未来のおもいで 白鳥山奇譚 [読書・SF]
評価:★★★☆
熊本県の白鳥山を登っていた滝水浩一(たきみず・こういち)は、美しい女性・沙穂流(さほる)と出会う。
一目で彼女に心を奪われてしまった浩一。だが、沙穂流は彼とは異なる時間を生きる人だった・・・
九州脊梁の中央部に位置する白鳥山は、訪れる人も少なく、秘境のイメージを保つ山だった。
主人公・滝水浩一は広告デザイナー。その日、白鳥山を登っていたところ、突然の雨に遭遇、登山道から外れた場所にある洞窟に避難するが、そこで沙穂流という女性に出会う。
浩一は湯を沸かして、持参したコーヒーを振る舞い、沙穂流と会話を交わす。彼女に惹かれるものを感じていたが、やがて雨の勢いも弱まり、彼女は立ち上がる。
彼女との縁を途絶えさせたくない浩一は、とっさに彼女にリュック・カバーを貸す。彼女は礼を言って去って行った。
浩一もまた出発しようとしたとき、洞窟の中で手帳をみつける。それは彼女が置き忘れたものだった。
手帳から "藤枝沙穂流" というフルネームと現住所を知った浩一は、手帳を届けに行く。そこには藤枝サチオと詩波流(しはる)という若い夫婦が住んでいたが、沙穂流という人は知らないという。
手帳の内容を調べた浩一は、驚くべきことを知る。彼女の書いたメモの日付は2033年だったのだ。浩一の生きているのは2006年。そして気づく。
沙穂流は、藤枝夫婦の間にこれから生まれる娘ではないのか?
浩一は、沙穂流と出会った洞窟を再訪する。そこで一通の手紙を見つける。それは27年後の未来の沙穂流から届いたものだった。
彼女にとっても、浩一は忘れがたい存在になっていた。リュック・カバーの記名から浩一の名を知った沙穂流は、彼に届くことを願って手紙を書き、洞窟に置いたのだった。
物語は、"時の洞窟" を介した奇妙な "文通" を挟みながら、浩一と沙穂流、双方の恋情が綴られていく・・・
ネット時代になって、紙に書いた文字で想いを伝え合うなんて文化はほぼ絶滅したんじゃないかと思うのだけど、会えないし話もできない、もちろんメールもLINEも通じないという、こんなシチュエーションのもとなら、手紙は実に魅力的なツールに感じられる。
沙穂流さんの書く文章が、2030年代の女性にしては、すごく古風で奥ゆかしく思える(私には昭和30~40年代くらいの言い回しに感じられる)けど、本書の雰囲気には、そのほうがあってるとも思う。
でもまあそれは、私がオジサンだからかも知れない(笑)。
2人の "時を超えた愛" の行く末については、途中でなんとなく予想はついてしまうんだが、それが悪いとは思わない(作者も隠す気はないみたい)。
時間テーマのロマンスSFとしては、王道のエンディングだろう。
本編は文庫で160ページほどとコンパクト。2009年には演劇集団キャラメルボックスで舞台化されているとのこと。
おまけ(なのか分からないが)60ページほどの「シナリオ版」も併録されてる。映画化の話もあったらしいけど実現していないとか。
個人的には、映画よりはNHKあたりで60~90分くらいのドラマにするのにちょうど良い素材かな、とも思う。
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