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天気の子 [アニメーション]


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離島から家出してきた高校生・森嶋帆高(もりしま・ほだか)。
東京へやってきたものの、ろくな仕事に就けるはずも無く
上京時のフェリー船内で知り合ったライター・須賀圭介を頼り
彼の事務所に住み込みで働き始める。

一方、ネットでは「100%の晴れ女」なる都市伝説が話題になっていた。

そして帆高が東京で知り合った少女・天野陽菜(あまの・ひな)こそ、
「空に向かって祈ることで晴れを呼ぶ」(ただし短時間で狭い地域に限る)
ことができる「100%の晴れ女」その人だったことを知る。

弟の凪(なぎ)と二人暮らしで経済的に困っていた陽菜を助けるために
帆高は「晴れ女」を ”デリバリー” するネットサービスを始める。
折しも東京は異常気象で長期の雨が続いており、
彼らのサービスは大繁盛する。

しかし「晴れ女」(天気の巫女)としての能力には代償があった。
陽菜は自分の体が次第に透明になってきていることに気づく。
伝承によると、巫女がその命を犠牲にすることによって
異常気象が静まるのだという。

そんなとき、帆高は家出人捜索で警察から追われ、
陽菜と凪も児童相談所に送られることになってしまう。

3人は警察の目を逃れて逃亡を企てるのだが・・・


この映画は現在100億円を超える興行収入をたたき出していて
新海監督は2作続けての大ヒットを生み出したことになる。

私自身も楽しんで観させてもらった。
好みとしては「君の名は。」の方がちょっと上だが
「天気の子」も嫌いじゃない。たぶん円盤が出たら買うだろう。


映画の内容とその評価については、賛否が分かれているようだ。
私が思うに、評価が分かれるポイントは2つあるように思うので、
それについて書いてみたい


その1:「ジブリっぽさ」との決別

3年前の前作「君の名は。」が日本映画史上第2位という
お化けヒット作になった理由については、
それについて考察した記事や評論は無数にあるだろう。

私が思う理由の一つは、「君の名は。」が持つ「ジブリっぽさ」だ。
作画に元ジブリのスタッフが加わっていることもあるし
和風伝奇ファンタジーの要素を取り入れていることもそうだ。

宮崎作品に親しんできた、膨大なジブリアニメのファンにとって
「君の名は。」は敷居が低く感じられて、
彼ら彼女らをうまく取り込むことに成功したのが
大ヒットの理由の一つだったのではないかと思っている。

ところが本作では、その「ジブリっぽさ」を
あえて否定するかのような展開を見せる。

その最たるものが主人公、そしてヒロインの造形だろう。

まず帆高の家出の理由の説明がほとんどない。
それらしいものはあるけど納得できるレベルのものではないだろう。
それ以外にも彼の行動は、優等生とはほど遠く問題児そのもの。
いちばんショッキングなシーンは、たまたま拾ってしまった拳銃を
あろうことか人に向けて撃ってしまうところだろう(外れるけど)。
この一点だけでも、「帆高が受け入れられない」って
書いてある批評をネットで見かけた。そう感じた観客は多いと思う。
特に「夏休みの楽しいファミリー映画」を期待して
劇場に足を運んだ人ほど、そう感じるだろう。

陽菜は弟とアパートの一室で暮らす。親はいない。
映画冒頭で母親が病床にあったことが描写されているが
父親も含め、なぜ子どもだけで暮らしているかの説明は一切無い。
それでいて、知り合ったばかりの帆高を部屋に招いてくれるし
あり合わせの素材で上手に料理をつくってしまうほど家庭的。
帆高の素性も詮索せず、一緒にネットビジネスを始めてくれる。
10代の少年が妄想に描くような ”理想的美少女” といえるだろう。

さらには、警察から逃げ回る3人が逃げ込んだのがなんとラブホテル。
さすがに ”事に及ぶ”(笑) ことはないが(凪も一緒だし)。

この主役カップルに眉をひそめる観客もまた少なくないのではないか。
「トトロ」や「ラピュタ」や「千と千尋」などを至高の作品と
考えているような人にとっては、この二人の行動は
アニメ映画の主役として、あるまじきものに見えたかも知れない。

でも、10代の少年が(銃器を含めて)暴力的な行動をとるアニメや
男子の妄想がそのまま実在化したような美少女が
主人公に奉仕してくれるようなアニメなんて
それこそ、世にゴマンと存在しているのだ。
エロチックなくすぐりに至っては、
全く無い作品の方が少ないのではないか?

