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祝祭と予感 [読書・青春小説]


祝祭と予感 (幻冬舎文庫)

祝祭と予感 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/04/07
評価:★★★

 直木賞と本屋大賞をダブル受賞し、2019年には松岡茉優さん主演で映画化もされた長編小説『蜜蜂と遠雷』。そのスピンオフ短編集。

 ちなみにWikipediaには ”続編” って書いてあるけど、本書収録の短編6作の中で本編後の話は2作しかないし、内容も ”後日談” という感じ。


「祝祭と掃苔」
 本編である芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクールでは、終了後に入賞者によるコンサートツアーが行われる。芳ヶ江と東京でのコンサートが終わり、最後の開催地であるパリに向かう直前、亜夜とマサルが幼少時にピアノを教わった綿貫先生の墓参りに行く話。
 で、なぜかそこに風間塵がついてくる。まあ、この3人はホントに仲良くなったからねぇ。ついでに塵のお母さんのことも明らかになる。これはびっくり。
 ちなみに ”掃苔” は ”そうたい” と読むそうで、墓参りのこと。なるほど、墓石に着いた苔(こけ)を掃除する、というわけだ。

「獅子と芍薬」
 芳ヶ江国際ピアノコンクールで審査員を務めていたナサニエル・シルヴァーバ-グと嵯峨三枝子。かつて夫婦だったという2人の、30年前の馴れ初めが描かれる。なかなか運命的というか衝撃的な出会いを果たしてたんですねぇ。
 この2人の過去から現代までの物語を読んでると、亜夜とマサルの将来に思いを馳せてしまいます。どうなるんですかね、あっちの2人は。

「袈裟と鞦韆」
 主人公は音大教授で作曲家の菱沼。芳ヶ江国際ピアノコンクールの課題曲「春と修羅」を作曲した人です。ちなみに「春と修羅」というのは宮沢賢治の詩集の題名でもあるんだけど、彼がこのタイトルで曲を作ったきっかけが描かれる。
 菱沼の教え子・小山内健次は、音大卒業後に郷里の岩手に戻った。実家のホップ農家を継ぐのだという。
 家業の傍らコツコツと作曲を続けていた小山内は、卒業して10年後、新人作曲家の登竜門である賞を受賞することができたのだが・・・
 ちなみに ”鞦韆” は ”ブランコ” と読むそうで。冒頭に菱沼が公園のブランコに乗ってるシーンがある。

「竪琴と葦笛」
 本編の数年前、ジュリアード音楽院時代のマサルの物語。
 ピアノ科教授のミハルコフスキーに師事することになったマサル。しかしミハルコフスキーの同僚であるナサニエル・シルヴァーバ-グは、マサルの才能が潰されてしまうのではないかと危惧を覚える。
 ある日、ナサニエルはマサルを ”ある場所” に連れ出すのだが・・・
 教師というのは、教える力量も大事だろうけど、こと芸術家になると、師弟の相性というのもかなり大きいというのは、ありそうに思える。何せ強烈な個性の持ち主同士なんだろうから・・・

「鈴蘭と階段」
 本編の主役・栄伝亜夜の音大での先輩にして学長の娘・浜崎奏。
 亜夜の付き添いとして芳ヶ江国際ピアノコンクールに臨み、終了後はヴァイオリン奏者からヴィオラ奏者へと転向した。しかし、なかなか自分の気に入った楽器に巡り会えずに悩んでいる。ようやく3つまで絞り込んだものの、どれにするか決めかねていたのだが・・・
 本編では亜夜の世話を献身的にこなしていたのに、映画では出番がなかった(出てたかも知れないけど、観た記憶がない)。ちょっと不憫だなあと思ってたのでこの作品は嬉しかったですね。
 あと、芳ヶ江国際ピアノコンクール終了後、亜夜はどうしているのか。その一端もちょっと語られます。

「伝説と予感」
 ピアノ演奏の巨匠ユウジ・フォン=ホフマン。ある日、彼は訪れたフランスの古城で、誰かが弾いているピアノの音を耳にし、衝撃を受ける・・・
 ホフマンと、彼の最後の弟子となった風間塵との出会いの物語。


 「あとがき」によると、『蜜蜂と遠雷』の続編を書く予定はないそうで、関連する物語も本書をもってお開き、ということのようです。
 まあその後のことは読者の想像に任せるというのが正しい道なのでしょう。

 とはいっても、ちょっと不満なのは本編の主役4人のうち高島明石が登場するのが一編もないこと。これはちょっと淋しいかな。
 でもこれは、彼の物語は本編の中で完結してるってことなのでしょう。彼の登場する最後のシーンで、涙腺が崩壊してしまったことを思い出しましたよ。

 コンクールのあと、プロへ転向するのか、それともサラリーマンを続けながらアマチュア演奏家として生きていくのか。それこそ読者が思い描けばいいことなのかな。
 どちらも大変な道ではあろうけども、彼ならどちらを選んでも地道に続けていくのだろうし・・・


 あと、巻末に音楽関係のエッセイが何作か収録されてる。

 『蜜蜂と遠雷』のファンとしては「『蜜蜂と遠雷』登場曲への想い」「ピアノへの憧れから生まれた『蜜蜂と遠雷』」あたりを読むと、執筆の裏舞台をちょっと覗いた気分になれる。
 作者はもともと幼少時からピアノを習っていて、小学校から大学まで音楽とともに生活してきた。エッセイに登場する内容もクラシックのみならず、ジャズも歌謡曲(松本伊代とか「夜のヒットスタジオ」とか)もと幅広い。

 そういう人だからこそ、『蜜蜂と遠雷』を書くことができたのだなぁと改めて思う。



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