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11文字の檻 [読書・ミステリ]


11文字の檻 青崎有吾短編集成 (創元推理文庫)

11文字の檻 青崎有吾短編集成 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/12/12

評価:★★★☆


 ミステリ作家・青崎有吾のノン・シリーズ短編集。ミステリ、公認二次創作、ショートショート、SF、ヴァイオレンス百合小説などバラエティ豊か。


「加速してゆく」
 平成17年(2005年)4月25日。JR福知山線で起こった脱線事故を題材にしたミステリ。
 この日、出勤途中だった報道カメラマンの植戸(うえと)は、JR尼崎駅のホームで事故発生を知る。急遽タクシーで現場へ向かい、近くの工場の上層階から現場の俯瞰写真を撮り始めた。そのとき、傍らに1人の男子高校生がいることに気づく。彼の行動に不審なものを感じる植戸だったが・・・
 この事故のことは覚えてる。JR史上最大の惨事だったらしい。写真で見た現場のあまりの異様さに驚いたことを覚えている。
 男子高校生の抱えた "事情" については明言されないのだけど、見当はつく。こちらも平成の終わりくらいからけっこう議論になってる話題ではある。


「噤ヶ森の硝子屋敷」
 他のアンソロジーで既読。
 噤ヶ森(つぐみがもり)と呼ばれる深い樹海の奥に建てられたのは、ガラス製の館。外壁・内装・屋根・天井・階段、そして家具までも。
 宿泊用の客室の外壁以外は透明度抜群の屋敷へやってきたのは、実業家・佐竹を中心とした5人組。しかし到着早々、佐竹は客室で銃殺されてしまう。
 現場の窓は内側から施錠され、ドアから出入りした人物も一人もいない密室状態だった・・・
 犯人がガラス屋敷を犯行現場に選んだ理由が、ラスト1行で明かされるんだが、この密室トリックは・・・アリかナシかと聞かれたら、ナシかなぁ。
 ほとんどバカミスだよねぇ。このオチは。


「前髪は空を向いている」
 マンガ『私がモテないのはどう考えてもおまえらが悪い!』の公式二次創作。ちなみに私はこのマンガ、全く内容を知らない(題名くらいは知ってたが)。
 巻末にある作者自身の解説に「元ネタ作品を知らない人でも、とりあえずこれだけ知っていれば楽しめます」的な文章が載ってる。でもそれを読んでも、私にはよく分かりませんでした(とほほ)。


「your name」「飽くまで」
 どちらも文庫で10ページに満たないショート・ミステリ。短いけれど、ラスト一行できっちりオチをつけてる。


「クレープまでは終わらせない」
 地球を守るスーパーロボットは、全高17メートルに及ぶ。戦闘終了後、帰還したロボットを "お掃除" するのは、アルバイトの女子高生2人組。けっこうな肉体労働で、たいへんそうなのだが、そんな中で交わされる軽妙な会話が楽しい。
 こんなアニメがあってもいいんじゃないかって思わせる(笑)。


「恋澤姉妹」
 主人公・鈴白芹(すずしろ・せり)は、師である音切除夜子(おときり・じょやこ)の仇である恋澤(こいさわ)姉妹を探している。
 孤児だった姉妹は、邪な目的で2人を引き取ってきた組織全員を皆殺しにして姿を消した。そのとき姉は10歳、妹は8歳だった。
 それ以来、2人は生ける都市伝説となった。腕に覚えのある多くの殺人者が挑んだが、悉く返り討ちにあっていた。現在2人は二十代を迎えている。
 案内人のワラビとともに、芹が姉妹の後を追うロードノベル。合間合間に姉妹のエピソードが挿入され、最後は姉妹と芹の対決だ・・・
 壮絶かつ凄惨な戦闘描写に驚くが、これが "百合小説アンソロジー" の一編と聞いてさらにびっくり。青崎有吾ってこういうものも書けるんだね。引き出しの多い人だ。


「11文字の檻」
 舞台はパラレルワールドの日本(と思しき国)。その国は先制攻撃で大陸へ侵攻、〈東土帝国〉と名を変え、暴走と進撃を続ける。
 一方国内では、徹底的な思想弾圧が行われる。主人公・縋田(すがた)は官能小説家だったせいか、捕まって収容所に入れられてしまう。
 収容所には奇妙な決まりがあった。「(日本語で)11文字のパスワードを当てたら、収容所から出ることができる」というもの。パスワードの条件は "凍土政府に恒久的な利益をもたらすもの" だ。当たらなくても、出来の良いものは政府のキャッチコピーとして採用されるらしい(笑)。
 パスワードは1日に1回だけ投稿(部屋の壁に書く)できる。しかし計算上は2297の11乗という天文学的な組み合わせになり、まず当たることはない。縋田は、なんとかパスワードを探り出そうと頭をひねり続けるのだが・・・
 最後は、縋田がパスワードを当てて収容所から出るのだろう・・・と多くの人は予想するだろう。だが作者の用意した結末は、その数段上をいく。これには脱帽だ。
 プロの作家さんの発想というのは、つくづく凡人のそれとは次元が違うのだなぁと思わせる一編。



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