そういう意味では、本作は新海監督の趣味全開で、
日本のアニメの ”本道” (笑)に戻ってきたというか
もともと彼がつくりたかったものに近づいてきたのではないだろうか。


その2:ラストにおける帆高の選択について

天気の巫女の命と異常気象の終息はトレードオフであり、
太古の時代から、人々は巫女の犠牲によって天気を治めてきた。

しかし帆高はそれに敢然と異を唱える。
「天気なんて狂ったままでいい、俺は陽菜と生きたい」と。

昭和の頃だったら、天気の巫女が自らを犠牲にして天を治め
なすすべ無くそれを見送った主人公が悲しみに暮れる・・・
なぁんて展開が観客の涙を誘ったかも知れない。

平成の時代なら、巫女の命も異常気象の終息も
全部まとめて解決する方法を主人公が見つけ出し、見事に大団円!
って展開に観客は拍手喝采を贈るだろう。

令和の時代を迎えた本作において、帆高は第3の道を選ぶ。
彼のことを「身勝手だ」「自分さえ良ければいいのか」
って非難する人は流石に少なかろうが、皆無ではあるまい。

「最大多数の最大幸福」を目指すなら、陽菜は消滅しなければならない。
でも、異常気象は彼女が引き起こしたものではないし
彼女が責任を取らされるいわれも全くない。
もし責任の所在を求めるなら、環境破壊を繰り返し
今の世の中を造ってきた、(過去を含めた)大人たちこそ
異常気象の元凶であるはずだ。
だから、帆高の叫びは至極真っ当なもののはず。
彼の選択を否定することは誰にもできない。

しかしながら「真っ当なことを貫き通す」ことが
現実の世ではしばしば多大の困難を伴う。
みんな、長いものに巻かれた方が楽な世界を生きているのだもの。

でも、フィクションの中だけでも
「真っ当なことを貫く」物語があってもいいじゃないか。

世界を敵に回してでも、目の前の愛する人を守る。
その結果、世界が狂ってしまったままでも
自分たちはそこでしっかり生きていく。
こういうラブストーリーがあってもいいじゃないか。

前作「君の名は。」のキャラがカメオ出演していることとか
まだ語りたいこともあるのだけど
もういい加減長くなったのでここまでにしよう。


■小説版「天気の子」

小説 天気の子 (角川文庫)

小説 天気の子 (角川文庫)

  • 作者: 新海 誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 文庫
新海監督自らのノベライズ。
基本的には映画の流れを踏襲しているのだけど、
登場人物の心情とか背景とかがより深く書き込まれているので
映画を見終わった人が読むと、もう一段楽しめると思う。

そして、前作「君の名は。」のノベライズと比べて、
文章力がアップしたように感じる。

「あとがき」を読むと、映像と文章での
表現の違いにも気を遣って書いてるのが分かるし
実際、ラスト近くで帆高が陽菜を救うべく
東京中を走り回るシーンの描写は秀逸だ。

とは言っても、いまは本が売れなくて小説家は儲からないし
どう考えても、このままアニメを造っていた方がお金が入る(笑)
と思うので、”小説家・新海誠”が生まれることはまずあるまいなぁ。

もうそろそろ、次回作の企画が動き始めてるんじゃないかな。

nice!(4)  コメント(8) 
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コメント 8

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-09-05 22:34) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-09-05 22:34) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-09-05 22:34) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-09-05 22:35) 

サンフランシスコ人

『天気の子』......1/17からサンフランシスコの映画館で上映.....

http://www.roxie.com/ai1ec_event/27864/?instance_id=38476
by サンフランシスコ人 (2020-01-13 07:01) 

mojo

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
お久しぶりですね。

>『天気の子』......1/17からサンフランシスコの映画館で上映.....

情報ありがとうございます。とは言っても、
今のところ、アメリカに行く予定はないのですけどね(笑)。

偶然でしょうけど、今日(1/13)の Yahoo!ニュース で
『米アカデミー賞の長編アニメーション賞候補に
 新海誠監督の「天気の子」は選ばれなかった。』(共同通信)
という報道がありました。

外国の人たちには、この映画がどのように評価されてるのか
知りたい気もしますけどね。

ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。

by mojo (2020-01-13 23:37) 

サンフランシスコ人

「アメリカに行く予定はないのですけどね...」

秋山翔吾外野手は来たのですが...

「米アカデミー賞の長編アニメーション賞候補....選ばれなかった」

残念です!

「外国の人たちには、この映画がどのように評価されてるの」

まだ米国の映画館で上映していない?

「お久しぶりですね....」

近年、カルロス・ゴーンのニュースを追いかけたので.....

by サンフランシスコ人 (2020-01-14 07:42) 

mojo

サンフランシスコ人さん、こんばんは。

>まだ米国の映画館で上映していない?

そうでしたね、これから上映されるのですよね・・・
評価されるのも、これからですよね。

ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。

by mojo (2020-01-15 00:32) 

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