日本SF傑作選5 光瀬龍 [読書・SF]
日本SF傑作選5 光瀬龍 スペースマン/東キャナル文書 (ハヤカワ文庫JA)
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/04/04
- メディア: 文庫
「筒井康隆」「小松左京」「眉村卓」「平井和正」と刊行されてきた、
日本の第一世代SF作家の、主に初期作を集めたシリーズ。
第5弾は「光瀬龍」の登場。
筒井康隆みたいに今でも現役の作家さんだったり、
小松左京みたいに、コロナウイルス騒ぎで改めて
『復活の日』(ウイルス兵器で人類が滅ぶ話)が話題になったり
『日本沈没』が今年になってアニメ化されたりと
今なお話題性に事欠かない作家さんもいる。
晩年になっても存在感を示した眉村卓や、
日本中を超能力ブームに巻き込んだ平井和正と異なって
光瀬龍という作家さんは今ひとつ地味な存在かなぁ・・・
って思ってたんだけど、この記事を書くためにwikiを見てみたら
あながちそうでもないことに気づいた。
光瀬龍と言えば『宇宙年代記シリーズ』が思い浮かぶって人は
けっこう多いだろう。私もそうだ。
20年くらい前にハルキ文庫だかで2巻にまとめられて刊行されて
あらためて読み直した記憶がある。
でも光瀬龍には、それ以外にも実に多くの魅力的な作品群がある。
初期の長編には『たそがれに還る』(1964年)、
『百億の昼と千億の夜』(67年)という二大宇宙SFがあって
特に後者は萩尾望都の手で漫画化された(77~78年)。
大学からの帰り道、掲載誌の「少年チャンピオン」を
近所の書店で立ち読みしていたことを思い出す(おいおい)。
ちなみにこの書店さんは10年くらい前に廃業してしまった。諸行無常。
この2作に『喪われた都市の記録』(75年)を併せた3作は、
私が持つ光瀬龍という作家さんのイメージの決定づけた作品だと思う。
74年にはジュブナイルSF『夕ばえ作戦』がNHKでドラマ化されていて、
これも観た記憶がある。こちらもwikiを見てみたらいろいろ思い出す。
主演は山田隆夫(今では『笑点』の座布団運びだが)、
意外な共演者としては後に愛川欽也夫人となるうつみ宮土理も出てた。
山田の親友役で、”ずうとるび” のメンバーだった今村良樹も出てる。
(と書いても知らない人の方が多そうだが)
今村良樹は、20代半ばで放送作家に転身し、50歳を超えてからは
紙芝居をやってるらしい。人生いろいろ(笑)。
これ以外にも『暁はただ銀色』『作戦NACL』『SOSタイムパトロール』
などのジュブナイルを書いていて、これらはみんな
70年代にソノラマ文庫に収録されている。
日本のSF作家のうち「第一世代」と呼ばれる作家さんの多くは
多くのジュブナイルSFも書いていて、これは
後のライトノベルの嚆矢となった。光瀬龍もその大事なピースのひとつ。
それ以後も光瀬龍の宇宙SFは、『宇宙航路』(80年)、
『派遣軍還る』(82年)と書き続けられる。
前者はSF専門誌『奇想天外』、後者は『S-Fマガジン』に連載された。
この頃、私はSFにハマっていたので両誌とも毎号買ってた。
だから両作とも、雑誌掲載時に読んでる。
今から思えば金とヒマがあったんだねぇ(笑)。
80年代に入ると、歴史改変をテーマにした時代SFが多くなり、
やがて純粋な歴史小説を執筆するようになっていった。
それと同期するように、私も光瀬龍という作家からは離れていった。
そういう意味では、私は ”良い読者” ではなかったのだろう。
wikiの「光瀬龍」の「人物」欄の末尾近くに、次の一文がある。
「およそ40年間にもわたる創作家としての輝かしい活動歴とは裏腹に、
文学賞の受賞とは、SF作品を対象とした星雲賞をふくめて
生涯無縁であった。」
私が ”地味” と感じたのも、このあたりが理由かも知れない。
でも、この記事を書き始めたら意外なほど昔の記憶が蘇ってきて
こんなに長くなってしまった。
私にとって、作品についての思い出をたくさん残してくれた、
大事な作家さんであることは間違いない。
前置きが長くなってしまった。
本書には主に64年から75年まで、(1編を除いて)『S-Fマガジン』に
掲載された宇宙SFの短篇15作が収録されている。
第一部
「無の障壁」「勇者還る」「決闘」「スペース・マン」
