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おれたちの歌をうたえ [読書・冒険/サスペンス]


おれたちの歌をうたえ (文春文庫)

おれたちの歌をうたえ (文春文庫)

  • 作者: 呉 勝浩
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/08/02

評価:★★★★☆


 令和元年。元刑事の河辺久則(かわべ・ひさのり)のもとへかかってきた電話は、幼馴染みのサトシ(五味佐登志:ごみ・さとし)の死亡を告げるものだった。
 長いこと音信不通だったサトシは長野県松本市にいた。彼の部屋に残された文庫本には、暗号めいた謎の文章が。河辺は暗号の謎を追いながら、42年前から現在までを回想していく。
 第165回直木賞候補作。

* * * * * * * * * *

 主人公の河辺久則は元刑事。還暦間近となったいまは、デリヘル嬢の送迎ドライバーで生計を立てている。

 令和元年(2019年)。河辺のもとへかかってきた電話は、幼馴染みのサトシの死亡を告げるものだった。長いこと音信不通だったサトシは長野県松本市にいて、地元のヤクザの世話を受けながら酒に溺れる生活を送っていた。

 五味の面倒を見ていたチンピラ・茂田(しげた)によると、生前の五味は金塊を隠し持っていたらしい。部屋に残された文庫本には、その隠し場所を示すと思われる暗号めいた謎の文章が記されていが、茂田はそれを解くことができず、五味の携帯に残っていた河辺の番号へ連絡をしてきたのだ。


 物語は令和元年の河辺と茂田の行動を軸に、河辺の回想を挟みながら進行していく。
 五味の死に他殺の疑いを持った河辺は、暗号の謎を追いながら、42年前から現在までを振り返っていく。


 昭和51年(1976年)、長野県真田町(現上田市)で暮らす河辺は、仲間たちとつるみながら高校生活を送っていた。
 サトシ、コーショー(外山高翔:そとやま・こうしょう)、キンタ(石塚欣太:いしづか・きんた)、フーカ(竹内風花:たけうち・ふうか)、それに河辺を加えた五人は、4年前の小学生時代に起こった出来事から「栄光の五人組」と呼ばれていた。名付けたのはフーカの父で、高校教師だった三紀彦(みきひこ)だ。

 しかしその年のクリスマスの日、フーカの姉・千百合(ちゆり)が失踪、年が明けて絞殺死体として発見される。
 捜査が停滞する中、近所に住む朝鮮人の青年が犯人ではないかとの疑いが持ち上がり、それがもとで凄惨な大量殺人事件が起こってしまう。
 しかしその数日後、雪の山中に放置されていた車の中で男の自殺死体が発見される。助手席には千百合の遺品があったことから、その男が殺人犯だったとして事件は終結した。
 そして千百合の死をきっかけに「五人組」は別々の道を歩むことになった。


 22年後の平成11年(1999年)。河辺は東京で刑事となっていたが、前年に起こった集団強姦事件の扱いを巡って上層部と衝突、捜査の一線から外されてしまう。上司や同僚は河辺を辞職に追い込むべく、パワハラを仕掛けてくる日々だ。

 そんなとき、コーショーから連絡が入る。彼は高校卒業後に上京、バンドを組んでデビューしたが早々に見切りをつけて裏方にまわった。いまは音楽スクールの雇われ校長だ。
 コーショーのもとに、22年前の大量殺人事件と「五人組」の関わりを記したルポを発表するという脅迫電話があったという。やめてほしければ一人200万、総額で1000万円支払えというものだった。

 対策と金策のために、他のメンバーを探し始める河辺とコーショーだったが、事態は意外な方向へ進み、再び殺人が起こる・・・


 文庫で670ページほどもある大作。プロローグが昭和47年(1972年)、ラストシーンが令和2年(2020年)なので、作中時間は足かけ48年。大河ドラマ並みの時の流れを追っていく大長編だ。

 サトシの死と暗号の謎を追う河辺の探索行は、そのまま「五人組」の42年間の人生を追う旅となっていく。
 「五人組」の紅一点で、メンバーたちから密かに想いを寄せられていたフーカは消息不明になっていて、いちばん非力だがいちばん頭が切れたキンタは物語後半のキーパーソンとなる。

 とにかく「五人組」のキャラ立ちが素晴らしい。平穏無事に生きてきた者は一人もおらず、みな見事なくらい波瀾万丈な人生を全速力で駆け抜けていく。ある時は協力しあい、ある時は対立していく彼らの生き様が最大の読みどころだろう。

 なにせ長い物語なので、途中でじつにいろいろな事件が起こっていくのだが、最終的に河辺が辿り着くのは、「五人組」たちの人生の起点ともなった "千百合殺し" の真相。長大な物語が、回り回って最初の場所に戻ってくると云う構成は嫌いじゃない。

 千百合事件の ”真相” は作中で二転三転するが、ラスト近くで明かされる意外な真実に驚かされる人も多いだろう。
 本書は重厚なサスペンス小説であるが、それと同時に、よくできたミステリでもあったことに気づくことになる。



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