衝撃的ですらあるが
通常のミステリでは受け入れられないかも知れない。
しかし、現世から隔絶した幻想的雰囲気に覆われたこの霊園の中でなら、
この悲劇は充分に説得力を持つし、ある種の感動すら覚える。
そして最終章は、第三章の後日談ともいえる内容になっている。
ここでは、刑事である市川自身が抱えていた "ある事情" に決着がつき、
そして、森野自身の正体も暗示される結末を迎える。
デビュー作「水の時計」(途中で読むのをやめた)や、
前作「トワイライト博物館(ミュージアム)」(これは読了した)
でも取り上げられたテーマではあるが・・・
重くなりがちな題材ではあるが、読後感は悪くない。
本書で取り上げられた動物についても、
意外な生態や、人間との関わりの歴史などがふんだんに盛り込まれ、
それがまたミステリの要素として上手く使われている。
動物を扱ったミステリとしても、とてもよく出来ていると思う。
ただ、雰囲気は暗いんだよなあ。
暗いことが悪いわけではないんだが
どうしてもページを繰る手が重くなりがちになる。
第三章だけなら★3つ半なんだが、
全体の雰囲気がどうにも "悲しすぎ" て、
★半分減らしました。ごめんなさい!