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富士学校まめたん研究分室 [読書・SF]

富士学校まめたん研究分室 (ハヤカワ文庫JA)

富士学校まめたん研究分室 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 芝村 裕吏
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・藤崎綾乃は30歳。陸上自衛隊の技官として働いている。
しかし生来の口下手と極端な対人恐怖症のため、彼氏いない歴も30年。

大学でロボット工学を専攻、大学院を卒業して防衛省に採用され、
2年間の国費留学までさせてもらうが、
帰国した後、先輩自衛官の引き起こしたセクハラ事件に巻き込まれて
その責任を負わされる形で左遷されてしまう。

異動先は陸上自衛隊富士学校、仕事は資料整理。
閑職に回されてしまったが、
ヒマを持て余した彼女はロボット戦車の研究を思い立つ。

最後に質の高い研究結果を上司に見せつけて、
彼女の存在価値を再認識させた上で
「自衛隊に三行半を叩きつけてやる!」と思ったわけだ。

時間だけはたっぷりある綾乃の研究は順調に進む。
直径1mの球体に全機能が納まるという小型軽量で、
各種センサーと武器を装備、搭載したAIによる自律行動も可能。
目的を歩兵部隊に随行して支援することに絞り、
量産化を前提に低コストも狙う。

 『攻殻機動隊』に登場するタチコマの超小型版みたいなところか。
 人は乗れないけど。

しかし、自分一人の秘密の研究だったはずが
同僚の伊藤信士(しんし)に知られてしまう。

彼と綾乃は留学生時代に共に学んだ仲で、
いろいろと複雑な感情を抱いた相手だった。

綾乃の研究内容を知った信士の計らいで、
小型戦車は正式に開発企画として提案されることになる。
綾乃にとって苦手なプレゼンはみな信士がこなしてくれて
上層部への ”当てつけ” として始めた研究は
トントン拍子で正式な開発計画へと昇格し、
”まめたん” なんて愛称までついてしまう。

一方、大陸や半島では不穏な動きが顕在化する。
北朝鮮が崩壊し、それに対応すべく中国や韓国が軍を動かし、
日本にも危機が迫ってきそうな不安定な情勢が。

そんな中、先行試作された12機の ”まめたん” による実戦テストが
富士駐屯地で行われることになるのだが・・・

物語は綾乃の一人称で進行するのだけど
身の回りで起こること全てをネガティブ思考で自虐的に捉える。そんな
仕事でも恋愛でも拗らせてしまったアラサー女子の一人語りが絶品だ。

生活はアパートと職場を往復するだけ。食事はコンビニ弁当。
冷蔵庫に入っているのはアイスクリームのみ。
最近聞くようになった ”喪女” というのがこれかも知れない。
(本書の初刊は2013年なのだが、その頃からあった語なのかな?)

そんな生活が、信士の登場と開発計画への昇格によって変わっていく。
かつて抱いていた彼への恋情が再燃するのも自覚するが、
生来の口下手と自信のなさとから、その思いをひたすら隠そうとする。
しかし、人間関係については不器用極まる綾乃さんだから、
一挙手一投足に至るまで、もうダダ漏れである。

このあたりの綾乃さんの、揺れに揺れまくる
乙女心を綴った部分を読んでると、その健気でひたむきなところに
思わず「頑張れ」って応援したくなってしまう。

そして本書はロボットSFでもある。
終盤、綾乃と信士が陥る絶体絶命の危機をひっくり返すべく
12機の ”まめたん” が連携して大活躍するところがクライマックス。

綾乃が持つ端末を通して ”会話” するのだけど、
その ”反応” ぶりがとっても健気で感動的ですらある。
やっぱり、SFに登場するロボットたちはこうでなくてはね。

ここで終わればめでたしめでたしなんだが、
ラストには実戦テスト後の ”まめたん” が
その後の世界でどんな ”活躍” をするのかが描かれる。

綾乃さんの暴走/迷走するラブコメにすっかり忘れてしまっていたけど
彼女の開発していたのは「兵器」だったのだということを
改めて読者に思い出させて、物語は終わる。

それまでの流れと異なり、重く暗い雰囲気を感じさせるが
現代世界の時間軸の延長上にある物語として描く以上、
「綾乃さんは信士くんと幸せに暮らしました」だけで
終わらせることはできなかったということなのだろう。


nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:45) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:45) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:46) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-10-08 23:46) 

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