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日本SF傑作選3 眉村卓 [読書・SF]


日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空 (ハヤカワ文庫 JA ク)

日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空 (ハヤカワ文庫 JA ク)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「筒井康隆」「小松左京」と続いてきた日本第一世代SF作家のシリーズ、
第3弾は「眉村卓」の登場だ。

私と同世代の方は、NHKの少年ドラマシリーズが
おそらく眉村卓との最初の出会いだろう。
ここでドラマ化された「なぞの転校生」を含めて
初期の眉村卓はジュヴナイルSF作家として認知されたと思う。

この後も、映画化やアニメ化された作品を多く生み出していく。
「とらえられたスクールバス」(アニメ化名『時空の旅人』)は
竹内まりやの主題歌も好きだったなぁ。

21世紀になって知った人もいるだろう。
眉村卓は病床にある夫人のために、彼女が亡くなるまでの5年間、
1日1編のショート・ショートを書き続けた。
このエピソードをまとめたノンフィクション「妻に捧げた1778話」は
草彅剛と竹内結子の主演で『僕と妻の1778の物語』というタイトルで
映画化され、2011年に公開された。

でも、SF作家としての眉村卓は、この2つの時代に挟まれた期間、
1970年代後半から90年代前半にかけてが最盛期だったのだろうと思う。
代表作である『司政官』シリーズの長編「消滅の光輪」「引き潮のとき」や、
これも大長編だった「不定期エスパー」などが書かれてる。

このように長期に、そして多岐にわたって活躍した作家さんの
「傑作選」はどうあるべきか。
編者の日下三蔵は、作家としての初期に書かれた、ジュヴナイル以外の、
主に「SFマガジン」に掲載された短編を中心に編んでいる。
いわば眉村SFの「原点」を示すような作品群を集めているのだろう。

全体は二部構成になっている。


第1部は<異種生命SF>13編。
「下級アイデアマン」「悪夢と移民」「正接曲線」「使節」「重力地獄」
「エピソード」「わがパキーネ」「フニフマム」「時間と泥」
「養成所教官」「かれらと私」「ギガテア」「サバントとボク」

主人公がさまざまな異星生物と出会い、
その異様な生態や人類と懸け離れたメンタリティに
驚いたり困ったり破滅させられたり(笑)する話。

 藤子・F・不二雄の短篇SFマンガに通じる雰囲気もあるけど、
 こちらには ”すこし・不思議” な風味はほとんど無い。
 まあこれが眉村卓の持ち味なんでしょう。

そして、こんな初期の作品からでも
ときおり ”司政官” シリーズの萌芽が感じられたりするのは意外。
でもまあこれは、この作家さんがこの後に進む方向を
知ってるからこそわかることだよねぇ。


第2部は<インサイダーSF>9編。
「還らざる空」「準B級市民」「表と裏」「惑星総長」「契約締結命令」
「工事中止命令」「虹は消えた」「最後の手段」「産業士官候補生」

”インサイダー” なんて現代ではあまり良い意味に使われないんだけど
(「インサイダー取引」とかね)、
これは ”組織の中にいる人” という意味で
身も蓋もない言い方をすれば、未来の世界を舞台に
「会社の中でサラリーマンがどう生きるか」を描いたもの。

組織に潰されていく人、組織に対して叛旗を翻す人、
組織の力をフル活用してのし上がっていく人、
いろんな生き方が描かれる。そこにSF的なアイデアを加味したものだ。

ここまでくると ”司政官” シリーズの原型がかなりはっきり感じられる。
所属が決められておらず、ミッションごとに現地へ飛び、
計画達成あるいはトラブルシューティングを行う
”無任所要員” シリーズなどはかなりそれが色濃く出てるように思う。
現地での実地作業を担うロボットたちが、命令系統に沿って
上下に階層化されてるところなんか ”ロボット官僚” を彷彿とさせる。

もっとも、このロボットたちの人間に対する受け答えが
意外と感情的で、とても ”人間っぽく” 感じられるのは、
やっぱり昭和の作品だからか(笑)。

最後に置かれた「産業士官候補生」は、
大企業が自社の幹部養成のために ”産業士官学校” なるものを設立し、
優秀な生徒を集めて教育する。主人公は破格の待遇に惹かれて
そこに入学するものの、超ハードな教育内容に四苦八苦する話(笑)。

いかにも高度成長社会をバックにした作品だ。
掲載誌が「高一コース」(これも廃刊になって久しい)というのも
時代を感じさせる。

でも、大企業が自分の会社に必要な人材を
自分で養成し始めるってのは現実になってる。

TVでトヨタ工業学園のCMが流れてるのを見ると
ちょっとこの作品を思い出す。
まあ、あちらはこの作品ほど無茶苦茶な教育はしてないだろうけどね。


本書に収められた作品群を読んでたのは大学時代のはず。
タイトルはけっこう覚えてたんだけど、内容はほとんど忘れてたよ。


書いていて思い出したけど、私は若い頃にSFマガジンを
定期購読してた時期があって、「消滅の光輪」は連載第1回から
リアルタイムで読んでたんだよねぇ。

でも、連載が終わる前にSFマガジンを読むのを止めてしまったので
「消滅-」をきちんと最後まで読んだのは文庫化されたとき。
連載開始から考えたら10年くらい後じゃなかったかな。

そういえば「消滅ー」をさらに上回る長さの
大長編「引き潮のとき」は未読なんだよねえ・・・
巻末の著作リストを見たら、15年くらい前に
再刊が始まったみたいなんだけど
全5巻のうち2巻目が刊行されたところで止まってるようだ。

文庫で全巻再刊されたら喜んで読むんだけどなぁ。

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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-14 00:29) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-14 00:29) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-05-14 00:29) 

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