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美森まんじゃしろのサオリさん [読書・ミステリ]

美森まんじゃしろのサオリさん (光文社文庫)

美森まんじゃしろのサオリさん (光文社文庫)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

名前こそ「町」だが、実態は過疎が進む山村である美森(みもり)町。
タイトルの「まんじゃしろ」とは
村の鎮守様を祀った「卍社」(まんじやしろ)のこと。

主人公の岩室猛志は19歳。大学入試に失敗し、
進路に迷っていたところを母に促されて美森町に引っ越してきた。
主が亡くなって空き家となっていた祖母の家に住み、
何でも屋を生業にしている。

もう一人の主人公は貫行詐織(つらゆき・さおり)。
地元出身の21歳の女子大生。
美人で頭も切れるのだが、あまり大学に通っている様子はないようだ。

町に若者の活気を取り入れたい役場は、
この二人が組んだ〈竿竹室士〉というユニットを
”町立探偵” として公認した。

二人が町で起こる不思議な事件に取り組んでいく姿を描いていく。
しかしながら地元の人たちは、事件は皆、”美森様のお使い” と
されるものたち(精霊?妖怪?式神?)の仕業だと噂するのだが。


「まんじゃしろのふしみさん」
農家を営んでいた71歳の樫原多喜子が亡くなる。
しかし翌朝遺体は安置場所から姿を消し
畑の立ち木に設えられたブランコに腰掛けた状態で発見される。
そして周囲には多喜子の足跡だけが残っていた。
樫原家の人々は、美森卍社のお使いである
「伏見さん」の仕業だと言うが・・・

「いおり童子(わらし)とこむら返し」
柴山いちょうは一人暮らしをしている高齢の女性だが。
彼女の隣人が、いちょうの家で
浴衣姿の男の子を見かけたと町役場に相談に来た。
人々は「庵リ童子」がいるのだというが・・・

「水陸さんのおひつ抜き」
一人暮らしの老人に食事を宅配するロボット配食車。
美森で独居する作家・銀嶺照(ぎんれい・てらす)の家に
配達に行ったロボット車が、食事を配達せずに持ったまま
帰って来るという事案が4回も発生する。
銀嶺は「そもそも配達に来なかった」と言うのだが・・・
これも「お櫃を抜く水陸さん」なるものの仕業なのか。

「救母ヶ谷(くもがたに)の武者烟(けむり)」
美森町の一角にある救母ヶ谷には
町外から移住して小さなコミュニティを作っている者たちがいた。
そこに通じる町道が倒木で通れないとの通報で猛志と詐織は出動する。
山の木を切る「小野鈿女(おののうずめ)」の仕業かも知れないと語る
詐織に、小さな ”悪意” を感じる猛志だったが・・・

「美森まんじゃしろの姫隠し」
美森神社の歳祭(としまつり)の実行委員長を引き受けた猛志。
14年前を最後に絶えてしまった祭を復活させるために
詐織とともに奮闘し、どうにか開催にこぎ着ける。
しかし祭の当日、目玉企画だった迷路「迷いの森」で幼女が一人、
行方不明になってしまう・・・


”守護神のお使い” なんていうと伝奇的なものを想像してしまうが
「水陸さんのおひつ抜き」の紹介文でも分かるように
実はこの作品の時代設定は近未来。作中には最新のIT機器や、
近い将来実用化される(かも知れない)技術も登場している。
情報技術の進歩と過疎問題を絡めているのもこの作品のテーマの一つ。

実際、不可解な現象のうちのいくつかはこれで説明されるので、
SFミステリの一種だともいえる。

そしてもう一つは、主役二人の美森に対する思い。

最初は猛志と詐織が恋仲になって
美森で生きて行く物語なのかと思ったがさにあらず。
この二人の心の距離は以外と大きい。

美森に根を下ろし、過疎の町の発展に役立とうとする猛志に対して、
詐織のほうにはまた別の思惑がある。
猛志に対してもしばしば嘘をついたり隠し事をしている。
(彼女の名前に「詐」の字が含まれているのが象徴的だ)

二人の仲が仕事のパートナー以上の関係に進むとしたら、
本書の終わった後の物語になるだろう。

短編でもいいので、”その後” の二人の物語が読みたいなあ・・・

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コメント 3

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-02-22 20:42) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-02-22 20:42) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-02-22 20:42) 

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