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アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 有栖川有栖選 必読! Selection 10 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection10 アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection10 アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/04/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 夜明日出夫(よあけ・ひでお)は元刑事のタクシードライバー。ある女性客を乗せたことが縁で初恋の女性に再会するが、彼女は殺人事件の容疑者になってしまう。
 しかし彼女には、犯行時刻に現場から300km離れた場所にいたという鉄壁のアリバイがあった・・・

* * * * * * * * * *

 夜明日出夫は38歳のタクシードライバー。3年前、警視庁捜査一課の刑事だった夜明は、ある殺人事件の関係者とトラブルになった。彼に落ち度はなかったのだが、マスコミに漏れて騒がれたことの責任を取って辞職、妻子とも別れてしまっていた。

 ある夜、夜明は東京駅から三十代前半の女性を乗せた。その客が席に忘れていった荷物を届けたことから、彼女の名が高月静香(たかつき・しずか)であることを知る。

 二週間後、夜明が上野駅から乗せた女性客の目的地は、神奈川県の逗子にある大町千紗(おおまち・ちさ)という女性の屋敷だった。女性客は千紗の従姉妹で盛岡に住む小日方律子(こひなた・りつこ)だった。

 偶然ながら逗子は夜明の故郷であり、彼と千紗は幼馴染みであった。6歳差だった二人はお互いに恋心を抱いていたものの、資産家の一人娘で豪邸住まいの千紗に対し、父の急逝で大学を中退し20歳で警官になった夜明とは釣り合うはずもなく、二人の仲は自然消滅していた。

 久しぶりの再会に喜ぶ二人。32歳の千紗は未だ独身だったが、ある理由から自分は生涯独身を貫くつもりだと夜明に告げるのだった。

 その5日後、夜明が運転していたタクシーが追突事故に遭ってしまい、彼は会社から療養休暇をとるように命じられる。
 しかしそこに警察官時代の知人で愛知県警の刑事・丸目平八郎(まるめ・へいはちろう)が見舞いにやってくる。愛知県蒲郡市で殺人事件があり、その捜査のために上京し、ついでに夜明のところに寄ったのだという。

 被害者は料亭経営者・高月静香。かつて夜明が乗せた客だった。それを知った丸目は夜明を捜査の協力者に引っ張り込むことに。
 現場の電話横のメモ用紙には、被害者が書いたと思われる「チサ」の文字が。静香が東京出身だったことから、犯人は東京時代の知り合いにいるとみた捜査陣は、静香の高校の同級生に「大町千紗」がいることを突き止めていた。

 容疑者として浮上した千紗だったが、犯行推定時刻の一時間後には逗子の屋敷にいたという証言があった。一時間で蒲郡から逗子へ300kmの移動は不可能だ。彼女のアリバイは鉄壁かと思われたのだが・・・


 中盤以降は、千紗が真犯人だと睨む丸目と、あくまで潔白を信じる夜明が対立する様子が綴られていくのだが、その夜明が千紗の弄したトリックに気づいてしまうという、なんとも皮肉な展開に。

 本書の初刊は1990年。この3年前の87年には『十角館の殺人』(綾辻行人)が刊行され、"新本格ブーム" が巻き起こっていた頃。そんな中で発表された本書だが、メインとなるトリックは従来の「アリバイ崩しもの」の枠に収まらず、むしろ新本格ミステリで使われるような、意表を突いた大がかりなもの。
 逆に言うと、新本格を多く読んできた人の方が見抜けるかも知れない(私もけっこう早い段階で見当がついたし)。
 この頃の新本格ミステリの作家たちはほとんど20代だったはず。それに対して、笹沢左保氏はこの年に還暦を迎えている。しかしそんな若い作家たちに負けないぞ、と云う意気込みで本書を執筆したのかも知れない。

 タイトルの「アリバイの唄」だが、これは夜明が千紗の潔白に疑いを抱くきっかけとなったもの。どこでどんな唄が出てくるのかは、読んでのお楽しみだろう。



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