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浜の朝日の嘘つきどもと [映画]

asahi.jfif

映画の公式サイトから<Story>を引用すると・・・

福島県・南相馬に実在する映画館「朝日座」。
100年近い歴史を持ち、主に旧作映画を上映する名画座として
地元住民に愛されていたが、近年はシネコンと呼ばれる
複数のスクリーンを持つ複合映画館の台頭によって厳しい経営状況だ。

支配人の森田保造(柳家喬太郎)はサイレント映画『東への道』を
スクリーンに流しながら、意を決する。
35mmフィルムを一斗缶に放り込んで火を着けた瞬間、
森田の背後から水をかけて邪魔をする女性(高畑充希)が現れた。
経営が傾いた「朝日座」を立て直すために
東京からやってきたという彼女は、
自分の名前を「茂木莉子(もぎ・りこ)」と名乗る。

しかし、「朝日座」はすでに閉館が決まっており、
森田も「打つ手がない」と決意を変えるつもりはない。
「ここが潰れたら本当に困る!」と主張する莉子は、
この町に住んでなんとかするという。
それは、「ある人との約束」が理由だった。

莉子が高校一年の時、東日本大震災が起きた。
タクシー会社で働いていた父(光石研)は
除染作業員の送迎を担当したが、やがて莫大な利益をあげたと
噂をされるようになり、莉子は友達が一人もいなくなってしまう。

そんな高校二年の折、立ち入り禁止の屋上にいるところを
数学教師の田中茉莉子(大久保佳代子)に見つかり、
視聴覚準備室へ連れていかれる。茉莉子先生と一緒に
映画『青空娘』のDVDを鑑賞した莉子は、映画の魅力を知るのだった。

その後、家族で東京に移住するが、
高三の一学期でドロップアウトしてしまう莉子。
家に居場所がない莉子は、郡山にある茉莉子先生の家を訪ねて
二人の同居生活が始まる。
茉莉子先生との楽しい毎日は長くは続かなかったが、
莉子が実家に戻るまで、二人の時間にはいつも映画があった。

2019年、映画の配給会社に勤めていた莉子のもとに、
茉莉子先生が病に倒れたという連絡が届く。
8年ぶりに茉莉子先生と再会すると、
「お願いがある」と言われるのだった。
「南相馬にある朝日座という映画館を立て直してほしい」と。

先生との約束を果たすために映画館を守ろうと奔走する莉子と、
積年の思いを断ち切り閉館を決めた支配人・森田。
果たして「朝日座」の運命やいかに……

さて、それではこの映画を観て思ったことを
順不同につらつらと書いてみることにしよう。
あまりまとまっていないのだが、
いつものことなのでそのへんはご勘弁のほどを(おいおい)。

全体的に、派手なシーンはないし劇的な展開が待っているわけでもない。
震災の悲惨さや住民たちの苦闘をことさらに描く部分もない。

主に日常生活の場面が延々と続くのだが、目立つのは会話のシーン。
莉子と茉莉子、莉子と森田、二人だけで会話するシーンが
けっこう尺を占めるんだが、見ていて退屈することはないし、
ストーリーへの興味もなくなることなく持続する。
演じている役者さんもいいのだろうけど、
それ以上に脚本が上手いのだろうと思う。
ちなみに脚本を書いたのは監督本人だ。


映画本編は、莉子が「朝日座」存続のために奔走する ”現代編” と
莉子と茉莉子先生の交流を描く ”過去編” が交互に描かれていく。

東日本大震災と原発事故によって大打撃を受け、
さらにコロナ禍でとどめを刺された「朝日座」。

 この映画館に限らず、過疎化とコロナ禍で経営が成り立たなくなった
 店舗や施設は枚挙に暇が無いだろう。

莉子の父は、皆が尻込みする放射線絡みの仕事に対し、
「誰かがやらなければならないこと」との使命感を持ってあたるが、
それが結果的に周囲から白い目で見られることになる。

莉子の母は夫のことが理解できず、子どもたちを連れて東京へ転居するが
体の弱い莉子の弟を溺愛して、莉子のことを顧みない。

 これもまた、震災と原発事故がもたらした悲劇だが
 この一家に限らず、3.11以後に家族のあり方が変わってしまった
 という人も数多いのではないか。

高畑充希が演じる主役の莉子は、高校1年の時に震災で家庭が崩壊し、
高2の頃は自殺しそうなくらい追い詰められていて暗い表情なのだが
10年後、「朝日座」に現れた莉子は毒舌交じりの威勢のいい台詞を吐く
元気いっぱいのお嬢さんへと成長している。
この二つの役をきっちり演じ分ける彼女はやっぱり上手いと思う。

 間もなく三十路に入ろうという人なんだが
 17歳の役がさほど不自然に見えないのは
 本人の童顔に加え、メイクや衣装の助けもあるのだろうが
 立ち居振る舞いなどのところで、
 高校生の雰囲気をうまく出しているんだろう。

高校生の莉子を救ったのが、数学教師の茉莉子。
”人生の師” となる茉莉子との出会いによって、
変わっていく莉子の様子も描かれていく。

いささか風変わりだが、仕事はきっちりやり、生徒からの人望もある。
しかし男に対しては惚れっぽく、またすぐにフラれてしまって
男運に恵まれないという残念な教師を大久保佳代子が好演している。

 というか、彼女以外にはこの役はできないんじゃないかってくらい
 ハマってる。あんまり上手いんでwikiを見てみたら、
 劇団に所属してたこともあって、舞台出演の経験も豊富なようで
 女優としての基盤はしっかり持っている人だったんだね。
 「数学教師」というのは意外だったが、作中ではしっかり
 莉子に三角関数の加法定理を教えてるシーンがある。

終盤近くのあるシーンでは目から汗が・・・
いやはや、失礼な言い方になるが
大久保佳代子さんに泣かされるとは思わなかったよ。

「朝日座」支配人の森田を演じる柳家喬太郎。
本職は落語家ということなのだが、こちらも
閑古鳥の鳴く映画館を泣く泣く閉めることになる哀愁を
違和感なく見せてくれる。

この映画の特徴として、悪人が登場しないことがある。

「朝日座」を取り壊して、跡地にスーパー銭湯を建てる、
という計画を進める男が出てくる。
普通の映画なら悪役になるところだが、
実は彼なりに地域の振興のために熟慮した結果だったりする。

莉子からみれば「家庭を顧みなかった」父親だったが、
10年後の今はタクシー会社の社長にまで上り詰めている。
上にも書いたが、彼にも彼なりの使命感があって
仕事に邁進していたわけで、家族に対しての言い分だってある。

映画の中の莉子は「家族なんて幻想」と言う。
父にも母にも裏切られた(と感じている)莉子だったが、
映画のラストにいたると、彼女の家庭も(ほんのちょっぴりだが)
これから変わっていくかも知れない、という
ささやかな可能性の芽も描かれる。

恩師の意を受けた莉子が、「朝日座」を救うために走り回る映画なのだが
その行動が回り回って、最後には莉子自身をも救うことに。

「朝日座」を存続させることが果たして地域にとって ”正解” なのか、
観ている私も「こりゃ難しいなぁ」・・・って思ったが、
紆余曲折の末に納得のエンディングを迎える。
”映画” としては、これが正解だろう。

東日本大震災以後衣、被害の悲惨さや原発行政の不備とかを扱う
ニュースや映像作品は夥しく出現しただろうけど、
震災から10年を経て生まれたこの作品は、
それまでと異なり、東北に生きる人々の
”希望” を語る映画になっていた。


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