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聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた [読書・ミステリ]

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「奇蹟の存在を証明する」ことを悲願にしている
私立探偵・上苙丞(うえおろ・じょう)の活躍するミステリ、第2作。

その昔、カズミという美しい娘がいた。
彼女を見初めた殿様は、娘の父親に圧力をかけて思いを遂げようとした。
しかし彼女は、男どもをことごとく毒殺してのけたという・・・

第一部は、この ”カズミ様の伝説” が伝わる里で発生した
不可思議な殺人事件が語られる。

旧家の婚礼で、同じ盃(さかずき)を回し飲みした者の中から
3人の毒死者が出た。不思議なことに、死んだ者と何事もなかった者が
交互に出る「飛び石殺人」だったのだ・・・

たまたま婚礼の場所に居合わせた姚扶琳(ヤオ・フーリン)と
上苙の元助手・八ツ星聯(れん)は事件に巻き込まれる。

関係者たちがお互いに容疑をなすりつけ合う中、
聯が介入して推理を巡らすが、決め手に欠ける。

そして第一部の最後に記された、たった一行の文章で物語は急展開。

第二部では、姚の元ボスで中国黒社会の大物・沈(シェン)が登場。
沈はある理由から、「飛び石殺人」の犯人を突き止めようとする。

そこへ現れた上苙は、”人間の犯行ではない” ことを証明していく。
各登場人物にかけられた容疑、すなわち動機、可能性、トリックなどを
ことごとく論理的に否定していくことにより、
犯行をなしえた者は存在しない、それすなわち
伝説の聖女・”カズミ様” が引き起こした奇蹟である、となるわけだ。

決め台詞は、「その可能性はすでに考えた」・・・

同じ盃から起こる「飛び石殺人」を合理的に説明するのさえ
至難の業だと思うのだが、作者はその方法をいくつも提示してみせる。
中には実現可能性に「?」がつくものもあるが、
これだけ思いつくのがまずスゴい。

さらに、毒の入手方法や婚礼前日・当日の各人物の動き、さらには
”カズミ様” 伝承にまつわるこの里ならでは婚礼の仕来りなど
さまざまな要素を組み合わせて、単独犯・共犯を含めて
何通りもの ”犯行可能性” を導いてみせる。

そして上苙はそれをことごとく否定してみせるのだが、なんと終盤には
各仮説の一覧表まで掲げてあって、水も漏らさぬつくり(笑)。

本作を ”多重解決もの” としてみると、作品中で
犯人の指摘とそれに伴う推理が開陳されるのは
事件発生の直後から始まっているわけで、そうすると
文庫で400ページほどのうち、事件発生までが100ページだから
残り300ページにわたって 犯人指摘→理由の説明→反証による崩壊 が
延々とくり返されることになる。
ある意味途方もない作品なのは間違いない。

 こんな ”推理の洪水” をえんえんと読まされてくると、
 私のアタマもだんだん麻痺してきて、ところどころ
 ついて行けなくなってしまったことはナイショだ(おいおい)。

これだけ否定しまくってしまうと、肝心の真相が
ショボくなってしまうんじゃないかと心配になるが、そこは大丈夫。
最終章で提示される ”真相” は、ここまで推理談義に
つき合ってきた読者にも、納得のいくものになっていると思う。

2016年に初刊の本書は、その年の各種ミステリーランキングの
上位に挙げられたと巻末の解説に記されてるが、それも納得の一冊だ。


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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:08) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:08) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:08) 

mojo

コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:08) 

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