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アンダードッグス [読書・冒険/サスペンス]


アンダードッグス (角川文庫)

アンダードッグス (角川文庫)

  • 作者: 長浦 京
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/09/22

評価:★★★★☆


 1996年、中国返還が直前に迫った香港。そこのメガバンクからは世界各国の要人に関する機密情報が運び出されようとしていた。
 かつて政争に巻き込まれて失脚した元官僚・古葉慶太(こば・けいた)は、大富豪マッシブによって機密情報奪取計画への参加を強いられる。現地へ飛んだ古葉は、彼と同じ "負け犬" の寄せ集めチームを率いることに。
 米露英中の諜報機関が暗躍し、謀略と銃弾が飛び交う中を "負け犬たち" が駆け抜ける、スパイ・アクション大作。

* * * * * * * * * *

 ちょっと調べてみたら、タイトルの「アンダードッグス」(underdogs)には、意味が3つほどあるようだ。
 (1)勝ち目のない人やチーム  (2)敗残者、負け犬  (3)弱者

 主人公の古葉慶太は32歳。かつては農林水産省の官僚だったが政争に巻き込まれ、詰め腹を切らされる形で省を去り、証券会社に拾われた。まさに「敗残者」であり「負け犬」だ。

 1996年12月末、古葉は香港在住のイタリア人大富豪マッシモに呼び出され、ある作戦への参加を要請される。
 いま香港では、中国返還前にメガバンクから世界中の要人に関する秘密情報を海外へ持ち出そうとしている。それを奪取しろ、というものだった。
 かつて自分を陥れた者たちへの復讐の機会を与えられた古葉は現地へ向かうが、作戦開始直前にマッシモが暗殺されてしまう。しかし彼の残した組織は健在で、計画中止は裏切りと同義で、死を意味する。

 計画続行を決めた古葉の元に、マッシモが選んだメンバーが集まってくる。元銀行員のイギリス人マクギリス、元IT技術者のフィンランド人イラリ、政府機関に勤める香港人・林彩華(ラム・チョイワ)。みなそれぞれ挫折した過去を抱える「負け犬」たちだ。
 チームの警護役のオーストラリア人ミア・リーダス以外は、古葉を含めて諜報活動に関してはみな素人。だが、いまの香港には米露英中、各国の諜報員が大量に投入されて跋扈している状態だ。そんな中へ割って入る古葉はまさに「弱者」であり、彼らは「勝ち目のないチーム」に他ならない。

 「アンダードッグス」とは、まさに本書にぴったりの題名だろう。

 メンバーが揃ったのも束の間、謎の集団による銃撃を受け、ここからジェットコースターのような危機また危機の展開が幕を開け、爆音と硝煙と流血がほぼ途切れることなく終盤まで続く。

 各国の諜報機関に加えて香港警察までも介入してきて、事態は混迷の度を深めていく。それに輪を掛けてストーリーを紛糾させていくのは、登場キャラクターほぼすべてが、裏の顔をもっていること。
 各国の諜報機関同士が離合集散したり、登場キャラが自らの立ち位置を変える(つまり裏切り)も日常茶飯事。だから敵味方がめまぐるしく変転する。そんなスパイの世界が描かれていく。

 古葉は諜報とは無縁の元官僚。腕っ節が強いわけでもない。そんな彼の唯一の武器は "頭脳" だ。並外れた観察力と記憶力、高い先見性と計画性、そして決断力。それを強固な復讐心が支えている。

 彼はいわゆる素人であり弱者だ。だが、それ故に常に頭脳はフル回転し続ける。事態の推移する先を予想し、可能性の分岐を考える。そして、どう転んでも対処できるように事前の準備を万全に整える。実際、降りかかってくる危機を次々と乗り越えていく姿は読む者を驚かせるだろう。
 まさに「こんなこともあろうかと」(笑)。

 もちろん古葉の方も無傷で済むはずもない。時には自らの身を囮として「肉を切らせて骨を断つ」ような反撃も決行するので、古葉は次第にボロボロの満身創痍になっていくのだが、最後まで諦めることはない。

 本編の舞台は1996年末~97年初頭なのだが、その合間合間に2018年のパートが挿入される。こちらの主役は古葉瑛美(えいみ)という若い女性。慶太の「義理の娘」である彼女は、ある組織から招かれて香港へやってくる。
 彼女のパートはいわゆる本編の「後日談」になっているので、どんな経緯で彼女が慶太の ”娘” になったのかも含め、彼がどんな運命を辿ったのかを予想しながら読むことになるだろう。

 全編がハラハラドキドキの激しいアクションで彩られ、ページを繰る手が止まらない本書は、エンターテインメントの傑作だ。楽しい読書の時間を約束してくれるだろう。


 素人が、素人故の発想と手段でプロの敵を出し抜いていく姿は、往年の山田正紀の "超冒険小説" 群を思い出させる。『火神を盗め』(1977年)、『謀殺の弾丸特急』(1986年)なんかがまさにそれだった。うーん、久々に読み返したくなってしまったよ。



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