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アリスマ王の愛した魔物 [読書・SF]


アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)

アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/12/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

いま現役のSF作家で好きなのは誰か、と問われれば、
私は山本弘と小川一水を挙げるだろう。

本書はその小川一水のSF短編集。5編を収める。

「ろーどそうるず」
アンソロジー「NOVA3」(大森望・編)で既読。
時代は近未来。バイク1台ごとにAIが組み込まれている時代。
組み込みAIの目的は、メーカーのサーバに走行記録を送信し、
個々の機体へフィードバックすること。
AIとサーバ間の交信記録の形式で進行する。
描かれるのは、人間を乗せて「走る」ために生まれたAIたちの
"喜び" と "哀しみ" 。一種の「ロボットもの」なんだけど、
どうしてSFに出てくるロボットってこんなに健気なんだろう。

「ゴールデンブレッド」
宇宙戦闘機のパイロット・豊菓(ユタカ)が不時着したのは
辺境の小惑星にあるレイクビューという村。
太陽系内に散らばった人類はそれぞれの場所で
新たな文化を築いており、
豊菓は全く口に合わない食習慣に苦しむことになるが・・・
異文化理解を阻むのは、刷り込みか教育か。
文化の相違に戸惑いながらも、それを乗り越えて
相互理解へとすすんでいく豊菓の姿が描かれる。

「アリスマ王の愛した魔物」
ディメ王国の第6王子アリスマは、その類い希なる計算能力を持って
周囲の敵を退け、ついには王位に就く。
ソロバンを持った者を数万人集めて、ひたすら計算させて
(って感じのイメージで)、人間だけの力で
スパコンやAI並の処理能力を発揮させようという、
人力(じんりき)コンピュータ・”算廠(さんしょう)” という
アイデアがすさまじい。アナログ処理の極限といったところか。
その ”算廠” は、あらゆることを計算し尽くして
未来予測まで行ってみせるのだが・・・
計算によって栄華を極めた天才が、計算によって破滅していく。
本作は第42回(2011年)の星雲賞短編部門を受賞したけど、
それも納得の異色のファンタジーだ。

「星のみなとのオペレーター」
ヒロイン・筒見すみれは、小惑星イダの宇宙港管制オペレーター。
防衛艦隊所属の宇宙艦フェンディの艦長ヨアヒム中佐に
密かな心のときめきを覚えながら毎日の業務をこなしている。
そんな彼女が見つけたのは、巻き貝の形をした奇妙な
生物ともロボットとも分からない謎の物体・”コンちゃん”。
しかしそれは、太陽系と人類を襲う巨大な危機の前触れだった・・・
事態は限りなくシリアスなのだが、
すみれの視点で進む物語はあくまでも軽やか。
彼女と ”コンちゃん” の出会いが人類を救うカギとなり、
ついでに自らの恋も成就してみせるという楽しい話。

「リグ・ライト ーー機械が愛する権利について」
OLのシキミは、祖父・吉鷹(よしたか)が急死したことにより、
吉鷹の使っていた自家用車を相続することになったのだが、
その車には人間型ロボット・アサカが ”付属” していた。
アサカは、自動運転用の人型AIだったのだ・・・
最近、高齢者による事故が多発しているけど、この作品はそんな世相を
予言していたかのようだ。ちなみに本書の初版は2017年12月。
AIの進化によって、人間並みの思考や判断、そして感情が生まれたとき
人間はそれとどう向き合うのか、なんてのは古今のSFで描かれてきたが
本作では、そうなったときに
AIの側はそれをどう ”考える” か、までも描かれていく。
自動運転をAIに任せたるようになったら、
実際に本作に描かれるようなことが起こるかもしれない。
いつまでもAIが人間の管理下にあるという保証はないんだよねぇ・・・

nice!(3)  コメント(3) 
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コメント 3

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-07-10 23:24) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-07-10 23:24) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-07-10 23:25) 

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