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隣のずこずこ [読書・ファンタジー]

隣のずこずこ(新潮文庫)

隣のずこずこ(新潮文庫)

  • 作者: 柿村将彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

『日本ファンタジーノベル大賞2017』大賞受賞作。

舞台は日本のどこかの山奥にある片田舎・矢喜原(やきはら)。
若者は隣町にある高校へ進学し、卒業すると村を出ていってしまうので
中学生以下の子どもと中年以上の住民しかいない過疎の村だ。

主人公は中学3年生の住谷はじめ。名前は男みたいだが女の子である。
5月の初旬、同級生の綾子からはじめに電話がかかってくる。
村に〈権三郎狸〉(ごんざぶろうだぬき)が現れたのだという。

それは村に古くから語り伝えれてきた昔話。
かつて村に一匹の狸が現れた。その狸は村人をすべて飲み込み、
口から火を噴いて村一帯を焼き払ってしまったという。
その狸の名が〈権三郎狸〉だ。

矢喜原の住民はみな祖父母の世代から教えられ、知らぬ者はない。
はじめは半信半疑ながら村でひとつだけの旅館へ向かうと、
狸は本当に実在し、そこに ”客” として逗留していた。

身長は1.5mほど、外見は信楽焼の狸の置物にそっくりで
自分の足で ”ずこずこ” と歩く。

 本書のタイトルの「ずこずこ」とは、この狸が歩くときの描写である。
 ちなみに文庫本の表紙イラストは〈権三郎狸〉とはじめさんだろう。

狸自身は人間の言葉を喋らないが、狸にはあかりさんという
謎の美女が同行しており、彼女が狸と人の間を ”通訳” しているようだ。

あかりさんは言う。
「狸は5月30日に村人をすべて飲み込み、村を焼き払います」

村が滅ぶ日まで残された日々は1か月に満たない。
物語は、その間の村人たちの生活の変容を描いていく。

当初はあまりの奇抜さにかえって平静に過ごしていたが
期日が迫ってくるにつれて、次第に不穏さが増していく。
精神の平衡を崩す者、財産すべてを食い物に注ぎ込む者、
密かに村から逃げ出す者、そして抑圧していた願望を解放する者・・・
さらには、村中の空き家に放火をしてまわる者まで現れる。

はじめもまた ”狸” とは無縁でいられない。
狸のせいで始まった騒ぎに姉が巻き込まれ、
さらには友人たちまで奇行に走り始める。

そして、自分を含めた村人たちに ”ある現象” が
起こり始めていることに気づいたはじめは、
ついにある ”決断” をするのだが・・・

信楽焼の置物みたいな狸が村を襲う、なんてほとんど
ギャグマンガの世界だが、序盤はたしかにユーモラスな雰囲気もある。

しかし物語が進行して行くにつれて、けっこうダークな面が現れてくる。
未来のない世界に放り込まれた人間たちの閉塞感と絶望、
むき出しになる欲望、迫り来る終末からの逃避に没頭する人々・・・
タイトルの響きや、狸のユーモラスさとは裏腹な
ホラーなファンタジーとして物語はすすんでいく。

読んでいると、いろいろな結末のパターンが頭をよぎるのだけど
結局のところ私の予想したエンディングはみんな外れ(笑)。

うーん、でもねぇ。
作者の用意したこの結末は、私は好きになれないなぁ。
"怪談" として着地するならこのラストは正解かも知れないが・・・
もちろん、個人的な感想です(笑)。


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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:07) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:07) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-02-17 23:07) 

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