黄泉がえり / 黄泉がえり again [読書・SF]
評価:★★★★
「黄泉がえり」
熊本地方を中心に、死んだはずの人間が亡くなったときそのままの姿で生き返ってくるという事態が発生する。
SFとしては「宇宙を彷徨っていた地球外生命体が ”力” を使い果たして熊本に漂着、そこで ”力” を再び蓄えていく過程で、その副作用(みたいなもの)が死者を甦らせている」という設定がある。
だけどそこが主題なのではなく、一度死んだ人間が再び生き返ってきたら、社会にどんな混乱や変化が起こるか、家族や周囲の人々はどんな反応を示すか、が主に描かれる。
実際、戸籍を扱う市役所には ”甦った死者” が押し寄せたり、亡くなった社長が ”帰ってきた” 会社では、現社長や古参社員が頭を抱える。
”甦り” がもたらした想定外の事態は、あちこちで騒ぎになっていく。
”甦り者” が現れた家族もいったんは混乱するが、ほとんどの場合は温かく迎え入れられる。
どうやら、”強く愛し、慕ってくれる者” が存在する人が甦ってきていることが分かってくる。人を愛する想いが、甦りのきっかけになっているのだ。
そして、甦り者たちは共通して、不思議な ”力” を宿していた。
最愛の夫が帰ってきた。妻は喜び、懸命に愛する。夫もまた、不在の時間を埋めるように妻を愛する。
甦ってきた兄は弟のために奔走し、一世を風靡した歌姫の復活にファンは驚喜する。
甦ってきた者たちを受け入れ、社会は新たに回りはじめる。
しかし、ある噂が流れ始める。近い未来のある日、甦り者たちが一斉に姿を消してしまう、と。
そして、それを問われた甦り者たちは語る。それは事実であると。
”ある理由” によって、自分たちは ”いなくなる” のだと。
甦り者たちとその家族は、再びの別離に脅えながらも、限りある時間を悔いなく過ごそうとするのだが・・・
「黄泉がえり again」
甦ってきた者たちが一斉に姿を消してから17年。熊本は2年前に起こった大地震で大きな被害を受け、復興の途中にあった。
そんなとき、死者が甦る現象が再び起こり始める。
17年前の経験から、行政は比較的スムーズに彼らを受け入れていくが、前回とは、復活者の出現するポイント、そして対象に違いが生じていた。
前回はせいぜい30年ほど過去までに亡くなった者が甦ってきたが、今回は歴史上の人物だったり、古代の生物が甦ったりしていたのだ。
前作では脇役の一人だったジャーナリスト・川田平太が本作では主役となる。
甦り現象を調べる川田は、その中心に女子高生・相楽いずみがいることに気づく。彼女は、17年前に唯一消滅せずに残った甦り者・相楽周平と、その妻・玲子との間に産まれた娘だった・・・
「黄泉がえり」では、生き返った者たちと遭遇した社会の反応をユーモアも盛り込んで描きながら、ラストでは再びの別離に大きな哀しみも感じた。
「ーagain」では、17年前と同じ現象を描き、後半では、前作と同様の ”理由” によって、再びの別離に怯える人々もまた描かれていく。
主役の川田自身、死んだ母親が甦り、しかも知り合って恋仲となった女性・山口美衣子もまた甦り者だったなど、”現象” の当事者になってしまう。
しかし、「ーagain」のラストは前作とはいささか異なるものになる。これは巻末の解説にあるのだが、作者自身、続編を書こうと思った理由が熊本地震だったという。大きな被害を受けた故郷の ”甦り” を本作に託したらしい。
こちらの結末について「甘すぎる」と感じる人もいるかも知れない。私自身、そう思わないでもなかった。でも、それ以上に感じたのは「嬉しさ」だった。
たまにはこんな「嬉しい結末」の物語があってもいい。
しかしこの後、地球は、人類は、どうなってしまうのだろう・・・?
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