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駆逐艦キーリング 〔新訳版〕 [読書・冒険/サスペンス]

駆逐艦キーリング〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

駆逐艦キーリング〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

時代設定は明示されていないのだけど、
巻末の解説によると1942年の3月頃らしい。
真珠湾攻撃が1941年12月だから、
日米が太平洋戦争に突入してから約3か月経った頃。

舞台は北大西洋。既に2年以上もドイツと戦火を交えている
イギリスを支援するべく、37隻の輸送船団が東に向かっている。

しかし、その船団を護衛する戦力はきわめて貧弱だ。
駆逐艦2隻、コルベット艦2隻、合わせて4隻しかない。

 wikiによると、「コルベット艦」とは第二次世界大戦中に
 イギリス海軍が建造した船団護衛艦で、当初は捕鯨船の設計を流用して
 急造された小型の対潜水艦用の艦船だったとのこと。
 捕鯨船が母体だから、船体はかなり小さい。
 もともと小さい軍艦である駆逐艦よりもさらに小さいことになる。
 わずか4隻という数も驚くが、巻末の解説では
 この時期の船団護衛はこのくらいの規模が普通だったらしい。

しかもこの4隻、国籍は見事にバラバラ。
2隻の駆逐艦のほうは
〈キーリング〉はアメリカ、〈ヴィクター〉はポーランド、
2隻のコルベット艦のほうも
〈ジェイムズ〉はイギリス、〈ドッジ〉はカナダ。
要するに寄せ集めの艦隊なのだ。

主人公は〈キーリング〉艦長で、護衛艦隊司令を兼ねる
ジョージ・クラウス米海軍中佐なんだが、
家庭の事情でアメリカ西海岸から東海岸へ転属したばかりで
対潜水艦戦闘の経験もほとんど無い。

一方、護衛される輸送船団の方も見事にバラバラ。
排水量(大きさ)も速度もまちまちで、舵を切れば旋回半径もみな異なる。
こういう雑多な船の集団を、ひとつにまとめて脱落者を出さずに
イギリスまで届けなければならない。

さらにさらに、イギリス海軍からの連絡で、船団の向かっている
進路上には、Uボートの集団が待ち受けているらしいことがわかる。

まさに「無理ゲー」というか「始まる前から詰んでいる」というか。

物語は水曜日の午前直(○八○○~一二○○)、
コルベット艦〈ジェイムズ〉が敵を探知したところから始まる。

クラウスは直ちに〈ヴィクター〉を支援に向かわせ、
2隻は攻撃を開始するが、ここから48時間にわたって
クラウス中佐の不眠不休の戦闘指揮の様子が描かれていく。

こちらから爆雷攻撃を仕掛けることもあれば
もちろん相手から魚雷の反撃を食らうこともある。

敵艦の行動を ”読む” のも容易ではない。
判断がつかずに迷うこともあるし、うまく出し抜かれてしまうことも。
もちろんぴたりと当たる時も来るが。

輸送船団も、対潜のためにジグザク航行を行っているが
戦闘が始まってしまえば一気にバラバラになりかねない。

わずか4隻しかない艦を小刻みに配置を変えてUボートに備えるが
同時に複数の敵を相手にしなければならないこともあり
いかんせんすべてに手が回るというわけにもいかない。

その隙を突かれて沈められてしまう輸送船も出てくるし、
被害を受けた船からは生存者を救助しなければならないし、
クラウスは常に同時並行的にさまざまな ”決断” を迫られる。
そんな場面が延々と続いていく。

作中での彼は、食事も用足しも後回しで、
常に極寒のブリッジで指揮を執り続けることになる。

文庫で400ページほどの作品だが、その95パーセントは
不眠不休のクラウスの行動をひたすら追っていく。

指揮官とはいかにあるべきか。
クラウスの行動の中心には常にこれがある。

指揮官が動揺を見せれば、それは直ちに部下たちに伝わってしまう。
それゆえに、クラウスはどんなときにも取り乱すこと無く、
沈着冷静であることを周囲に対して示し続けなければならない。
彼の代わりを務めてくれる人間はいないのだから、
クラウスは自らの責任から逃げること無く、全てを受け止めようとする。
時に睡眠や休息への誘惑が頭をよぎるが、あえてそれも封じてしまう。

このように、愚直なまで真摯で、ひたすら
使命の完遂のみを追い求めた男の物語を描いたのが本書だ。

作中で描かれるクラウスは決して無能ではない。
それどころか、Uボートとの戦闘を通じて
(中には誤った判断も含まれるが、それは結果論だ)
きちんと結果を出し続けて、指揮官として有能であることも示していく。

とはいっても、いわゆるスーパーヒーローではないので
ハリウッドの超大作エンタメのように、
Uボート船団を一気に殲滅して大団円、なぁんて展開を期待すると
アテが外れるだろう。

ところが、そのハリウッドが本作を映画化したんだよねえ。
トム・ハンクスが脚本&主演、『グレイハウンド』というタイトルで。

ネットで調べてみたら、もうネット配信で公開されてるんだね。
どうしようかなぁ。これだけのためにApple TV+に加入するのもなぁ。

ハリウッド映画の常で、原作通りのはずはないだろうし。
はたしてどうなっているものやら。


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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-13 12:05) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-13 12:05) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-13 12:06) 

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