「異境」「訣別」「クロスコンドリナ2」
第二部
「廃墟」「星と砂」「星の人びと」「ひき潮」
第三部
「東キャナル文書」「アマゾン砂漠」
「火星人の道(マーシャン・ロード) I」
「火星人の道(マーシャン・ロード) II 調査局のバラード」
第一部は、78年にハヤカワ文庫JAから刊行された
短編集『無の障壁』をそのまま収録したもの。
第二部は、単行本で刊行されたが文庫に未収録だった宇宙SFを
集めたもの(らしい)。
第三部は、77年にハヤカワ文庫JAから刊行された
短編集『東キャナル文書』をそのまま収録したもの。
宇宙年代記が1作も入っていないのは、上記のように他の出版社で
すでに文庫化されていて、比較的入手しやすいためだという。
収録作は、一度は読んでるはずなんだけどほぼ記憶無し(笑)。
そりゃもう40年以上経ってるからねぇ。
雰囲気は概して暗め。
もともとそういう時代/世界を描いている作品群だからね。
希望と熱気に満ちた宇宙開発時代を過ぎ、
各惑星・小惑星に生活基盤が築かれはするものの、
植民地の生活は厳しいまま。
遠く離れた異世界での生活は過酷の一語。
地球や内惑星からの補給が無ければ生きていくのも難しい。
辺境に赴けば事故や死などの悲劇が待っている。
肉体を捨ててサイボーグ化した者も珍しくない。
そんな環境に生きている者たちの物語を紡いでいくのだが
上記のような世界の話だからハッピーエンドはまれ。
広大な宇宙に比べて人間の存在はあまりにも小さく、たいていは
宇宙の深淵に飲み込まれてしまうような非情な結末が待っている。
まさに ”無常感” あふれるのが光瀬龍の世界。
40年以上前の作品だから、最新の宇宙の知識と矛盾する部分もあるし、
SF的な描写にも古くささを感じる。
「未来を描いた作品は、時代が降るにつれて必然的に陳腐化していく」
とは誰の言ったことだったか。
でもいちばん大きいのは、読み手の年齢かも知れない。
私がこの作品群を読んでたのは、10代終わりから20代前半くらい。
あの頃はこの感覚にシビれて好きだったんだけど
還暦を超えて再読してみると、哀感のほうが勝りすぎて
読み続けるのが辛いこともあった。
でも、40年前の私を思い出しながら読む作業は
決して嫌なものではなかったよ。
31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2020-08-17 11:01)
鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2020-08-17 11:01)
@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2020-08-17 11:02)
mojoさん、こんにちは。
ご無沙汰しております。
光瀬龍さん、とても懐かしいです。
それこそ「夕ばえ作戦」は当時(たぶん中学生?)とても心に残っています。あのばんくみで山田隆夫さんとうつみ宮土理さんは覚えているのですが、今村さんは覚えていなかったです。どうもありがとうございました。
萩尾望都さんの漫画もそうですが、NHK繋がりで「謎の転校生」や「新八犬伝」も思い出してしまいました。
ありがとうございます。
またよろしくお願いいたします。
by めとろん (2020-08-23 16:34)
めとろんさん、おはようございます。
お久しぶりでございます。
ここのところしばらく自動更新にしてたので
コメに気付くのが遅くなってしまいました。
>「夕ばえ作戦」は当時(たぶん中学生?)とても心に残っています。
>今村さんは覚えていなかったです。
私もwikiで書いてあるのを見るまでは、全く知りませんでした。
なにせ半世紀近くも前(ちゃんと数えたら46年!)の話ですからねぇ。
>NHK繋がりで「謎の転校生」や「新八犬伝」も思い出してしまいました。
「謎の転校生」は、見てたはずなんですがほとんど覚えてません。
「新八犬伝」は大好きで全編見ましたねぇ。
今は亡き坂本九の語りも懐かしい。
コロナウイルス騒ぎも収まる気配が見えませんし、
くわえて毎日、暑い日が続きます。ご自愛ください。
ありがとうございました。
また、よろしくお願いいたします。
by mojo (2020-08-30 09:50)