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オスプレイ殺人事件 [読書・ミステリ]

オスプレイ殺人事件(新潮文庫)

オスプレイ殺人事件(新潮文庫)

  • 作者: 月原渉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/11/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

タイトルのオスプレイとは、近年あちこちのニュースでお馴染みの
あの ”V-22 オスプレイ” である。

両翼に備えたローターで垂直離着陸とホバリングを可能にし、
巡航時には翼が90度回転、双発の航空機のように飛行する。
ヘリコプターと固定翼機の ”いいとこ取り” を狙った機体で
アメリカでは2007年から運用が開始、
日本でも今年(2020年)になって運用部隊が創設された。

本書は、オスプレイが正式配備される前の、
テスト段階の頃が舞台になっている。

太平洋上を航行する米軍の強襲揚陸艦ボノム・シャールから
1機のオスプレイが岩国基地へ向けて飛び立つ。
目的は飛行訓練で、乗員は操縦士・副操縦士の他に
キャビン内に9名の人員を乗せていた。

しかし発進から30分後、キャビン内の乗員の1人が突然苦しみ出す。
彼は出血しており、やがて死亡が確認された。

亡くなったのは白鳥源一郎三佐、自衛隊の航空機調達部門に所属していた。
そして死因は胸部への刺傷、つまり他殺だったのだ。

NCIS(海軍犯罪捜査局)の捜査官ディック・ヌーナンは
岩国に到着したオスプレイに向かうが、
そこに現れたガートナー中佐によって捜査の中止を要請される。

本格運用前のゴタゴタを避けるために ”事故” として処理せよ、と。

しかしヌーナンはそれを押し切り、助手のジーナ・プルシェンコとともに
事件に介入、乗員たちへの聞き取り調査を開始する。

しかし事件発生時は全員がキャビンに着席し、
シートベルトで厳重に体を固定していたので
誰も被害者に近づくことができなかったことが判明する。

唯一、「白鳥が苦しみ出す直前に ”歌” が聞こえた」という
解釈に苦しむ証言が複数の乗員から得られたのみ。

遅々として進まない捜査の間、関係者はみな岩国基地内の官舎に
軟禁状態に置かれていたが、そこで火事が発生する。
火災現場に到着したヌーナンはそこで正体不明の男と遭遇し、
壮絶な格闘戦の末、瀕死の重傷を負ってしまう。
そして消火後の現場からはガートナー中佐の焼死体が発見される・・・

ヌーナンが探偵役かと思っていたのだが、中盤で負傷退場となり
代わって登場するレヴィア・スター上級特別捜査官が探偵役を引き継ぐ。
巻末の解説によると、本書はもともとスター上級特別捜査官を
主役とするシリーズの2冊目だったので、これは予定の流れなのだろう。
ちなみに第1作は横須賀基地が舞台とのことだが、
こちらは文庫化されてない。その理由は不明だが
オスプレイという知名度が高く話題としても大きい題材を扱っているし、
時期的にもこちらが ”旬” なので、本書の方を先に文庫化したのだろう。

ミステリとしてのキモは、もちろんオスプレイの機内で起こった
”空中密室” 殺人事件なわけで、捜査が進んで状況が明らかになるごとに
その不可能性が強調されていく。

ただまあ、不可能性が高まればそれだけ
トリックのバリエーションが絞られてしまう、という面もある。

例えば、犯人が現場に外から侵入して外へ脱出した(密室へ出入りした)、
というのは、地上で構成された密室の場合は、
その可能性を完全に消去するのはなかなか難しいと思う。
過去の作品でも、それを可能にするトリックが多数考案されてきたし。

しかし今回の場合、犯人が飛行中のオスプレイの中に侵入し、
犯行後に脱出したなんてのは真っ先に排除されてしまうだろう。

まあ、機体の外壁に張り付いていた(笑)、という可能性も
全くゼロではないかもしれないが、それをやったらギャグだよねぇ。
バカミスだったらOKかも知れないが。
気密状態のキャビン内への侵入だって可能そうに見えないし。

作者からすれば、自らハードルを高めてしまっているわけで、
なかなかのチャレンジャーだなあとは思う。

終盤、スター捜査官が関係者全員をオスプレイのキャビンに集めて
犯行時を再現しながら謎解きをする。

密室トリックだけでなく、その周辺の状況も丁寧に語られる。
犯行の動機も、なぜ現場がオスプレイだったのかも。
このあたりの書き込みは十分で、むしろここが本書のメインだろう。

軍人は命令に逆らうことを許されない、
いわば ”個人の意思” を喪失した存在であり
戦争において英雄と呼ばれる者は
見方を変えれば大量殺人者でもある。
そういう、軍隊というものの特異性までも取り込み、
スター捜査官は事件の全容を解明してみせる。

中盤での謎の男とヌーナンとの一騎打ちは、
さながらアクション小説の一場面のようで迫力十分。
卓越した戦闘能力を有する相手に立ち向かうヌーナンも
かつては軍で特殊部隊に所属し、中東の戦場で勲功を挙げた猛者だ。
戦場から離れていたというハンデにも関わらず、
最後まで男に食らいついて戦い続ける。

作者は鮎川哲也賞を受賞してデビューした経緯もあり
謎解きミステリが本業なのだけど、こういうシーンを読むと
本格的に冒険/サスペンス小説に挑戦した作品も読んでみたいなあ・・・
なんて思いました。

nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:48) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:48) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:48) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:49) 

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