SSブログ

カーテンコール! [読書・青春小説]


カーテンコール!(新潮文庫)

カーテンコール!(新潮文庫)

  • 作者: 加納朋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/09/01
評価:★★★☆

 閉校が決まった萌木(もえぎ)女学園。私立の女子大学だ。しかし問題なのは単位不足で卒業できなかった学生たち。学長は、対象者たちを半強制的に(もちろん親の了解を得て)合宿所に軟禁し(笑)、半年間の特別補講を行うことに。
 学生たちが留年した理由もそれぞれだが、総じてみなダメ人間ばかり(笑)。そんな彼女らが寝食を共にするうちにお互いの様々な事情を知り、新たな人間関係を築きながら再起のきっかけをつかんでいく。


「砂糖壺は空っぽ」
 初っぱなから恐縮だが、この話はネタバレなしに紹介するのが難しい。読んでみてくださいとしか言いようがないのだが・・・まあ、現代的な問題の話ではあるかな。


「萌木の山の眠り姫」
 過酷な受験生活を送ったにもかかわらず希望の大学に落ち、萌木女学園に不本意入学した梨木朝子。そのためか心がポッキリ折れ、遅刻を繰り返す日々を送ることになって留年が決定する。
 特別合宿に参加しても相変わらず朝は起きられず、同室になった有村夕美の世話のおかげでなんとか講義に参加できていた。しかしその夕美にも、ある秘密があった・・・


「永遠のピエタ」
 合宿参加者の金剛真美(こんごう・まみ)。不眠症に悩まされる彼女の、現在の興味は隣室の2人の様子を観察すること。仲のよい梨木朝子と有村夕美を見ながら、ある ”妄想” にふけるのだが・・・


「鏡のジェミニ」
 出席日数不足で留年になり、合宿に参加することになった小山千帆。同室となった細井茉莉子(まりこ)は拒食症でガリガリに痩せ細っていた。なんとか彼女に食事を摂ってほしいと願う千帆なのだが・・・


「プリマドンナの休日」
 矢島夏鈴(かりん)は、風の吹くまま気の向くままに暮らしていたい ”フーテン気質” の持ち主。そのせいか留年が決まって特別合宿に参加となる。同室となった喜多川菜々子は夏鈴とは対照的な、絵に描いたような模範的優等生だった。参加者が皆、何故こんな子が留年したんだろうと不思議に思うのだが・・・
 菜々子が留年となった理由も意外だが、彼女がそういう ”選択” をした理由にはさらに驚かされる。


「ワンダフル・フラワーズ」
 自殺願望からリストカットを繰り返していた清水玲奈は、特例として合宿中は学長夫妻と一緒に寝起きすることになった。
 玲奈から問われるままに、学園創立の頃の昔話を語り始める学長。そこには哀しい思い出があった・・・

 最終話のラストは合宿終了の9月。参加者たちの ”卒業式” が描かれる。

 合宿参加者たちの抱える事情の多くは、”家族” 由来のもの。22年かけて積もり積もった ”心の病” は、たかだか半年程度で何とかなるものではない(なかには一生つき合う必要のあるものも)。
 でも参加した学生たちは自分の心の中の闇に向き合い、乗り越えるまでは至らなくても、なんとか折り合いをつけて共存するすべを模索し始める。それは人間としての確実な成長だろう。
 オール・ハッピーエンドとまではいかないが、学生たちの新しい旅立ちと希望を描く、タイトル通りの「カーテンコール」となる。


 登場するキャラたちがとてもユニークなのに加え、ミステリ作家でもある作者は随所に小さな ”謎” を仕込んでいる。そのためか単調な合宿生活を描いているのに、読者の興味を巧みにつないで最後まで読ませる。
 中でも「砂糖壺-」「プリマドンナの-」は ”日常の謎” ミステリとしてもよくできてると思う。



nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント