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祝! 『ゴジラ -1.0』アカデミー賞視覚効果賞受賞!! [映画]




 ちょっと時機を逸しましたが、『ゴジラ -1.0』制作陣の皆様、受賞おめでとうございます。

 ノミネートされただけでもスゴいと思ってましたが受賞までしてしまうとは、もうビックリでした。『ゴジラ』シリーズを観続けてきて良かったと思えた日でした。

 ただ、その報道の仕方にはちょっと不満も。みな「CGの出来がスゴい」とか「ハリウッド映画と比べて1/10の予算」とか、VFX関係の話ばかり。
 まあ「視覚効果賞」だから、そのへんがメインになるのは仕方がないのでしょうが、そもそもの話、映画としての出来が良くなければ、いくらCGがスゴくたって候補にも挙げてもらえないわけで、ぜひそこのところを伝えてほしかったんだけどね。

 受賞のニュースを伝えてるアナウンサーとかキャスターとかの中には、「こいつ絶対、映画本編を観てないだろ・・・」って思う人もいた。
 映画としての出来にまで言及していたのは私の知る限り、某ワイドショーのコメンテーターの一人が奥さんと一緒に観に行った話をしていて、本人はもちろん奥さんも「素晴らしい映画だった」って絶賛していた、というのが唯一かな。

 おっと閑話休題。

 この映画、11/3の公開後、11~12月の間に4回くらい見に行きましたかねぇ。
 Dolby Cinema が2回、IMAX が2回だったかな。料金はかかるけど、この映画はそれだけの出費に見合う作品だと思います。綺麗な映像と素晴らしい音響で観る『ゴジラ -1.0』は最高でした。

 「5/1に Blu-ray が発売予定」ってアナウンスされ、さっそく予約したんですけど、今回の受賞を知って嬉しくなり、またまた映画館に観に行ってしまいました。一昨日(3/13)のことです。
 平日の昼間なのに、席は7割方埋まってましたかね。通常では考えられないことです。みんな受賞のニュースを聞いて観に来たのでしょう。
 およそふた月ぶりの『ゴジラ -1.0』でした。流石に一日一回上映で、通常の音響のハコでしたけど、よかったです。ストーリーも分かりきってるんだけど、やっぱり涙が出てしまいました。

 願わくば、今回の受賞をきっかけに「ゴジラだから・・・」とか「怪獣映画だから・・・」とかの理由で敬遠していた人にも、ぜひ劇場に足を運んでもらいたいものです。
 観客動員も盛り返してきたようだし、上映館や上映回数も増えたらいいな。ちょっと前に、国内興行収入が60億に達したというニュースがあったけど、少しでもそれに上積みされるといいな。『シン・ゴジラ』の82億は超えられないかもしれないけど、少しでもそれに近づくようになってほしいものです。

 山崎貴監督は「ゴジラをもう一本撮りたい」って言ってましたけど、可能性は高まりましたね。
 『-1.0』の続編になるのか、別の新しいゴジラになるのかは分かりませんが、どっちにしろかなりハードルが上がってしまったので、次の映画はそう簡単には作れないでしょうねぇ。
 まあ、私の生きているうちにお願いします(おいおい)。


 あともうちょっと書かせてもらうなら、この映画は全世界で160億くらい稼いでいるらしいので、儲けの一部は制作陣にも還元してあげてほしいなあ。結果を出したらきちんと報酬を与えるのは当然のこと。そこを怠ると、そのうちCGスタッフたちは外国(アメリカや中国)に引き抜かれてしまうぞ。


タグ:SF
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波の鼓動と風の歌 [読書・ファンタジー]


波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)

波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/09/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 女子高生・来島凪(くるしま・なぎ)は、校外学習での登山中に湖に転落してしまう。目覚めたとき、そこは異世界。そして彼女は人と獣の混じり合ったような異形の姿へと変わってしまっていた。
 囚われの身となっていたナギ(凪)を救ったのは、サージェという少年。彼と共に都を目指す旅に出るが、やがてこの世界の過酷な "定め" を知っていく・・・

* * * * * * * * * *

 高校3年生の来島凪は、運動も勉強も普通の生徒。真面目で努力家だが変わり者と見られていて友人もいない。そんな自分に存在意義や生きる価値を見いだせない日々を送っていた。
 高校最後の行事である校外学習での登山中、クラスメイトの北村なぎさと共に湖に転落してしまう。

 目覚めたとき、そこは何処とも知れぬ異世界。ナギの身体は人と獣の混じり合ったような異形の姿へと変わっていた。左手は太くて毛むくじゃらで、鋭い爪を持つ指が。両脚には恐竜か爬虫類のような鉤爪が。
 この世界では、ナギのような存在は "まじりもの" と呼ばれ、激しい差別を受けていた。ナギもまた囚われの身となり、鉱山で強制労働をさせられていた。

 ナギを救ったのは、紺碧の瞳を持つ12歳の少年・サージェだった。鉱山から逃れた二人は都を目指して旅に出る。やがてナギは、この世界の異様さを知っていく。

 この世界は、"星の海" と呼ばれる、すべての物体を溶かしてしまう液体で覆われている。陸地は無数の巨大な柱に支えられて、"星の海" のはるか上方に存在している。かつては四つの大陸があったが、柱の崩壊とともに砕けていき、いまは島がいくつか残るのみ。ナギが漂着したのはその島国の一つ、サライだった。

 島を支える柱が崩落を続ければ、いずれはサライも "星の海" に飲み込まれてしまう。それを防ぐため、王は自らを "王柱"(おうちゅう)と呼ばれる柱に変えて、島を支える存在になるのだという。
 そしてサージェは、自らを "聖王シュレンの喜生(きっしょう)" だと名乗る。シュレンはかつてサライを収めていた仁王であり、"喜生" とはいわゆる「生まれ変わり」のことだ。彼の望みは、サライの王族に "聖王の喜生" と認められ、王柱へとその身を変えることだった。

 年端もいかない少年の身で、自らの身体を犠牲にしようとするサージェの目的に疑問を持ちつつも、共に都に向かうナギ。しかし都では、王位を巡る争いが勃発していた・・・


 いわゆる異世界転生ものだ。転生に伴ってナギは異形の姿へとなってしまい、衝撃を受けてしまう。まあ年頃のお嬢さんとしては無理もない。
 だが、ナギたちを襲う数々の危機を逃れるとき、彼女の身体が得た "獣の力" は大いに役に立つことになる。

 また、この世界における "まじりもの" の生態はどちらかというと獣寄りで、ナギのように人間と意思疎通ができる者はいないらしい。そういう意味では彼女はこの世界に於ける唯一無二の存在でもある。

 自分が生きる意味を見いだせなかったナギの前に現れたサージェは、自らの身を犠牲にして王柱となることに自分の存在意義を見いだしている。
 そんなサージェと行動を共にしていくうち、ナギの意識は少しずつ変化していく。本書はナギの精神的な成長の物語でもある。

 物語は、本書でいちおうの区切りを迎えるが、ナギ自身の "元の世界" への帰還までは描かれない。
 とはいっても作中では帰還の可能性自体は否定されていないので、続編があるのかも知れないし、この一巻で完結で以後の展開は読者の想像に任せているのかも知れない。
 私としては、数々の試練をくぐり抜けたナギが、成長した ”来島凪” として元の世界へ帰って行った後の話が読みたいので、続編を期待してる。



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アンダードッグス [読書・冒険/サスペンス]


アンダードッグス (角川文庫)

アンダードッグス (角川文庫)

  • 作者: 長浦 京
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/09/22

評価:★★★★☆


 1996年、中国返還が直前に迫った香港。そこのメガバンクからは世界各国の要人に関する機密情報が運び出されようとしていた。
 かつて政争に巻き込まれて失脚した元官僚・古葉慶太(こば・けいた)は、大富豪マッシブによって機密情報奪取計画への参加を強いられる。現地へ飛んだ古葉は、彼と同じ "負け犬" の寄せ集めチームを率いることに。
 米露英中の諜報機関が暗躍し、謀略と銃弾が飛び交う中を "負け犬たち" が駆け抜ける、スパイ・アクション大作。

* * * * * * * * * *

 ちょっと調べてみたら、タイトルの「アンダードッグス」(underdogs)には、意味が3つほどあるようだ。
 (1)勝ち目のない人やチーム  (2)敗残者、負け犬  (3)弱者

 主人公の古葉慶太は32歳。かつては農林水産省の官僚だったが政争に巻き込まれ、詰め腹を切らされる形で省を去り、証券会社に拾われた。まさに「敗残者」であり「負け犬」だ。

 1996年12月末、古葉は香港在住のイタリア人大富豪マッシモに呼び出され、ある作戦への参加を要請される。
 いま香港では、中国返還前にメガバンクから世界中の要人に関する秘密情報を海外へ持ち出そうとしている。それを奪取しろ、というものだった。
 かつて自分を陥れた者たちへの復讐の機会を与えられた古葉は現地へ向かうが、作戦開始直前にマッシモが暗殺されてしまう。しかし彼の残した組織は健在で、計画中止は裏切りと同義で、死を意味する。

 計画続行を決めた古葉の元に、マッシモが選んだメンバーが集まってくる。元銀行員のイギリス人マクギリス、元IT技術者のフィンランド人イラリ、政府機関に勤める香港人・林彩華(ラム・チョイワ)。みなそれぞれ挫折した過去を抱える「負け犬」たちだ。
 チームの警護役のオーストラリア人ミア・リーダス以外は、古葉を含めて諜報活動に関してはみな素人。だが、いまの香港には米露英中、各国の諜報員が大量に投入されて跋扈している状態だ。そんな中へ割って入る古葉はまさに「弱者」であり、彼らは「勝ち目のないチーム」に他ならない。

 「アンダードッグス」とは、まさに本書にぴったりの題名だろう。

 メンバーが揃ったのも束の間、謎の集団による銃撃を受け、ここからジェットコースターのような危機また危機の展開が幕を開け、爆音と硝煙と流血がほぼ途切れることなく終盤まで続く。

 各国の諜報機関に加えて香港警察までも介入してきて、事態は混迷の度を深めていく。それに輪を掛けてストーリーを紛糾させていくのは、登場キャラクターほぼすべてが、裏の顔をもっていること。
 各国の諜報機関同士が離合集散したり、登場キャラが自らの立ち位置を変える(つまり裏切り)も日常茶飯事。だから敵味方がめまぐるしく変転する。そんなスパイの世界が描かれていく。

 古葉は諜報とは無縁の元官僚。腕っ節が強いわけでもない。そんな彼の唯一の武器は "頭脳" だ。並外れた観察力と記憶力、高い先見性と計画性、そして決断力。それを強固な復讐心が支えている。

 彼はいわゆる素人であり弱者だ。だが、それ故に常に頭脳はフル回転し続ける。事態の推移する先を予想し、可能性の分岐を考える。そして、どう転んでも対処できるように事前の準備を万全に整える。実際、降りかかってくる危機を次々と乗り越えていく姿は読む者を驚かせるだろう。
 まさに「こんなこともあろうかと」(笑)。

 もちろん古葉の方も無傷で済むはずもない。時には自らの身を囮として「肉を切らせて骨を断つ」ような反撃も決行するので、古葉は次第にボロボロの満身創痍になっていくのだが、最後まで諦めることはない。

 本編の舞台は1996年末~97年初頭なのだが、その合間合間に2018年のパートが挿入される。こちらの主役は古葉瑛美(えいみ)という若い女性。慶太の「義理の娘」である彼女は、ある組織から招かれて香港へやってくる。
 彼女のパートはいわゆる本編の「後日談」になっているので、どんな経緯で彼女が慶太の ”娘” になったのかも含め、彼がどんな運命を辿ったのかを予想しながら読むことになるだろう。

 全編がハラハラドキドキの激しいアクションで彩られ、ページを繰る手が止まらない本書は、エンターテインメントの傑作だ。楽しい読書の時間を約束してくれるだろう。


 素人が、素人故の発想と手段でプロの敵を出し抜いていく姿は、往年の山田正紀の "超冒険小説" 群を思い出させる。『火神を盗め』(1977年)、『謀殺の弾丸特急』(1986年)なんかがまさにそれだった。うーん、久々に読み返したくなってしまったよ。



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おれたちの歌をうたえ [読書・冒険/サスペンス]


おれたちの歌をうたえ (文春文庫)

おれたちの歌をうたえ (文春文庫)

  • 作者: 呉 勝浩
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/08/02

評価:★★★★☆


 令和元年。元刑事の河辺久則(かわべ・ひさのり)のもとへかかってきた電話は、幼馴染みのサトシ(五味佐登志:ごみ・さとし)の死亡を告げるものだった。
 長いこと音信不通だったサトシは長野県松本市にいた。彼の部屋に残された文庫本には、暗号めいた謎の文章が。河辺は暗号の謎を追いながら、42年前から現在までを回想していく。
 第165回直木賞候補作。

* * * * * * * * * *

 主人公の河辺久則は元刑事。還暦間近となったいまは、デリヘル嬢の送迎ドライバーで生計を立てている。

 令和元年(2019年)。河辺のもとへかかってきた電話は、幼馴染みのサトシの死亡を告げるものだった。長いこと音信不通だったサトシは長野県松本市にいて、地元のヤクザの世話を受けながら酒に溺れる生活を送っていた。

 五味の面倒を見ていたチンピラ・茂田(しげた)によると、生前の五味は金塊を隠し持っていたらしい。部屋に残された文庫本には、その隠し場所を示すと思われる暗号めいた謎の文章が記されていが、茂田はそれを解くことができず、五味の携帯に残っていた河辺の番号へ連絡をしてきたのだ。


 物語は令和元年の河辺と茂田の行動を軸に、河辺の回想を挟みながら進行していく。
 五味の死に他殺の疑いを持った河辺は、暗号の謎を追いながら、42年前から現在までを振り返っていく。


 昭和51年(1976年)、長野県真田町(現上田市)で暮らす河辺は、仲間たちとつるみながら高校生活を送っていた。
 サトシ、コーショー(外山高翔:そとやま・こうしょう)、キンタ(石塚欣太:いしづか・きんた)、フーカ(竹内風花:たけうち・ふうか)、それに河辺を加えた五人は、4年前の小学生時代に起こった出来事から「栄光の五人組」と呼ばれていた。名付けたのはフーカの父で、高校教師だった三紀彦(みきひこ)だ。

 しかしその年のクリスマスの日、フーカの姉・千百合(ちゆり)が失踪、年が明けて絞殺死体として発見される。
 捜査が停滞する中、近所に住む朝鮮人の青年が犯人ではないかとの疑いが持ち上がり、それがもとで凄惨な大量殺人事件が起こってしまう。
 しかしその数日後、雪の山中に放置されていた車の中で男の自殺死体が発見される。助手席には千百合の遺品があったことから、その男が殺人犯だったとして事件は終結した。
 そして千百合の死をきっかけに「五人組」は別々の道を歩むことになった。


 22年後の平成11年(1999年)。河辺は東京で刑事となっていたが、前年に起こった集団強姦事件の扱いを巡って上層部と衝突、捜査の一線から外されてしまう。上司や同僚は河辺を辞職に追い込むべく、パワハラを仕掛けてくる日々だ。

 そんなとき、コーショーから連絡が入る。彼は高校卒業後に上京、バンドを組んでデビューしたが早々に見切りをつけて裏方にまわった。いまは音楽スクールの雇われ校長だ。
 コーショーのもとに、22年前の大量殺人事件と「五人組」の関わりを記したルポを発表するという脅迫電話があったという。やめてほしければ一人200万、総額で1000万円支払えというものだった。

 対策と金策のために、他のメンバーを探し始める河辺とコーショーだったが、事態は意外な方向へ進み、再び殺人が起こる・・・


 文庫で670ページほどもある大作。プロローグが昭和47年(1972年)、ラストシーンが令和2年(2020年)なので、作中時間は足かけ48年。大河ドラマ並みの時の流れを追っていく大長編だ。

 サトシの死と暗号の謎を追う河辺の探索行は、そのまま「五人組」の42年間の人生を追う旅となっていく。
 「五人組」の紅一点で、メンバーたちから密かに想いを寄せられていたフーカは消息不明になっていて、いちばん非力だがいちばん頭が切れたキンタは物語後半のキーパーソンとなる。

 とにかく「五人組」のキャラ立ちが素晴らしい。平穏無事に生きてきた者は一人もおらず、みな見事なくらい波瀾万丈な人生を全速力で駆け抜けていく。ある時は協力しあい、ある時は対立していく彼らの生き様が最大の読みどころだろう。

 なにせ長い物語なので、途中でじつにいろいろな事件が起こっていくのだが、最終的に河辺が辿り着くのは、「五人組」たちの人生の起点ともなった "千百合殺し" の真相。長大な物語が、回り回って最初の場所に戻ってくると云う構成は嫌いじゃない。

 千百合事件の ”真相” は作中で二転三転するが、ラスト近くで明かされる意外な真実に驚かされる人も多いだろう。
 本書は重厚なサスペンス小説であるが、それと同時に、よくできたミステリでもあったことに気づくことになる。



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二十面相 暁に死す [読書・ミステリ]


二十面相 暁に死す (光文社文庫 つ 1-48)

二十面相 暁に死す (光文社文庫 つ 1-48)

  • 作者: 辻真先
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/09/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 1946年、春。二十面相の暗躍は続いていた。復員してきた明智とともに新たな戦いを始めた小林少年だったが、捕縛には一歩及ばない状態が続く、
 そんな中、"口笛を吹く二宮金次郎の石像" を調べに向かった小林少年は、その意外な正体を知る・・・
 辻真先版『怪人二十面相』シリーズ第二弾、『焼跡の二十面相』続編。

* * * * * * * * * *

 1946年、春。軍に招集されて暗号業務に携わっていた明智探偵が復員して来たが、二十面相の暗躍は止むことはなかった。
 資産家の羽柴壮太郎の屋敷には明智探偵と小林少年の偽物が現れ、秘蔵されていた黄金の厨子を騙し取っていったのだ。

 さらに銀座の太田垣美術店では、二十面相からの予告状の通り、衆人環視の中から魔道書が盗み出されてしまった。
 時を置かず、続けて名古屋でも二十面相の犯行予告が。明智と小林少年は東海道線で名古屋に向かうが、こちらも二十面相に先を越されてしまう。

 東京へ戻ってきた小林少年は、中学校の同級生・白石くんから不思議な話を聞く。小中一貫の女子校・綾鳥(あやとり)学園の校庭に設置されている二宮金次郎の石像が、夜中に口笛を吹くのだという。
 折しも、綾鳥学園の理事長を務める四谷春江(よつや・はるえ)に対して、二十面相から所蔵する神像を盗むという予告状が届いていた。

 その夜、綾鳥学園の校庭を見張っていた小林少年は、春江理事長と数名のアメリカ兵が、校庭の地下へと入り込んでいくのを目撃する。
 さらに二宮金次郎の像まで動き出した。その正体は人間、しかも小林少年と同じ歳くらいの少女だったのだ。春江たちを追って地下の通路に潜り込んだ二人だったが、発見されて逆に追われる羽目になる。

 少女の名は柚木(ゆずき)ミツル。戦災孤児だったところを二十面相に拾われ、手下として働いているのだという。羽柴家に現れた偽物の小林少年に化けていたのも彼女だったのだ。危機に陥った二人は協力して脱出を試みるのだが・・・


 物語の中盤は、この二人の冒険行が描かれる。本来の素質に加えて二十面相の教育よろしく、ミツルは頭の回転が速く度胸も満点。明智探偵の薫陶を受けてきた小林少年を相手に互角の、時にはそれ以上の大活躍を見せる。

 四谷家は軍需企業を経営していて戦争で大儲けをし、さらに終戦のどさくさに紛れて大量の物資・美術品を横領、私腹を肥やしてきた。そしていま、奥多摩地区に綾鳥学園の新校舎を建設しているが、そこには大量の美術品等が隠匿されているらしい。
 終盤ではその奥多摩を舞台に、四谷家、明智&小林少年、二十面相&ミツルの三つ巴の大混戦が描かれていく。


 前半を読んでいて印象に残るのは、終戦直後の東京や名古屋の風景。このあたりの描写は、やはり当時の雰囲気を知る著者ならではのものだろう。
 二十面相とミツルが東京から名古屋へ移動したのも、この時代だからこそ可能だった手段を用いている。

 そしてなんと言っても本作の目玉は、ヒロインとなるミツルさんだろう。中国系アメリカ人の父と日本人の母に生まれた少女で、悪事の片棒を担いでいるのだが性格はあくまで明朗快活。口を開くと威勢の良い言葉が飛び出す、元気いっぱいのお嬢さんだ。
 共に危機をくぐり抜けていく中、(吊り橋効果だろうが)小林少年との絆も深まっていく。途中、二人が手を繋いで銀座の町を闊歩するというデート(?)シーンまであって、思わず口元が緩んでしまう。小林少年のロマンスは(たぶん)原典にはなかったものだろう。

 しかしながら初恋は実らぬもの。ラストシーンで二人には別れの時が訪れる。とは云っても、お互いに思いを残しての別離なので、再会の目は充分にありそうだ。

 タイトルで『二十面相 暁に死す』とあるように、クライマックスでは生死不明の状況になってしまうのだが、そう簡単に死ぬはずはないので(笑)、明智探偵&小林少年の戦いはこれからも続くだろう。
 本シリーズはいまのところ二作目の本書までしか刊行されていないのだが、ぜひ、続きが読みたいなあ。もちろん、ミツルさんの再登場も期待してます。



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誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 [読書・ファンタジー]


誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 (講談社文庫)

誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 (講談社文庫)

  • 作者: 田中啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/05/16

評価:★★★


 大坂夏の陣から45年、大阪城が落雷によって損害を受ける。その修復中に見つかったのは、地下深くへと続く石段。そしてその奥には異形の怪物がいた。
 自らを豊臣秀頼と名乗るその怪物は告げる。「千姫は大阪城で殺された」のだと・・・

* * * * * * * * * *

 慶長20年(1615年)5月6日。大坂夏の陣。
 大阪城を大軍勢で取り囲む徳川家康のもとに、悲報がもたらされる。孫の千姫が大阪城内で命を落としたのだという。
 怒りに燃える家康は決戦を決意、翌日の戦いで大阪城は落城する。しかしなぜか、城から落ち延びてきた女たちの中には千姫の姿があった。

 そして45年後の万治元年(1660年)。大阪城の弾薬庫に落雷があり、大爆発を起こして城の一部が破損してしまう。その修復中に見つかったのは、城の地下深くへと向かう石段だった。そしてその奥には、異形の怪物が棲んでいた。
 二十歳ほどの若い男の顔の下に、大蛇の胴体をもつその怪物は、自らを豊臣秀頼であると名乗った。

 その怪物が云うには、大阪城落城のとき、外部への抜け穴であると地下へと案内されてそのまま閉じ込められてしまったのだという。そして洞窟内に生えていたコケを食らって命を繋いでいるうちに、いつしか体が蛇身へと変わっていってしまった。

 そして "蛇身秀頼" は云う。「千姫は大阪城内で殺された」のだと。
 「千姫は生きて大阪城から落ち延びてきた」と告げると、
 「その千姫は偽物だ」と断言する。

 落城後の千姫は、三代将軍・家光の姉として権勢を振るい、現将軍・四代家綱のもとでも、大きな影響力を保持していた。


 前半は、落城直前の大阪城内の様子と、千姫殺害の詳細について語られる。そして後半では、"蛇身秀頼" が東海道を下って、江戸にいる千姫と対決するまでが描かれる。

 柳生宗矩とか坂崎出羽守とか実在の人物も出てくるのだが、メインとして活躍するのは、いわゆる「真田十勇士」たち。猿飛佐助や霧隠才蔵など有名なキャラたちが続々登場する。
 大阪の陣では若き日の彼らが描かれる。何人かはそこで討ち死にしてしまうのだが、生き残った者たちが45年後にも姿を見せ、最後の戦いを演じてゆく。

 タイトルに「蛇身探偵」とあり、文庫裏の惹句にも「時代本格ミステリ」とあるのだが、あまりミステリ成分を感じない。
 まあ忍者みたいな常人離れした運動能力を持つ者が普通に存在する世界、という "特殊設定もの" と考えられなくもないが。

 それよりは、蛇身の秀頼や千姫を騙る者の正体など、伝奇ファンタジーの要素の方が強いかな。それに加えて作者の持ち味であるユーモアも随所に織り込まれる。
 歴史考証がうんたらとか史実がかんたらとかムズカシイことは考えず、頭を空っぽにして読めば、楽しい時間が過ごせると思う。



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もしかして ひょっとして [読書・ミステリ]


もしかして ひょっとして (光文社文庫)

もしかして ひょっとして (光文社文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/09/13

評価:★★★


 日常の謎系ミステリを6編収録した短編集。

* * * * * * * * * *

「小暑」
 赤ん坊の那々美(ななみ)を抱いて東海道線の下り電車に乗った "私"。子どもをきっかけに、向かいに座った老婦人との間で会話が始まる。それは60年前、老婦人の兄が医学生だった頃に起こった "女性問題" の話だった・・・
 どこがミステリなのかな、と思っていたら、ラスト近くで「そこだったか!」
 でもまあ、分かってみれば老婦人があの話題を出してきたのも理解できるし、最後の "私" の心境の変化につなげる流れも上手い。


「体育館フォーメーション」
 県立南高校の男子バスケット部の内部で、最近パワハラの嵐が吹き荒れているという。2年生の酒々井(しすい)による、練習中の1年生への罵声や恫喝が目に余り、他の部の練習にも差し支えているらしい。
 苦情を持ち込まれた運動部担当の生徒会役員・荻野研介(おぎの・けんすけ)は、調査を始めるのだが・・・
 ミステリとしてのオチもきちんとつくのだが、登場してくる他の運動部の部長たちがみなユニークなキャラなのも楽しい。


「都忘れの理由」
 ”私” は84歳の元大学教員。15年前から紀和子(きわこ)さんという家政婦を頼んでいる。5年前に妻を亡くしてからは、紀和子さんに生活全般の世話をしてもらっている。
 しかしその紀和子さんが突然辞めてしまう。でも理由は何も思い当たらない。家事については無能力者な "私" はほとほと困ってしまい、彼女に会いに行こうとするのだが・・・
 原因は些細な行き違いなのだが、当人にとっては重大事なのはよくあること。"私" の家事音痴ぶりは面白いのだが、自分を振り返るとあまり笑えない。
 まあ、私の方が "私" より少しはマシだとは思うのだが。


「灰色のエルミー」
 人材派遣会社で働く永島栄一(ながしま・えいいち)は、高校時代の友人・佐田美鈴(さだ・みすず)から飼い猫のエルミーを預かった。家を空ける用事があるのだという。
 しかし美鈴は交通事故に逢い、意識不明の状態になってしまう。「猫を預かることは誰にも言わないで」と彼女に云われたことから、事故の裏に何らかの事情を感じた栄一だが・・・
 美鈴の信頼に応えようとする栄一の行動が頼もしい。友人以上恋人未満だった二人の関係が、事件を通じてもう一歩先へ進みそうな予感を示して終わるラストシーンが心地よい。


「かもしれない」
 不動産会社で働く昌幸は勤続20年。2年前、同期の菅野はウイルスメールを不用意に開いたことで会社に損害を与えてしまい、その後の人事で長野県の工務店へ出向を命じられていた。
 あるきっかけから菅野のことを調べ直した昌幸は、女性がらみの意外な事情が潜んでいたことを知る・・・
 菅野の "侠気" が泣かせる一編。


「山分けの夜」
 大学4年生の卓也は、介護施設にいる70歳の伯母・芳子の要望で、彼女の身の回りの品をとりに、伯父の家に行くことになった。しかし、伯父の前近代的で男尊女卑の塊のような言動に呆れてしまい、それ以後は、伯父の留守中に伯母の用事を済ますようになる。
 そしてあるとき、伯母から「伯父の部屋にある紙袋を取ってきてくれ」と頼まれて訪れた卓也は、伯父の撲殺死体を発見してしまう。そして紙袋もなくなっていた。卓也は大学のサークルの先輩・香西(かさい)に相談したのだが・・・
 探偵役の香西の推理で解決かと思いきや、さらにもうひとひねり。


 巻末の「あとがき」によると、「すべての短編に共通する点がある」とあるのだけど、それが何かは分からなかったなあ。
 強いて言えば、どの作品もラストはそれなりにハッピーに終わること?



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アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 有栖川有栖選 必読! Selection 10 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection10 アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection10 アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/04/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 夜明日出夫(よあけ・ひでお)は元刑事のタクシードライバー。ある女性客を乗せたことが縁で初恋の女性に再会するが、彼女は殺人事件の容疑者になってしまう。
 しかし彼女には、犯行時刻に現場から300km離れた場所にいたという鉄壁のアリバイがあった・・・

* * * * * * * * * *

 夜明日出夫は38歳のタクシードライバー。3年前、警視庁捜査一課の刑事だった夜明は、ある殺人事件の関係者とトラブルになった。彼に落ち度はなかったのだが、マスコミに漏れて騒がれたことの責任を取って辞職、妻子とも別れてしまっていた。

 ある夜、夜明は東京駅から三十代前半の女性を乗せた。その客が席に忘れていった荷物を届けたことから、彼女の名が高月静香(たかつき・しずか)であることを知る。

 二週間後、夜明が上野駅から乗せた女性客の目的地は、神奈川県の逗子にある大町千紗(おおまち・ちさ)という女性の屋敷だった。女性客は千紗の従姉妹で盛岡に住む小日方律子(こひなた・りつこ)だった。

 偶然ながら逗子は夜明の故郷であり、彼と千紗は幼馴染みであった。6歳差だった二人はお互いに恋心を抱いていたものの、資産家の一人娘で豪邸住まいの千紗に対し、父の急逝で大学を中退し20歳で警官になった夜明とは釣り合うはずもなく、二人の仲は自然消滅していた。

 久しぶりの再会に喜ぶ二人。32歳の千紗は未だ独身だったが、ある理由から自分は生涯独身を貫くつもりだと夜明に告げるのだった。

 その5日後、夜明が運転していたタクシーが追突事故に遭ってしまい、彼は会社から療養休暇をとるように命じられる。
 しかしそこに警察官時代の知人で愛知県警の刑事・丸目平八郎(まるめ・へいはちろう)が見舞いにやってくる。愛知県蒲郡市で殺人事件があり、その捜査のために上京し、ついでに夜明のところに寄ったのだという。

 被害者は料亭経営者・高月静香。かつて夜明が乗せた客だった。それを知った丸目は夜明を捜査の協力者に引っ張り込むことに。
 現場の電話横のメモ用紙には、被害者が書いたと思われる「チサ」の文字が。静香が東京出身だったことから、犯人は東京時代の知り合いにいるとみた捜査陣は、静香の高校の同級生に「大町千紗」がいることを突き止めていた。

 容疑者として浮上した千紗だったが、犯行推定時刻の一時間後には逗子の屋敷にいたという証言があった。一時間で蒲郡から逗子へ300kmの移動は不可能だ。彼女のアリバイは鉄壁かと思われたのだが・・・


 中盤以降は、千紗が真犯人だと睨む丸目と、あくまで潔白を信じる夜明が対立する様子が綴られていくのだが、その夜明が千紗の弄したトリックに気づいてしまうという、なんとも皮肉な展開に。

 本書の初刊は1990年。この3年前の87年には『十角館の殺人』(綾辻行人)が刊行され、"新本格ブーム" が巻き起こっていた頃。そんな中で発表された本書だが、メインとなるトリックは従来の「アリバイ崩しもの」の枠に収まらず、むしろ新本格ミステリで使われるような、意表を突いた大がかりなもの。
 逆に言うと、新本格を多く読んできた人の方が見抜けるかも知れない(私もけっこう早い段階で見当がついたし)。
 この頃の新本格ミステリの作家たちはほとんど20代だったはず。それに対して、笹沢左保氏はこの年に還暦を迎えている。しかしそんな若い作家たちに負けないぞ、と云う意気込みで本書を執筆したのかも知れない。

 タイトルの「アリバイの唄」だが、これは夜明が千紗の潔白に疑いを抱くきっかけとなったもの。どこでどんな唄が出てくるのかは、読んでのお楽しみだろう。



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沈黙の狂詩曲 精華編 Vol.1 & Vol.2 [読書・ミステリ]


沈黙の狂詩曲 精華編Vol.1 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)

沈黙の狂詩曲 精華編Vol.1 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)

  • 作者: 日本推理作家協会
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/05/11
  • メディア: 文庫
沈黙の狂詩曲 精華編Vol.2 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)

沈黙の狂詩曲 精華編Vol.2 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/06/16
  • メディア: 文庫




評価:★★★


 2016年~2018年の3年間に発表されたミステリ短編から、30作を選んで編まれたアンソロジー。『沈黙の狂詩曲』にはそのうち半分の15編を収める。
 残りの15編は『喧噪の夜想曲』に収録されており、こちらも文庫化されている。

**********

《Vol.1》


「三月四日、午前二時半の密室」(青崎有吾)
 作者の短編集で既読。
 女子高校の卒業式があった日の午後、クラス委員の草間は卒業式を休んだクラスメイト・煤木戸(すすきど)の家へ卒業証書を届けにやってきたのだが・・・


「奇術師の鏡」(秋吉理香子)
 敗戦直後の東京。傷病兵の栄作は戦災孤児の正志を拾い、奇術を仕込み始める。そして正志の実家にあった高価そうな鏡を手に入れるのだが・・・
 ミステリと云うよりは、いわゆる "奇妙な味" の作品か。


「竹迷宮」(有栖川有栖)
 ミステリ作家・松丸は、実家に戻って小説を書いている昔の仲間・冴木のもとを訪れるのだが・・・
 ミステリと云うよりはホラー。


「銀の指輪」(石持浅海)
 作者の短編集で既読。
 ヒロインは殺し屋。請け負った対象の男を尾行中に奇妙なことに気づく。既婚者なのに浮気をしており、しかも相手に会うときに限って結婚指輪をしていることに・・・
 指輪一つから導き出される推理が秀逸。


「妻の忘れ物」(乾ルカ)
 ヒロインの女子大生はショッピングビルの忘れ物センターでアルバイト中。ある日、年配の女性が亡夫の形見でもある「くつべら」を探しに来るが・・・
 日常の謎系ミステリ。人によってモノの価値は大きく変わる。歳をとればなおさらか。


「事件をめぐる三つの対話」(大山誠一郎)
 作者の短編集で既読。
 殺人事件を巡る警察署内で交わされる会話が三つ。終わってみると真犯人が捕まっているという、一風変わった構成だが、ミステリとしてはきっちり。


「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」(織守きょうや)
 亡父の遺産を相続する三兄妹だが、実は異母兄がいたことが発覚。若手弁護士・木村は行方不明になっている異母兄を探し始めるが・・・
 シリーズものの一編。なんとなくオチは見当がついたよ。


《Vol.2》


「署長・田中健一の執念」(川崎草志)
 キャリア組なのにやる気ゼロの署長・田中が、何にもしないのに事件を解決してしまうというユーモア・ミステリ。
 往年のコンビ芸人・アンジャッシュの "勘違いコント" を思い出したよ(笑)。


「不屈」(今野敏)
 女性刑事・水野と女性新聞記者・山口が、水野の同期の刑事・須田について語る話。行動が鈍重なのでバカにされがちだった須田の、意外な一面が明らかになる。


「などらきの首」(澤村伊智)
 新之助の田舎には、「"などらきさん"が棲んでいる」という不思議な言い伝えがある。洞窟にはその白骨化した "首" まであった。だがある日、その "首" が忽然と消えてしまう。
 ミステリ的に解決される部分もあるが、最後はホラーに着地。


「迷蝶」(柴田よしき)
 還暦を過ぎ、カメラで蝶の写真を撮りはじめた孝太郎。趣味を通じて杉江という男と知りあうのだが・・・。二人の過去が明らかになるにつれて高まるサスペンス、たっぷりとひねりの効いた幕切れ。上手い。


「蟻塚」(真藤順丈)
 シドとアサカ、二人の警官がパトロールする行く先に、次々と事件が巻き起こる。うーん、どうもこの人の文章とは相性が悪いようです。どこが面白いのかよく分からないのは私のアタマが悪いから?


「美しき余命」(似鳥鶏)
 作者の短編集で既読。
 2年半前、家族は事故死して僕はひとりになった。いまは秋葉家に引き取られ、なに不自由なく暮らしている。だけど僕は不治の難病にかかっていて、3年以内に死ぬことが確定していた・・・
 終盤の展開は、若い頃の筒井康隆が書いてた不条理小説を彷彿とさせる。


「三角文書」(葉真中顕)
 遙かな未来、超古代文明の遺跡から見つかった謎の文書(実は将棋の棋譜)の解釈を巡り、研究者たちの討論が始まる・・・
 これ、ミステリじゃなくてSFだよねえ。


「ホテル・アースポート」(宮内悠介)
 宇宙エレベーターが設置された島にあるホテルで、密室殺人が起こる。
 動機もトリックもこの舞台ならではのもので、よくできたSFミステリ。


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本陣殺人事件 [読書・ミステリ]


金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01

 旧家・一柳(いちやなぎ)家当主の婚礼の夜、離れ座敷で新郎新婦が惨殺された。周囲に降り積もった雪には足跡ひとつなく、完璧な密室と化していた・・・
 日本ミステリを代表する名探偵のひとり、金田一耕助の初登場作品にして、日本家屋を舞台にした密室殺人の嚆矢ともなった、ミステリ史的にも重要な作品。
 表題作のほか、中編2作を収録している。

* * * * * * * * * *

 これから月一ペースで角川文庫の〈金田一耕助ファイル〉全20作を再読していこうと思う。みな高校~大学の頃に初めて読み、その後も読み返したことのある(多いものは4~5回くらい)作品ばかりなのだけど、最後に読んでから20年以上経つので、もう一度読んでみようと思った次第。
 これが私の人生で最後の "金田一耕助体験" になるかも(おいおい)。


「本陣殺人事件」

 岡山の旧家・一柳家は、江戸時代には宿場の本陣(参勤交代する大名の宿泊所)となっていた名門の一族。その当主・賢造は、若い頃に大学の講師をしていたが、現在は郷里に帰り、市井の研究者としてしばしば論文を発表するなど学者肌の人間。
 時に昭和12年(1937年)、その賢造が妻を娶ることになった。相手は岡山で女学校の教師を務めていた久保克子。賢造の周囲は反対したが彼はそれを押し切り、結婚へと至った。
 しかしその婚礼の夜、悲鳴と琴の音が響き、夫婦が初夜を過ごすはずの離れ座敷で二人の惨殺死体が発見される。しかも周囲に降り積もった雪により、離れは完璧な密室へと化していた・・・

 西洋で生まれたミステリを "和" の世界で見事に再構成してみせた、横溝正史の代表作のひとつだろう。犯人の動機があまりにも前近代的なんだが、90年近い昔が舞台だからね。もうほとんど ”時代ミステリ” になってるのだろう。

 式の数日前から一柳家の周囲には三本指の男が出没し、不気味な雰囲気を盛り上げる。現場には家宝の名琴や三本指の血痕のついた金屏風など、日本ならではの舞台装置も。
 しかし今回再読して感じたのは、和のテイストや不気味な雰囲気は、あくまでミステリの土台作りに過ぎず(横溝はそれが抜群に上手いのは周知のことだが)、その上にきっちりとした建造物をつくりあげていることだ。
 上にも書いた三つ指の男もそうだが、一柳家の一族、とくに賢造の弟妹たち、そして分家の当主など、みなキャラ立ちもしっかりしていて、かつ腹に一物抱えていそうで実に胡散臭い(笑)。さらに賢造の残した日記の内容など、事態を錯綜させて読者をミスリーディングさせる材料には事欠かない。

 本書は "あの密室トリック"(これもまた有名かつユニークで、後の世に与えた影響も大きい)で語られることが多いが、そのトリックの周囲を何重にも、読者を煙に巻くカラクリで囲い込むという堅牢なつくりをしていることに、改めて気づかされた。しかもそれを文庫で200ページという長さにきっちり収めている。やっぱり横溝正史はスゴい。


「車井戸はなぜ軋(きし)る」

 江戸時代から続く本位田(ほんいでん)家と秋月家は、K村を代表する名家だったが、維新後の混乱を上手く乗り切って財を成した本位田家に対し、秋月家は没落していった。
 大正7年、本位田家と秋月家に同時に男子が誕生したが、秋月家当主・善太郎は前年に病で半身不随の身となっており、二人の子はいずれも本位田家当主・大三郎のタネであることは公然の秘密だった。当然ながら二人はよく似た容姿を示して成長した。
 昭和17年、二人の男子・本位田大助と秋月伍一(ごいち)はそろって出征するが、終戦後に大助のみが復員してくる。しかし周囲は疑いの目を向ける。あれは本当に大助なのか。実は伍一ではないのか・・・

 本作は大助の妹・鶴代の手記を金田一耕助が再構成した、という設定で語られる。復員兵の正体を巡る入れ替わり疑惑など、後の『犬神家の一族』でも使われたシチュエーションだったりと、なかなか興味深い。


「黒猫亭事件」

 昭和22年、東京の外れにあるG町を巡回していた警官は、「黒猫」という名の酒場の裏手にある寺の庭で、ひとりの男が穴を掘っている場面に遭遇する。男は寺の見習い僧・日兆だった。そして日兆が掘っていた穴の底には女の死体が。しかし腐乱していて顔の判別がつかない。
 酒場「黒猫」は改装工事で現在休業中。そこには経営者夫婦に加えて3人の娘がいたことから、死体の主はその4人の女のうちの誰かと思われたが・・・

 冒頭に、作家Y(横溝正史自身がモデルと思われる)と金田一耕助の会話があり、そこで「顔のない死体」の事件の例として、この「黒猫」の事件を語られていく、という導入。
 死体の顔が判別できないミステリの場合、「被害者と加害者が入れ替わっている」という真相がほとんどだ、と耕助は云う。しかしこの事件はこの "公式" に当てはまらない事件だというのだ。
 作者は最初から可能性の一部を排除してしまってから書いているわけで、それだけ本作のアイデアに自信があったのだろう。実際、「顔のない死体」にもうひとひねり加えた "合わせ技" になっていて、ありきたりの作品とは一線を画していると思う。



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