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或るエジプト十字架の謎 [読書・ミステリ]


或るエジプト十字架の謎 (光文社文庫)

或るエジプト十字架の謎 (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/05/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★★


 ミステリファンにとって、『エジプト十字架の謎』という書名は十分すぎるくらい有名だろう。ミステリの巨匠エラリー・クイーンによる ”国名シリーズ” の一冊だ。
 私もミステリにハマりだした初期の頃に、このシリーズを読んだ。ただ、もう50年近い昔なので(おいおい)、内容もほとんど忘れてる(笑)。いつか、もう一度読み直したいなぁって思いながら今まで来てしまった。
 さて、本書はこの ”国名シリーズ” にインスパイアされたミステリ短編集だ。探偵役は作者のシリーズキャラクターであるカメラマン・南美希風(みなみ・みきかぜ)がつとめる。


「或るローマ帽子の謎」
 東京の新木場。レンタル契約されたトランクルームの中で死体が見つかる。遺体は頭部を激しく殴られた状態で、身元は不明。
 部屋の持ち主は帽子のコレクターらしく、内部には多くの帽子が飾られていたが、警察には、この場所が麻薬の密輸に関係がありそうだという情報が入っていた。しかも警察内部には、捜査情報を外部にリークしているものがいるらしい。
 現場への人の出入りが防犯カメラに全て録画されていた、というのが今風だけど、それでもしっかりミステリとしてのサプライズを描き出すのが流石。


「或るフランス白粉(おしろい)の謎」
 麻薬密売組織の幹部とみられる老婦人の扼殺死体が発見される。現場にはフランスの有名化粧品メーカーのパウダーファンデーションが一面にまき散らされていた。犯行時に被害者が抵抗した際に飛び散ったものと思われたが。
 現場のブレーカーが落ちていた理由が意外性たっぷり。「或るローマ帽子-」直後の事件で、麻薬組織に関する内容としては続編とも言える。


「或るオランダ靴の謎」
 長野県南部の山中に居を構える大槻夫妻。夫の忠資(ただすけ)は大病院の院長を務め、妻の未華子はオランダ製の木靴のコレクションをしている。
 臓器移植のNPOが開催した会議のために、大槻邸に多くの客や親族が泊まった翌朝、忠資の撲殺死体が発見される。
 タイトル通り、凶器も犯人の移動にもオランダ靴が絡んでいる。文庫本で80ページほどだけど、トリックの密度は濃く、美希風も翻弄されてしまう。


「或るエジプト十字架の謎」
 芸術大学のゼミの夏期合宿に、外部講師として参加した美希風。溶岩による奇岩に囲まれた軽井沢山中のキャンプ場に、5人の学生とともにやってきた。
 しかし翌朝、広場に設置されていたT字型の掲示板に、人体が縛り付けられていた。しかも、T字に合わせるように首が切断されて。
 遺体は5人と同じ大学の男子学生。合宿に参加している女子学生にサプライズでプロポーズしようと、昨夜のうちに密かにやってくるはずだったのだが・・・
 ”首のない死体” というのは、ミステリでは定番のシチュエーションだが、首を切断するには納得できる合理的な理由が必要。本作でもかなりユニークかつ意外な理由が設定してある。
 原典の『エジプト十字架の謎』に出てくる ”T字型” は、本作でも踏襲されてるけど、ネットで検索して出てくる ”エジプト十字架” ってT字型じゃないんだよね。それがこの文庫の表紙にもなってる。



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